自社製AIで休退職を予測!技術者派遣のアビストのメンタルヘルス不調への取り組みとは

8割以上の労働者がストレスを感じている

厚生労働省は7月25日、2023年の「労働安全衛生調査(実態調査)」を発表した。この調査によると、過去1年間(2022年11月1日から2023年10月30日、重複回答あり)の間にメンタルヘルス不調により連続1カ月以上休業した労働者や退職した労働者がいた事業所の割合は13.5%(2022年は13.3%)、情報通信業界では32.4%と3割近い事業所でこうした問題を抱えている。さらに事業所の規模が大きくなるほど休業した労働者がいる事業所の割合が高くなるという。

それだけではない。「現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合」は82.7%(2022年は82.2%)にも上り、8割以上の社員がメンタルヘルス不調の予備軍となっているのである。

従業員一人(30代後半、年収約600万円男性)が休業したときに周囲の従業員が残業して手伝うという仮説を立てた場合、休職前の3か月で約99万円、休職期間6カ月で約224万円、休職後の3か月で約99万円、計422万円のコストがかかるといわれている(2008年の内閣府の調査)。メンタルヘルス不調による休退職は企業にとっては経営関わる切実な問題なのである。

それでなくとも人手不足でIT人材の人件費は暴騰している。経済産業省の推計によると、2030年までにIT人材の不足は約45万人に達する見込みだ。そのような中でメンタルヘルス不調は、もはや企業として無視できない問題であることがわかるだろう。

ところが今の仕組みでは本人が上司に対して自分がメンタルヘルス不調であることを申告しなければ問題が明らかにはならない。

しかし企業戦士たちは厳しい競争を強いられている。そのような中で自分がメンタルヘルス不調だとは、なかなか言い出せないのが現実だ。そのため上司に申告するときには、すでに症状が悪化し、休職せざるを得なくなっているケースが少なくない。

そこまで悪化する前に事前にチェックすることはできないのか。そんな思いを抱いて新しい取り組みを始めたのが自動車業界を中心に技術者を派遣するアビストだった。

こうした取り組みを推進してきたアビストのデジタル推進部門の部門長兼執行役員の山浦雅生氏は次のように語る。

「メンタル不調は早期発見早期対処が鉄則になりますが、早期ですと本人にも自覚症状がないケースなどもあり面談だけでは発見する事ができず、重症化してから気づくようなケースもありました。その様な状況を踏まえ、できるだけ早く社員の異変に気付ける方法がないかという事で開発がスタートしました」(山浦氏)

休退職予測ツールで離職率を改善

アビストが開発した「休退職予測ツール」の仕組みはこうだ。

このシステムを運用するデータ推進部門デジタルソリューション開発センターの2人の担当者が約1200人の従業員の勤怠管理データを毎月入力。このデータを元にAIが従業員の健康状態を分析する。

そしてAIは必要に応じて該当者に簡単にコンディションが可視化できるニコニコマークのようなものを付けて、「残業が多くなっているので少しケアが必要ですから注意してください」「最近の有休取得日数が〇日と非常に少ないため、心身の健康を保つためにも休暇を積極的に取得することをお勧めします」「最近の働き方を見直すことが重要です。残業合計が平均〇〇時間と高めであり、実働時間も〇〇〇時間と多くなっています」といったリコメンド(推奨)と予測に至った理由を表示し、管理者(約20人)に対して送信する。

これを受けとった管理者はウェブサイトで確認し、該当する従業員本人にAIが指摘しているような問題が実際にあるのかどうかを確認する、という仕組みになっている。

こうした取り組みに対して従業員からは「社員の細かな勤怠変動に早期に気づくことができ、社員フォローに役立っている」「将来的には、予測だけでなく懸念される社員のフォローをタイムリーにサポートしてくれる機能があればありがたい」といった声も上がっており、従業員の「モチベーションの向上」や「休職・退職防止」のサポートに繋がっているという。

開発が始まったのは2021年ごろから。AIソリューション事業部(現イノベーションセンター)が開発に着手、その後2022年8月からは新設されたデジタル推進部門傘下のイノベーションセンターとデジタルソリューション開発センターがそれを引き継ぎ、連携してシステム開発を進めてきた。そもそもなぜこうしたシステムが開発されたのか。

アビストは人材サービスの企業ということで、従業員をフォローする時間を設けて、毎月一人ひとり面談をしている。しかし面談をしてもメンタルヘルス不調の傾向が出てしまうと、面談だけでは対応することができない。そのときにはクリニックで受診し、休まなければならない。

そうした問題を未然に検知する方法はないかということで検討されたのが、勤退管理データを活用した休退職予測ツールだった。

「要は何時から出勤して何時に退社するのか、残業どれぐらいあるのか、という勤怠管理のデータを活用して何か予測できないか、考えてみたわけです」(山浦氏)

勤怠管理データとは日々の勤怠管理で収集した従業員の勤怠状況についてのデータで主に 年休、出社、退勤、入社年度、年齢、部署、勤務時間などの情報だ。

実際にAIを活用してデータを分析してみると一定の傾向が読み取れることが分かった。

「その傾向を使ってモデルをつくり、毎月の勤怠データを入力していくと、メンタルヘルス不調などの問題が発生しそうな場合にはアラートが表示されるシステムを開発したわけです」(山浦氏)

15年間の勤怠管理データをAIが学習

休退職予測ツールを構築していくためにはAIに学習させなければならない。

この時の学習方法は「教師あり学習」。事前に人間が用意した正解データをもとに学習させる方法だ。

このとき使用したデータは新しく集めてきたものではなく、すでに残っている過去約15年分のデータを活用した。過去のデータを活用した「教師あり学習」の方が予測の根拠が明確になりやすいためだ。

このほかにもこんな理由がある。

「一般的にはアンケートを使ったり、その都度対象者にいろいろ入力したりしてもらうようなシステムはあります。しかしわざわざ手を加えてデータを集めることをせずに、今あるデータを使って『休退職予測ツール』を作ることができるのではないかと考えて開発を始めたのが休退職予測ツールです」(山浦氏)

実は他社が提供している「休退職予測ツール」もあるが、独自のアンケートなどを実施する必要があり、利用までにデータを準備する手間がかかるのだという。

これに対してアビストでは、過去退職に至ってしまった社員や不調を抱えている従業員のデータを集めて、同じような傾向がないかをシステムを運用しているメンバーが毎月、チェックし、データを入力する。

開発で難しかったのは勤怠管理データの整理と予測に使うデータの選定だ。

「『時刻』や『早退』、『年休のとり方』も『午前中が多い』、『午後が多い』、『残業』『月の傾向』などなどいろいろな要素データがあり、それに合わせていろいろそのデータを整理していて、精度を上げるためには、パターンをいくつも考えることが必要でした。やはり一定の精度の出せるモデルを作り出すまでには非常に時間がかかりました」(山浦氏)

一定の精度を出すためには機械学習のアルゴリズムの検証や、データの組み合わせ検証、入力値の選定などの検証結果を見ながら調整を行った。どの入力値が予測に有効なのか、組み合わせは何がベストなのかを繰り返し検証しながら選定した。

新しいシステムは2022年6月からテスト運用され、2023年4月から正式に運用が開始されている。すでに導入して1年以上たつが、どのような成果があがっているのだろうか。

「全体的にはメンタルヘルス不調の早期発見につながってきていると感じています。またその結果を元にフィードバックをしておりまして、その中の感覚的には8、9割ぐらいは『合っている』という現場の評価をもらっています」(山浦氏)

アビストでは面接で発見できなかったメンタルヘルス不調の従業員を年に2、3人早期発見しており、管理者側からも「面談で気づけなかった異変を未然に発見することができ、早期発見早期対処ができた」「引き続き利用したい」という声があがっているという。

今後は「早期発見早期対処をサポートできる様に精度向上に向けた改善を実施し、将来的には予測だけでなく防止につなげられるシステムにしていきたい」(山浦氏)という。

システムの内製化とAI活用のポイントについてConvergence Lab.の代表取締役社長、木村優志氏は次のように語る。

「AIを活用してシステムを内製化する場合、2つのポイントを考えなければなりません。一つは内製化に向いたシステムなのかどうか、ということです。ERP(enterprise resource planning)のように広く普及していて価格もそれほど高いものでなければ、わざわざ内製化をする必要はないと思います。一方で自分たちだけが使うものや、既製品はあるものの自分たちで開発した方が安く上がるようなものは内製化に向いています。

AIの活用については、パターン化しやすいものが向いています。私も富士通でAI開発をしていたころに、休退職予測ツールを社内向けにつくりましたが、非常に精度の高いものができました。こうしたシステムは内製化に向いていると思います。また工場の機械の故障や橋のビスの緩みなどを検知するような仕組みもAIの活用に向いていると思います」


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Source: News

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AIの「H」から抜け出す

旧石器時代に生き残るためには、狩猟と採集ができなければなりませんでした。農耕時代には、繁栄とは農業ができることを意味しました。脱工業化時代の現在では、人工知能を使いこなせなければなりません。以上。これに議論の余地はありません。

でも「マスター」という言葉は適切ではないかもしれません。ライオンから逃げ切るように走り抜け、この時代で競争力を維持するには、AIで他の人より優れてる必要があります。しかし、それは何を意味し、どうすればいいのでしょうか。

現実には、現在それを本当に理解している人はほとんど、あるいはまったくいないと言えます。そしてその主な理由は、AIに関する会話がまるで霧の中に追いやられたように、わかりにくくなってきたことにあります。

誰もがAIに夢中になっています。これは、1630年代のオランダのチューリップバブルや1720年の南海泡沫事件のようなものなのかどうかは定かではありません。しかし、私たちが脱しなければばならない3つのH、すなわちHyperbole(誇張)、Hype(賛美)、Hysteria(熱狂)という形でのAIに対する多くの狂気により、現在のテクノロジーにおける潜在的な可能性を最大限に活用する道が閉ざされています。

これには、次のような例が挙げられます。旅行とホスピタリティの分野で活躍するあるコンサルタントは、「AIは、火と車輪の発明以来、技術的に最も重要な変革だ」と断言しています。HPのCEO、エンリケ・ロレス氏は、ダボスで経営幹部レベルの同僚たちに、AIと他の主要なビジネスドライバーとの関係を理解していなければ、「1年後にはこの部屋にいないだろう」と述べています。あるベンダーのCEOはクライアントのCEOに、AIのおかげで「私たち一人ひとりが新しい職務経歴書を書く必要がある」と語りました。そして、AIの申し子であるサム・アルトマン氏は、AIチップ開発に7兆ドルを投資するよう働きかけています。

CEOや取締役会は、取り残されたくない、「遅れている」というレッテルを貼られたくないという思いから、AIに取り組んでいます。ベイン・アンド・カンパニー、ボストン・コンサルティング・グループ、マッキンゼー、アーノルド&ポーターなど、「ホワイトシュー」と呼ばれる一流の専門サービスを提供する企業では、CEOや役員の4分の1近くが個人的に生成AIツールを業務に活用しています。

しかし、本質に迫る方法はあるのでしょうか。そうするには、霧から抜け出すしかありません。

本質を明確にする

2024年、私はAIへの熱狂の渦中に身を投じ、一連の経営幹部向けリトリートで、IT投資が行われ、持続可能な競争力が生み出されるプロセスに正気を取り戻そうとしています。

私はAIへの熱狂のデトックスを、私たちが今置かれているテクノロジーの瞬間を歴史的文脈の中に位置づける一連の演習から始めます。私は幹部たちに、「最先端テクノロジーで最も印象に残っている経験」を詳しく話してもらいます。回答者の95%以上が、最先端テクノロジーについて個人的に楽しい、あるいはポジティブな経験を語っていることに、私は嬉しい驚きを感じています。このような上層部は、テクノロジー嫌いでないのです。彼らは「間違ったやり方が嫌い」なのです。

次の演習では、経営幹部たちに現在の「AIの現状」を最もよく表している映画、テレビ番組、文学作品、芸術作品を選んでもらいます。これによって非常に興味深い回答が得られます。次のような、よりダークなアートが挙げられることもあります。『ターミネーター』、『ブレードランナー』、『2001年宇宙の旅』では、HAL(人工知能を備えた架空のコンピュータ)が、人間はプログラムされたミッションの邪魔だと判断します。たとえば、ピカソのキュビズム作品、『エンダーのゲーム』、『ウォー・ゲーム』など、懸念や混乱を反映した警戒すべき回答もあります。そして、ユーモラスで希望に満ちたアートが挙げられることもあります。『スタートレック』、『600万ドルの男』、『ジェットソンズ』などです。

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結局のところ、ローマ法王にも「AI 担当」がいると言われています。CIOとして、あなたはそのような「担当者」になる必要があります。もしくはそのような人とすぐに連絡が取れる必要があるのです。


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