*上記の役職名は2024年11月当時のものを記載。 ITで世界を繋ぐ:グローバルキャリアの30年 大学卒業後、株式会社福武書店(現在の株式会社ベネッセコーポレーション)に入社し、IT部門に配属されました。そこで5年間働いた後、海外進出を目指す同社の一環として、米国の企業を買収。その買収した企業のIT責任者としてアメリカに赴任し、外資系企業でのキャリアが始まりました。 まずはベルリッツインターナショナルコーポレーション(現在のベルリッツコーポレーション、以下ベルリッツ)で約10年間勤務し、次にゼネラルモーターズ(以下GM)に転職しました。GMでは、日本の自動車メーカーとのアライアンスやジョイントベンチャーの立ち上げに携わり、eビジネスのブームが始まった2000年前後にJVのCIOとして参加しました。現在まで20年以上GMで勤務しています。 GMに入社してから、日本でのビジネス展開を始め、徐々に担当エリアが広がっていきました。最初は日本国内、その後サウスイースト&ウエスト、アジア、ASEAN諸国、アジアパシフィックと広がり、現在ではアジア、オセアニア、アフリカの成長市場のITを管理するリーダーとして働いています。 ベルリッツでは、米国本部に赴任すると同時にチームをまとめて新しいシステムを導入するという大きなチャレンジに取り組みました。当時私はまだ20代後半で、組織をまとめて新しいシステムを作るために何をすれば良いかを考えました。 まず、現在の仕事やシステムが将来のビジネスサポートに適しているかどうかを確認しました。ローカルのメンバーと一緒に、今のシステムをこのまま5年、10年使い続けた場合の問題やギャップを共有しました。 次に、今のシステムと将来の会社の動きのギャップが広がらないようにするための活動を行いました。新しいビジネス展開にシステムが追いつかない状態を避けるため、各国の業務担当者にヒアリングを行い、必要な変更点を把握しました。 例えば、ブラジルやヨーロッパの各国の本部に出向いて学校を視察し、現地の問題を理解することで、ビジネスの方向性や現場で働く人々とのギャップを把握しました。その結果、新しいシステムや進め方が必要だという意識が生まれたのだと思います。 当時は90年代で、Windows 3.1やインターネットの普及が始まった頃でした。それまでの小型メインフレームベースのシステムから、Windowsベースのシステムに移行することになり、スタッフもWindows系のシステムを学ぶ機会がありました。今ではPCベースでネットワークにつながった分散システムが当たり前ですが、当時はその方向性に合意を得ることが重要なステップでした。 コミュニケーションにおいては言葉の壁があり、特に英語は難しいと感じています。しかし、シンプルに伝えること、シンプルに理解することを心がけています。複雑なコミュニケーションは相手を混乱させるので、できるだけシンプルにすることが大切です。 コミュニケーションを続けることで、相手の癖や考え方が分かってくるので、それぞれのカウンターパートに合わせたコミュニケーションを心がけています。 グローバルITリーダーの軌跡:福武書店からゼネラルモーターズまで 私は今までのキャリアの中で、いくつかの重要な実績を挙げることができます。 最初の福武書店では、主に学ぶ立場でした。その後、福武書店が買収したアメリカの企業に移り、20代後半でディレクターに就任しました。英語を使ってローカルメンバー10人を率い、小さな組織でしたが学校運営の基幹システムを新しく作り上げました。このシステムは北米、南米、アジア、オセアニア、ヨーロッパなどの各地域に導入されました。 システムを作ること自体は多くの人が経験していると思いますが、私が特に自信を持って言えるのは、そのシステムが20年以上にわたって使われ続けたことです。その間、何度かシステムの入れ替えが試みられましたが、私が作ったシステムを超えるものはなかなか現れませんでした。これを聞いて、良いシステムを作れたのだと感じています。 次に、GMに入社し、ジョイントベンチャーのCIOとしてスタートアップから会社設立、人材集め、アメリカ本国の基盤ツールやインフラを活用したビジネスシステムの構築を行いました。この時期、グローバルな環境で唯一、会社を立ち上げてシステム構築を成功させる実績を残しました。 2000年代前半、GMが業績不振に陥った際には、リストラを進め、IT組織とシステムをスリムダウンしました。最終的には一人で組織を運営し、ITプラットフォームサービスを活用したビジネス基盤を構築しました。 上記を踏まえて約10年前から、GMは成長期に入ってきました。現在は、自動化、自動運転、EVなどの新しい技術に対応するため、日本とアジアパシフィック地域での準備と展開を進めています。 グローバルな視点で挑む:ゼネラルモーターズでのIT改革 最大のチャレンジについてですが、それぞれの時期に様々なチャレンジがありました。 最初にアメリカで仕事を始めた時は、言葉の壁やローカルメンバーとのコミュニケーションの難しさがありました。私がIT組織に入ったとほぼ同時に前任者が退職を余儀なくされたという背景もあり、メンタル的にも難しい局面がありました。しかし、メンバーとのコミュニケーションを高め、一緒に新しいシステムを作ることで、組織的なチャレンジを乗り越えることができました。これは、良いシステムを作ろうという共通の目標があったからだと思います。 GMでは、最初は大きな組織で、日本の自動車メーカー(スズキ、スバル、いすゞなど)とも多くのコネクションがありました。これらのプロジェクトは非常に興味深く、日本のメーカーとの連携が楽しみでした。しかし、日本国内のマーケットが縮小する中で、人員削減とシステムのスリム化が必要になりました。 ビジネスを続けるために、どうやって新しいシステムを導入し、スリム化された組織でもスムーズに企業のシステムが動くようにするかを考えながら、日々チャレンジを続けてきました。 SSSの法則:ゼネラルモーターズで学んだ成功の秘訣 振り返ってみると、本当に素晴らしいメンターや指導者に多く出会えたことは幸運だったと思います。いくつか今でも記憶に残っている言葉があります。 新卒で最初のメンターからは、「何か2つの選択肢がある時は、自分が体験したことがない方向に進め。知った道に進むのはやめろ」と言われました。新入社員の頃は知らないことばかりでしたが、慣れてくると結果を出しやすい道を選びがちです。しかし、そのメンターは長い目で見て、新しい世界に挑戦することの重要性を教えてくれました。 GMに入社した時、実は私の前任CIOが立ち上げメンバーとして挑戦していましたが、うまくいかずに退職しました。そのため、急遽新しいCIOを採用する必要があるという背景がありました。その際、オーストラリア人のコンサルタントが私をサポートしてくれました。彼からは「SSS」というアドバイスを受けました。 スピード(Speed):波乗りと同じで、波に乗っている限りは落ちない。波に遅れたら沈む。 シンプル(Simple):物事をシンプルに考える。複雑に考えると時間もリソースもかかる。 スチューピッド(Stupid):ありきたりのことをやるのではなく、自分のカラーを出して挑戦する。 このアドバイスは今でも非常に印象に残っています。他にも多くの素晴らしい人たちと出会い、それぞれの場面で助けられました。これらの出会いが私のキャリアにとって非常に良かったと思っています。 より具体的なCIOの仕事観、やりがいや魅力に焦点を当て、リーダーシップやITリーダーへの効果的なアドバイスなど、豊丹生氏に話を聞きました。詳細については、こちらのビデオをご覧ください。 CIOとしてのやりがい、魅力について: CIOやITの役割は、ビジネスの問題を解決することが基本だと思います。ビジネスが困っていることや、やりたいことに対して、ITの技術を使い想像力を働かせソリューションを提供することがIT部門の醍醐味です。 どのようにそれを実現するかは、CIOを含めたメンバーの自由です。私がよく思うのは、「ITに携わっているからといって、必ずしもITソリューションを提供する必要はない」ということです。 例えば、ビジネスにニーズがある時に、「このツールやあのツールがあるよ」と提案するだけでなく、業務をスリム化する、あるいはシンプルにすることで、ITを使わずに解決できる場合もあります。こうした提案やアドバイスもCIOとしての重要な役割だと思います。 IT部門は、ビジネスの中心となる軸(ストリームライン)をどう伝え、何を提供するかが重要となります。 リーダーシップに関して、成功するCIO(およびマネジメント層)に必要なことは何ですか? 外資系と日本企業で働いてきて普遍的な要件は「好奇心」だと思います。新しいことが次々と起こる中で、自分には関係ないとか、今まで通りでいいという考えではなく、新しい技術やプロダクトに対して「どう違うのか?」と興味を持ち、情報をキャッチする能力が重要です。好奇心は大きなファクターです。 もう一つの重要な要素は「自信を持つ」ことです。海外の同僚と話していると、自信を持っている人間でないと周りから認められないと感じます。特に発展途上国から来る人たちはメンタルが強く、コミュニケーションを取る際に日本人は引っ込み思案になりがちですが、自分の意見をしっかり持つことが大切です。これがマネージメントレベルの人とのコミュニケーションに繋がります。 さらに、「透明性(トランスペアレント)」も重要です。隠し事をせず、嘘をつかないことはどの会社でも基本的な行動規範です。これを守ることが大切だと思います。 外資系企業で長く働いていると、突然コミュニケーションしていた人がいなくなることがあります。例えば、以前の上司が「明日はこうしよう」と話していた翌日に突然いなくなったことがありました。理由は分かりませんが、行動規範を守らなかったのではないかと思います。 透明性を持つことは、自分にとっても楽です。何かをねじ曲げてコミュニケーションすると、それを覚えておく必要があり、極端な話、次のコミュニケーションでそれを基に話を組み立てなければならない面倒さがあります。問題解決に集中すべき時に、過去の不透明なコミュニケーションが邪魔になるのは無駄です。 立場が上になるほど、透明性は重要なファクターになってきます。今の状況を的確に判断して伝えることが成功の鍵であり、マネージメントの立場になるための絶対条件です。嘘をつかないことは難しいですね。でも誘惑に負けずに正直でいることが重要です。 ITリーダーを目指す人たちにどのようなアドバイスをしますか? 私はアウトドアが好きで、よく山に登ります。普通のコースとは違うバリエーションルート(ルート上に標識が無く、自分で進む道を選びながら登るコース)と呼ばれる道を選ぶこともありますが、いつも心がけているのは「焦らない」「侮らない」「諦めない」ことです。これが山で生き残るための絶対条件だと思っています。 悪天候で道が分からなくなったり、突然のアクシデントが起きたりすることがありますが、これはビジネスにも当てはまると感じます。忙しい時にトラブルが起きたり、上司からクレームが入ったりすると、焦ってしまいがちですが、焦ると良い結果が出ません。だからこそ、焦らないことを常に心がけています。 これは私自身の体験ですが、これから社会人として頑張っていく方には、ぜひ覚えておいてほしいと思います。 今後の展望、中長期的な取り組みについて: 現在、自動車業界は新しい技術の流入とともに成長しており、大きな変革期にあります。プロダクトやテクノロジーだけでなく、マーケットも変革期を迎えています。特に中国企業が急速に成長している中で、私たちがどうやってポジションを保つかが重要なテーマです。 日本、オーストラリア、ニュージーランド、ASEANなどのマーケットにはそれぞれ課題やチャレンジがあり、成長の期待もあります。ITとしてソリューションを提供し、遅れないようにサポートすることが今後5年、10年続くでしょう。変革期の自動車業界でキャッチアップし、流れに遅れないことが重要です。
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