キャリアの原点は「データを使い倒す」こと ——これまでの経歴について教えてください。 私のキャリアは米国で始まりました。米国企業に入り、英語でコミュニケーションするのが当たり前の環境で働く中で、「自分のスキルで会社に貢献できることは何だろう」と考えたことが原点です。そこで行き着いたのが、「データを使い倒すこと」、そして「データからビジネスの次の一歩を見いだすこと」でした。この軸は以来ぶれることなく、ずっと変わりません。 会社や業界は変わってきましたが、この20〜30年の間、私がやってきたことの本質は変わらないと思っています。データの重要性を常に感じながら、それをどうビジネスに生かすかを考え、実践してきました。 コスモエネルギーホールディングス(以下「コスモ」)の前は金融業界で仕事をしていたのですが、金融の世界では、新しい商品を開発するときも、お客様を理解するときも、ビジネスの次の一手を打つときも、必ずデータ分析が入ります。外資系企業と金融の両方で経験を積んできたことが、今の私の土台になっています。 現在はエネルギー業界にいますが、共通点は驚くほどたくさんあります。私自身の中ではキャリアは「データ活用」というキーワードでずっとつながっています。 ——金融からエネルギーという、異なる業種の企業に移ったわけですが、違和感はなかったですか。 金融とエネルギーには、実は共通因子が多くあります。どのビジネスでもデータが重要なのは言うまでもありませんが、金融にいたときも、コスモに入社してからも強く感じるのは、ビジネスそのものが「人々の生活のライフラインである」という点です。止めてはいけないものですし、常に必要なものですから、その重要性をいかに担保するかは、両方の業界に共通する大きなテーマだと思っています。 一方で、コスモに来て新鮮に感じたのは、エンジニアが非常に多いことでした。発想の仕方がやはり違うのだということを、強く実感しました。 着任して最初の数カ月間は、かなり多くの部署を回り、皆さんの仕事の仕方を見せていただいたり、お話を聞いたりしました。その中で特に印象的だったのは、ラストワンマイルのところでの「ここは絶対に譲れない」というプロ意識と、「ビジネスを止められない」という責任感の強さです。 今、CDOというポジションで強く感じているのは、皆さんがこれまで積み上げてきたやり方は正しい、ということです。ただ、その上で、「もう少し違う視点を入れた方がいいのではないか」という部分もあります。そこに、私にできることがたくさんあると考えています。 データから見えてくるもの、これまで気づかなかったこと、そして少子高齢化を見据えて皆で取り組むべき課題に対して、かなり大胆にメスを入れていけるのではないかと思っています。 AIを中心とするDXに欠かせない「チェンジマネジメント」 ——ご自身のキャリアを振り返って、最も大きな実績を教えてください。 やはり大きいのは、私のバックグラウンドを生かしたチェンジマネジメントだと思います。 人はどうしても、これまでやってきたことに安心感を覚えますし、「今のままでいたい」と思う気持ちが強くなりがちです。私はよく友人に「部屋の模様替えは好きですか?」と聞くのですが、私は意外と模様替えが好きなタイプなんです。思い切って変えてみると頭の中がすっきりしますし、配置を変えることで、それまで見えなかったものが見えるようになる。その変化そのものに楽しさを感じます。 そして実は、こうした「変えてみることで新しい視点が得られる」という感覚は、まさにチェンジマネジメントにも通じる考え方だと思っています。変化を恐れるのではなく、変えることで何が見えるのか、どう前に進めるのかを考える。その姿勢が、組織を動かす上でも大切になるからです。 チェンジマネジメントは、どの会社でどのポジションにいたときも、私の強みとして機能してきました。その力を生かして会社の文化を醸成し、変えていくプロセスの中で、多少なりとも貢献できてきたのではないかと思っています。 現在のコスモでも、チェンジマネジメントはとても重視しています。課題に気づき、そこに向き合い、改善に取り組んでいく姿勢は、AIやデータ活用、DXがこれだけ進む中では、もはや欠かせない要素です。 求められるスキルは時代とともに変わりますし、担うポジションによっても必要な力は大きく異なります。ただ今、日本で特に求められているのは、激しく速い変化の流れの中で、会社としていかにその変化にフィットしていくかということです。その意味でも、チェンジマネジメントという考え方は、これからますます重要になっていくと感じています。 最大の挑戦は「いかにコミュニケーションをスムーズにするか」 ——実績を上げるための最大のチャレンジは何でしたか。それは現職でどのように生かされていますか。 最大のチャレンジは、やはりコミュニケーションだと思います。 自分ではコミュニケーションが武器だと思っていても、話している最中に、相手ときちんと共通言語を持った上で話しているかどうかを、ふと疑問に感じることがあるんです。 コスモに入社してからも、私が「こうすればいいのに」と話しているときに、実は部下が通訳になってくれている場面がありました。同じ日本語ではあるのですが、データドリブンなビジネス改革に携わってきた人にはすぐ伝わる言葉でも、初めて聞く人には理解しづらいことがあります。そうすると周囲のチームメンバーが「ルゾンカさんが言いたいのはこういうことです」と、これまでのビジネスの文脈に沿って分かりやすく翻訳してくれる。そういう方々が、思っていた以上にたくさんいたのです。 その経験を通じて、コミュニケーションの重要性を改めて実感しました。ITの話はどうしても横文字が多くなりがちですが、そのまま伝えてしまうと、DXに取り組もうとする以前に、心理的な壁ができてしまいます。 そうした壁を作らないためには、まず自分が「メンバーの皆さんが慣れ親しんでいる領域」に入っていき、そこから会話を始めることが大事だと思っています。これは今でも苦労していますし、常に意識しています。「いかにコミュニケーションをスムーズにするか」については、あらゆる注意を払って取り組んでいます。 データの重要性は「見せること」で伝わる ——データ活用の重要性を理解してもらうためにご自身が心がけていることはありますか。 データの重要性は、日本企業の中でもまだ完全には浸透していないと感じています。だからこそ、データがどれだけ重要なのかを「口で説明する」だけではなく、できるだけ「見せる」ことを意識しています。「データを活用すると、こんなことができる」という小さな成功体験を積み上げられるように、さまざまな場所に種をまく努力をしています。 口で「データが重要だ」と言っても、なかなか実感は湧きません。「ああ、そういうことか」と腹落ちしてもらうためには、具体的に目に見える形で示し、気づきにつながるものにしていく必要があります。ここは私の強みでもあると思っていますし、特に気をつけている部分です。 データ活用について言えば、現場の皆さんやビジネスのプロフェッショナルが言っていることの8割、場合によって9割は正しいと思います。実際、「データを使わなくても、今のやり方で十分できている」という方も多くいらっしゃいます。 その中で「データを使うと、もっとすごいことができる」と実感してもらうにはどうすればいいのか。例えば前職では、こんなことがありました。 営業の方が「うちはこういうお客様が多い」と教えてくださる時に、私は営業の皆さんほどにはビジネスを深く理解していなかったので、まずはデータを見ながら「なるほど、確かにデータでもそう見えています」と、一度しっかり受け止めます。「このデータを見ると、こういうお客様が多くて、こういう傾向がありますよね」と伝えると、営業の方は「そうそう!」と自信を持つのです。 そこからさらに「それを実感するのはどういう時ですか」と深掘りすると、さらにいろいろと説明してくださいます。その上で「ただ、実はこういうところに気づいていましたか?」と投げかけると、驚かれることが多い。「残り1〜2割の、今まで気づかなかったところに、実はこういうお客様がいらっしゃるんですよ」と伝えると、「え、そうなの?」と反応が返ってくるんですね。 そこで「このデータを見てください。もしかしたら、ここからこういう方向に進むと、意外と結果が出やすいかもしれません」とお話しすると、「ああ、なるほどね」と納得していただけることがあります。 つまり、まずはデータを通じて現場に寄り添い、会話をしながらきっかけをつくる。その上で「こんな視点はいかがでしょうか」と提案すると、スッと受け入れてもらえる。そう感じています。 コスモエネルギーでも、「常にみんなで共有して使えるデータ」を重視し、それを最初に取り組んだことの一つにしました。データガバナンスのような難しい議論をする前に、まずは同じ数字を見て、同じ定義で会話ができる状態をつくることが重要だと思っています。 例えば「これをやろう」と決めたときに、同じ数字を見て議論できる。売上という言葉を使ったときも、同じ数字を前提に語れる。しかも、それが手元でパッと見られて、共有できて、常にアップデートされている状態になっている。そこが、データを身近に感じてもらうための第一歩だと考えています。 自分の強みと弱みを客観視することの重要性 ——これまでに受けたキャリアのアドバイスの中で印象に残っているものがあれば教えてください。 キャリアのアドバイスという形ではないのですが、他の方から言われてハッと気づいたことがあります。前々職のときに、「ルゾンカさんの強みはここだよね」と指摘されたことがあったのです。それが自分にとっては意外で、「え、そこですか?」と思うような内容でした。自分では気づいていなかったところだったのですね。 自分が思っている強みと、周囲の方が「ここがすごい」と評価してくださる部分には、意外とギャップがあるものだと思います。だからこそ、機会があれば「私はここが強みだと思うんだけど、どう思う?」と率直に聞ける相手がいると、とても良いのではないかと感じています。 私自身、チェンジマネジメントが得意だとあまり自覚していなかった時期もありました。でもあるとき、「ルゾンカさん、突破力がすごいね」と言われて、「ああ、そうなんだ」と初めて腑に落ちたんです。 振り返ると、いろいろな会社であだ名がついていたこともありました。「ブルドーザー」と呼ばれたこともあります。「根こそぎ全部を更地にしましたよね」と言われたときには、「でも、その後に花が咲いていますよね。地面をならして種まきをしているんです」と冗談で返したこともありました。 こうした経験を通じて思うのは、自分の強みだけでなく、弱みも含めてきちんと把握していた方が仕事はしやすい、ということです。オールマイティに何でもできる人は、そうそういません。自分が得意なことと苦手なことを、ざっくばらんに言葉にしてみることで、改めて認識できる。それがキャリアにとって大きな財産になるのではないかと感じています。 CDOの醍醐味は「最前線で変革に関われる」こと ——CDOとしての仕事の魅力、やりがいについて教えてください。 最前線のビジネス変革を直接見て、そこに関われることが、CDOの一番の醍醐味だと思います。一つひとつ物事を動かしていくのは大変ですが、変化が目に見えて現れる瞬間があります。その変化を実感できたときの達成感は、本当に大きいですね。 CDOは「チーフデジタルオフィサー」のはずなのに、私の場合はどちらかというと「チーフデータオフィサー」に近かったり、あるいは「チーフ泥臭いオフィサー」だったりします(笑)。それくらい、実際は泥臭い部分が多い仕事です。 そんな中で一番うれしいのは、現場の方たちが自分たちの仕事に達成感を感じ、それを誰かに説明しているときに、目の中に星がキラキラ輝いているように見える瞬間です。自信に満ちたその姿を見ていると、「やってよかった」と心から思います。 もちろん、うまくいかないことも多いです。ただ、それも含めて最前線で受け止めながら、変革の時期に関われること自体が大きな喜びだと感じています。 楽しみながら取り組める人が先頭に立って引っ張り、そのポジションから次の世代につないでいけたら——それが理想だと思っています。 チェンジマネジメントは「巻き込み力」 ——チェンジマネジメントの具体的なエピソードをお聞かせいただけますか。チェンジマネジメントとひと言で言っても、その中には本当にさまざまな要素が含まれています。…