多くの企業がAI活用に踏み切れずにいる。活用すべきとわかっているが、二の足を踏んでいる場合は、以下の3つの条件を同時に満たそうとしているからではないか。
・AIが確実にこなせる業務を見つけること
・実際のビジネス価値を証明すること
・社員の反発や雇用不安を生まずに進めること
この3つは一見、不可能な組み合わせに見える。しかし、3つの条件を同時に満たすスポットは意外なところにあるし、シンプルだ——社員が嫌がっている仕事から始めればいい。
AIが最も得意とするのは、人間が最もうんざりする作業だ。膨大な書類の要約、翻訳、フォームへの記入、PDFからのデータ抽出——そしてそれを何千ページにわたって繰り返すこと。幸いなことに、社員はこうした仕事を嫌だ、面倒くさいと思っている。しかも、そのような作業に割く時間は決して少なくはない。McKinseyの試算では、ナレッジワーカーは実際の業務に入る前の情報収集だけで、勤務時間の約20%を費やしているという。
ここに自然な分業が生まれる。創造的な仕事は人間に任せる——社員は創造的な仕事の方を好むし、AIよりはるかにうまくこなす。単調で繰り返しの多い、月曜の朝が憂鬱になるような作業はAIに任せる。
つまり、「社員が嫌がっている仕事は何か」と問うことが、AIに任せるべき業務を見つける最良の基準と言えるのだ。
AIに任せるべきは「誰もやりたくない仕事」だ
AIに重要な判断を任せろということではない。住宅ローンの審査でも、投資の意思決定でもない。誰もやりたくなくて、急いでやって、ミスが多い——そういう単調な作業だ。
例えば契約書のタグ付け。契約書をアップロードして、会社名、日付、管轄、条項など10〜15の必須フィールドを埋める作業がある。誰も好きではない。退屈な業務なので注意力を注がず、急いで済ませようとするから、ミスが出る。早く終わらせようと「承認」をクリックする。
その作業をAIに任せる。AIがフィールドを事前に埋め、人間が確認する。2時間の苦行が5分になる。リスクは低く、社員の士気は上がり、生産性はすぐに向上する。全員がハッピーになる。
住宅ローンの申請も同じだ。担当者はファイルを開いて、必要な書類が揃っていないことに気づく。源泉徴収票、給与明細、必要な書類——AIはそれを瞬時に検出して差し戻す。判断も意思決定も不要。ただ無駄な手間を省くだけだ。
同じパターンはどこにでも見つかる。RFP(提案依頼書)を適切な担当者に振り分ける、人間が読む前に長い文書を要約する、誰かが触る前に不完全なファイルにフラグを立てる。新しいプロセスではない。同じワークフローが、より速く、よりクリーンに、より苦痛なく動くだけだ。
「人間の作業こそ正確」という思い込みを疑え
ある企業が契約書のタグ付けをAIで試したとき、意外な事実が浮かび上がった。当初、人間がタグ付けしたデータが「正解」で、AIの精度が低いと思われていた。しかし実際に人間の作業を確認したところ、品質は散々だった。
社員が不注意だったからではない。その作業が嫌いだったからだ。医療研究の大規模なシステマティックレビューでは、人間による医療記録の手動抽出のエラー率は6.57%に上ることが確認されている——これは自動化ツールや二重チェック方式と比べてはるかに高いエラー率だ。AIは人間より劣っていたのではなく、優れていた——AIは作業を嫌がらないからだ。そこが突破口だ。
AIが奪うのは判断ではなく面倒な作業
社員がすでに嫌いな作業からAIの導入を始めると、抵抗は生まれない。安堵が生まれる。誰も脅威を感じない。誰も代替されたと感じない。そして、社員には時間という貴重な資源が戻ってくる。
「AIなし」と「AIがすべてを決める」の間には、すでに10〜30%の生産性向上を実現できる広大な領域がある。説明責任の所在を変えることなく、プロセスを書き直すことなく、ただ誰も望んでいなかった仕事を取り除くだけで良い。それが今日、AIが本当に勝てる場所だ。