スマホ法は、独占禁止法の一般原則をそのまま当てはめるのではなく、スマホの入口に固有の問題を「類型化して、速く是正する」ことを強く意識した制度です。運用の公表資料でも、法の円滑かつ適切な運用の重要性、指定事業者との対話を通じた遵守促進、遵守されていない場合の厳正対処といった方向性が明示されています。
禁止事項と遵守事項――「やってはいけない」と「整備しなければならない」
公正取引委員会の資料では、指定事業者に対して、一定の行為の禁止と、一定の措置を講ずる義務が課されると整理されています。具体例として、代替アプリストアの提供を妨げる方向の行為、他社の課金システム利用を妨げる行為、リンクアウトや価格情報表示の制限、検索での自社優遇、データの競合利用、OS機能の同等性能利用の妨害などが挙げられています。
重要なのは、これらが単に「条文に触れたらアウト」ではなく、実装や条件付けの仕方によって実質判断され得る点です。たとえば、代替決済を使う事業者に対して、検索順位を下げたり見つけにくい位置へ配置したり、過度な金銭負担を課したり、利用者を自社決済へ誘導するポップアップを出したりする想定例が示されています。これは、表面上は選べるように見えても、実質的に選べない状態を作ると違反に近づく、というメッセージです。
リンクアウトでも同様で、外部誘導情報やリンクアウトの提供を行う個別アプリ事業者に対して、合理的でない技術的制約や過度な負担を課すこと、開発環境を提供しないことなどが論点になります。運用において「制度の趣旨を骨抜きにしない」ことが求められていると読むのが自然です。
正当化事由――セキュリティ・青少年保護とのバランスはどこで取るか
スマホ法の特徴は、競争制限的に見える措置でも、一定の目的のために必要で、他のより制限の少ない手段では達成が難しい場合には、正当化され得るという枠組みが用意されている点です。ガイドライン(暫定訳を含む)では、サイバーセキュリティ、利用者情報の保護、青少年保護、異常動作の防止、犯罪行為の防止といった目的が整理されています。
実務上のコツは、正当化を「スローガン」ではなく「要件」に落とすことです。つまり、目的が何か、その目的達成に当該措置が必要十分か、他の代替策(より競争制限的でない手段)が本当にないのかを、技術的・運用的に説明できる形で残すことが重要になります。後から見れば「安全のため」と言えても、当時の設計資料や社内意思決定のログがなければ、正当化は脆くなります。
リンクアウトの想定例は示唆的です。外部サイトがフィッシングなどに悪用されるリスクを中立的に注意喚起し、遷移後は制御範囲外であることを説明するポップアップは、正当化され得る例として挙げられています。一方で、審査を行わず一律に価格情報や決済画面への誘導を禁止するような設計は、正当化されない例として示されています。安全対策は「具体的なリスク」と「相当な対策」に結びついているかが問われます。
執行とリスク――報告、調査、命令、課徴金、確約
スマホ法は、指定事業者に毎年度の報告書提出を求め、対話を通じた規律の具体化と改善を促す構造を持つと説明されています。単発の摘発で終わらせず、継続的なコミュニケーションを制度に埋め込む点が特徴です。
一方で、違反に対しては、是正の命令や課徴金納付命令などの強い手当ても用意されています。概要資料では課徴金算定率20%と説明されており、抑止力を意識した設計です。コンプライアンス側は、違反の可能性が生じた時点での事実認定、影響範囲の切り分け、是正計画の提示、ステークホルダーとの説明戦略を、独禁法対応と同等かそれ以上に整備しておく必要があります。
確約手続に関する対応方針も公表されており、当局とのコミュニケーションを通じて、早期に改善へ向かう道筋が用意されていることがうかがえます。法務としては「争うか、直すか」の二択ではなく、社会的説明可能性と実務コストを含めて複線でシナリオを持つのが現実的です。