「CIOは変革の主役になれる」──アクセンチュアAIセンター長が語る、日本企業が全社AI展開を成功させる鍵
保科学世(ほしな・がくせ)アクセンチュア 執行役員 ビジネス コンサルティング本部 データ & AIグループ日本統括 AIセンター長 アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京共同統括 博士(理学)。アクセンチュアのアナリティクス、AI部門の日本統括として、Accenture AI HUB PlatformやAccenture AI Powered Servicesなどの各種開発を手掛けると共に、アナリティクスやAI技術活用した業務改革を数多く実現。また、先進R&D拠点「アクセンチュア・アドバンスト・AIセンター京都」の所長として、AI研究・開発を推進。『生成AI時代の「超」仕事術大全』(共著、東洋経済新報社)、『AI時代の実践データアナリティクス』(共編著、日本経済新聞出版)など著書・監修書多数。一般社団法人サーキュラーエコノミー推進機構理事。 日本企業を阻む「パイロットの壁」──グローバル比較で見えた課題 保科氏はまず、世界と比較しての日本企業のAI活用について、アクセンチュアのグローバル調査を紹介した。日本企業のAI活用における特徴的な傾向として、「グローバルではパイロットから本格展開に進んでいるが、日本は圧倒的にパイロット率が高い。パイロットから本格展開に進んでいない」と指摘する。 POC(概念実証)の壁は越えた。一部の業務や部署でAIの適用も始まっている。しかし、そこから全社展開へと進めない企業が多い。これが日本企業が直面する「パイロットの壁」だ。 Accenture さらに懸念される調査結果もある。2026年の成長見通しについて、グローバルでは成長加速を見込む企業が多い一方、日本では成長減速を予想する企業の割合が高いという結果だ。AI投資についても、グローバル企業の多くが投資増を回答しているのに対し、日本では投資減少を考える企業が一定数存在する。世界がAI時代に向けてアクセルを踏もうという時に、ブレーキを踏むようなものだ。 一方で、注目すべき傾向もある。日本企業は、AIを人間の置き換えではなく業務支援として活用する傾向が強いのだ。「新たな人員増を伴わず、AI活用で人材ギャップに対応する」という調査項目では、日本企業が際立って高い数値を示した。この人間中心のアプローチは、適切に展開できれば強みとなる可能性がある。ただし現状では課題も明確だ。グローバルと比較して、AIアウトプットへの不信を挙げる企業はグローバルの約2倍。インフラ制約やデータ品質への懸念も高い。 Accenture 業務・人材・AI基盤の『三位一体』――なぜIT部門だけで進めると失敗するのか では、なぜ日本企業はパイロットから全社展開へと進めないのか。保科氏は「人と組織の問題が大きい」と分析する。 一部の業務で小規模にAIを活用するだけなら、限られた専門家で対応できる。しかし全社規模に展開するとなると話は別だ。スケール時のパフォーマンス、セキュリティ、運用体制、そして動きの速いAI技術に合わせて継続的に進化させなければならない。「一部の小さな専門家チームで回しているうちはいいが、それを全社規模で発展、維持できるのかが日本企業のネック」と保科氏。 そこで強調するのは、業務変革、人材変革、AI基盤の「三位一体」での取り組みだ。業務プロセスを再設計し、人材をリスキリングし、全社のAI基盤を整備する。保科氏は、次のように説明する。「業務、人、AI基盤。この三つの変革が三位一体で必要である。これができないと、エンタープライズ(全社)の改革にはならず、一部の業務でAIを使っているにとどまってしまう」 Accenture 生成AIが従来技術と根本的に異なるのは、業務の在り方そのものを変える潜在性を秘めた技術であるという点だ。従来型AIは構造化データで予測や分析を行うものだった。しかし生成AIは、全社の知識、文書、会話といった非構造化データを扱う。暗黙知の形式知化であり、人の判断や例外処理も業務プロセスに組み込む必要がある。 もう一つの大きな違いは技術進化の速度だ。AIは今使っている技術が半年後、1カ月後には陳腐化しているというスピード感で進んでいる。そうした前提で、エンタープライズのシステムを維持していかなければならないと保科氏は指摘する。 こうした変化に対応するため、保科氏は役割分担の必要性を説く。既存ITの維持とAIによる業務変革、そのすべてをマルチにこなせる人材は少ないからだ。「CAIOはビジネスとAIとIT、これをつなぐ役割を担う。一方でCIOは基盤のセキュリティ、運用、スケールにフォーカスした方が、人材としては見つけやすい」。もっとも、肩書にこだわる必要はない。重要なのは、複雑化する責任領域を適切に分担することだ。 CIOの役割はどう変わるのか。従来のCIOは、社内システムを限られた予算で維持することが主な役割だった。しかし生成AI時代のCIOには、技術を使ってどう業務変革していくかが求められる。「単なる業務の自動化ではなく、そもそも業務の在り方を変える。システムも変わるが、何より業務が変わる」。柔軟性が問われる一方で、信頼性も担保しなければならない。難しさが全く違ってくると保科氏は語る。 成否を分ける最大の要因は「CEOのコミットメント」 AIの全社展開を成功させる最大の要因は何か。保科氏は「一番大事なのはCEOのコミット」と言い切る。 多数の企業を見てきた経験から、うまくいかない企業には共通のパターンがある、と保科氏。CEOにAI変革の提案をして、ノーと言われることはまずない。問題はその後だ。CEOがCIOやCTOに丸投げしてしまうケースは失敗するという。 そのため、CEOが最後までリーダーであり続けることが大切という。「実行責任者はCIOかもしれないが、リーダーはあくまでCEOでなければならない」ーーここが成否を分けるポイントと言えそうだ。 その理由は、AIがもたらす変化の本質にある。アクセンチュアの調査によれば、労働時間の44%が「生成AIによって自動化されるか、大きく強化される可能性が高い」と回答している。業務の半分近くが変わる変革を、ITの責任者だけでリードすることはできない。企業を率いるCEOのリーダーシップが不可欠だと保科氏は強調する。 全社変革を進める上で、保科氏が重視するのは具体的な未来像の共有だ。AI導入への抵抗には二つのタイプがある、と保科氏は分析する。一つは現状維持への固執、もう一つは漠然とした不安だ。後者は、AIがもたらす具体的な未来像を示すことで緩和できる。そこで技術検証のためのPOCではなく、業務がどう変わるのかをビデオやデモで実際に見せることが有効だという。 経営層の意識改革を支援する場として、アクセンチュアは2024年、京都にAIセンターを開設した。基本的には経営トップ向けの施設で、社長と役員が集まり、およそ半日かけて全社変革の姿を具体的に体験する。全役員が自社の業務がAIでどう変わるのかを一緒に確認し、コンセンサスを形成する。部門間で導入の優先順位を巡って競争が生まれることもあるという。経営層全員が同じ未来をイメージし、それに向かって進んでいく。この共通認識の形成が極めて重要だと保科氏は強調する。 人材戦略も欠かせない。特にAI人材をどう確保するかは大きな課題だ。これについて保科氏は、すべてを社内で育成する必要はないと説く。「すべてを内製化する必要はないが、すべてを外部に任せるのも間違いだ。外部のスピードと専門性を活用しつつ、自社のコアとなるデータ、業務、ガバナンスについては社内で人材を確保すべきである」。技術進化のスピードが速い中、良いパートナーと組みながら社内のケイパビリティを高めていくバランス感覚が重要だという。 同時に、業務の在り方が大きく変わる中で、人の役割がどう変わるのかを考えなければならないという。「人材という大事なアセットをどう活かすのか。そのためにはリスキリングが必要である。同時に、社員の心理的安全性も経営者として考えていかなくてはならない」。業務変革に向けたリスキリング、そして従業員の心理的安全性の担保まで含めて考えていくことが必要だと保科氏は強調する。 アクセンチュア自身が実践するAI変革──全社員が「作れる」レベルへ アクセンチュアは「顧客に提供する前にまず社内で」という哲学のもと、自社でも大規模なAI変革を実践している。同社はグローバルで数十万人規模のアウトソーシングビジネスを展開しているが、そこで請け負っている業務を現在、AIエージェントに置き換える取り組みを進めている。特にインドのAIセンターが中心となり、この転換を急速に進めているという。 加えて、全社員がAIエージェントを「使える」のではなく、「作れる」レベルを目指したトレーニングも実施している。マーケティング担当者も含め、全社員がAIエージェントを作成する。もちろん、ガバナンスの取れた統一基盤上での話だ。ハンズオントレーニングを通じて、ほぼ全社員がこのレベルに到達しつつあるという。「使えるのは当たり前で、作れるという世界まで持ってきている」と保科氏は語る。 こうした変革により、働き方そのものに変化が見られるという。オフィスでの作業はAIエージェントに任せ、社員は顧客先でのコミュニケーションや、まだデータ化されていない情報の収集に注力するようになった。社内で黙々と資料を作るような時間は大幅に減少しているという。 急速な技術進化に対応するため、アクセンチュアは外部パートナーとの協業も重視する。変革を加速するための手段だという。 CIOへのメッセージ──変革の主役になるために 最後に、保科氏はCIOをはじめとする技術責任者に向けて、力強いメッセージを送った。 「変化が要求される世界になっている。だからこそ、変化を前向きに捉えてほしい。CIOや技術側の責任者はシステムの保守役から、CEOとタッグを組んで経営にダイレクトにインパクトを与えることができる立場になれる時代なのだ」 Accenture そのためには、まず自分自身が未来をイメージする必要があるという。新しい技術で会社がどう変わるのか、その未来をちゃんと思い描く。それを具体化して、経営陣にどう見せられるのか。そこに力を入れていかなければならないと保科氏は説く。 想像力が問われるが、「世の中で何が起こっているのかをよく見て、それが自分の会社だとどうなるのかを想像すると良い」という。保科氏自身、そのために「インサイドプリズム」という未来予測AIを開発し活用している。複数の専門家エージェントがディスカッションしながら、特定のテーマについて時系列で未来シナリオを描き出すAIだ。これを相手に数時間議論をするCEOもいるという。 AI活用の巧拙は、企業の命運を分ける。「差は確実につく。生き残れる企業とそうでない企業の分かれ目になる」 だからこそ、CIOには大きなチャンスがある。「新しい技術を使う会社全体の変革において、CIOは主役になれる。ぜひ主役になっていただきたい」と保科氏は語った。 Read More from This Article: 「CIOは変革の主役になれる」──アクセンチュアAIセンター長が語る、日本企業が全社AI展開を成功させる鍵 …

