ほとんどの企業は、レガシーアプリケ―ションからクラウドへの移行によって、デジタルジャーニーを始めています。作業負荷をリフトアンドシフトすることがクラウド独自のサービスや機能の迅速な開始につながるという理論です。
しかし、住宅・自動車保険会社のオールステートは異なるアプローチを取っています。同社のEVP兼CIOであるズルフィ・ジーバンジー氏は、次世代の業務プロセスと現代のITプラットフォームを構築してアライメントを図るには、一から構築することが最善の方法だと確信しています。氏はDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けてクラウドファーストのアプローチを取っており、その過程でレガシ―システムをすべて排除しています。
その結果生まれたのがテクノロジー主導のビジネス戦略であり、「とてもパワフルなものだ」と氏は述べています。
イリノイ州に本拠地を置く保険会社のノースブルックは、DX促進に向け、業務プロセスのポートフォリオ全体を見直すために、保険金請求処理、セールス、サポート、プランのコアアプリケーションを再構築しましました。すべて顧客エクスペリエンスの強化と促進を目標としています。同社によると、業務プロセスのほぼ40%がデジタル化され、顧客満足度の重要な尺度である保険金請求の提出時間が4分から43秒に減少しました。
オーステートは、プロセスのデジタル化とは別にマルチクラウドアーキテクチャを系統的に採用しています。コンテナと開発は主にAWSをベースとし、AIに特化した作業負荷はGoogle BigQuery、Vertex、およびMicrosoft Azure GenAIをベースにしています。
多くの企業が同様のアプローチを取っています。新たなインサイトを得てより優れた業務成果を挙げるために、生成AIパイロットアプリケーションにはBigQueryとVertexを使用しています。グーグルが近頃開催したGoogle Nextコンファレンスにおいて、ロレアルとショッピファイは、生成AIパイロットでBigQueryを使用して、業務プロセスの促進と最適化を行っていると発表しました。
オールステートのジーバンジー氏は、ITインフラと新たな業務プロセスを連携する重要性を理解した同社の上層部の功績を評価しています。デジタル業務への切り替えによる利益を最大化し、リスクを最小化するために再構築する必要があったのです。そしてすべてはクラウドファーストのアプローチで実行されましました。
「クラウド上での実行を念頭に構築され、設計されました。オンプレミスでの実行は配慮されていないのです」と氏は述べています。
保険金請求処理方法の見直し
オールステートはいろいろな意味でデジタルジャーニーを始めたばかりです。「帳簿」に計上された請求処理のわずか3%から4%のみがクラウド上で処理されており、ほとんどのデータは保険会社が一般的に使用するオンプレミスのXMLデータベースで処理されています。しかしながら先進技術とビジネス近代化の青写真は確固たるものであるとCIOは述べています。
北米、北アイルランド、インドにスタッフを擁するオールステートのグローバルITチームが、インフラと新たなプロセスを開発しました。まずオールステートの本拠地であるイリノイ州で9か月導入して、新たなデジタルエクスペリエンスに対する顧客の反応を確認した後、テネシー州で展開しました。同社は今年度、自動車保険の直接販売を通して米国の約3分の1でこれを立ち上げる予定です。
「顧客の反応をしっかり学ぶことができましました。これが組織を変えていくということなのです。顧客体験にまず焦点を当てたことは、顧客に最高の経験の提供することにおいて最も有益でした」とジーバンジー氏は述べています。
オールステートは2019年にクラウドへの移行を開始し、2022年のジーバンジー氏の同社への復帰を機に、キュレートされたマルチクラウドの青写真の配置を開始しました。
同社は各州の住宅・自動車保険会社のすべての側面の見直しと評価を行い、AIなどの特化されたアプリケーションにグーグルやマイクロソフトのサービスを活用しながら、中核となる主要製品としてAWS上に構築しています。
系統的なアプローチを取っていても、オールステートがテクノロジーに未熟だというわけではありません。同社はかなり以前に業務プロセスを自動化し、手作業のステップを廃止して決済をスピードアップしています。
同社は実際、主要アプリケーションに複数の機械学習モデルを採用しています。これには事故にあった車が全損であるかなどの請求予測も含まれており、またこれらの推奨事項を自律的に作成するより進化した自社製の機械学習モデルも含まれています。
生成AIで顧客エクスペリエンスを向上
オールステートはまた、MyStoryを非公式に吹き替えたChatGPT3.3をベースにした生成AIアプリケーションを開発し、事故やインシデント発生後の請求提出にかかる時間を大幅に削減しました。顧客は事故について様々な担当者や清算人に繰り返し説明する必要がなくなり、一度詳しく説明すれば文書にまとめられ、関係者全員に送られます。
担当者から電話があった時はすでにすべての情報が伝わっており、すぐに次の段階に進むことができます。「最も重要な時にスムーズに流れるようにするんです。プロセスをこのように変えたことで、顧客満足度が大幅に向上しました」と氏は語っています。
ガートナー社の著名なVPおよびアナリストであるアルン・チャンドラセカラン氏は、同様の生成AIを採用したパイロット事業が金融サービスやその他の保険会社、またテクノロジー、メディア、エンターテイメント企業にて実施されていると述べています。
氏によれば、保険会社は請求処理をスピードアップして顧客満足度を高めるために、音声文字変換などのテクノロジーを率先して採用してきたということです。生成AIは現在保険業界ではあまり使用されていませんが、今後12か月間で大きな成長が予測されており、すぐれた成果を挙げるための最新の試みと言えます。
「これらのユースケースは実際、保険業界にはここしばらく存在していましました。言語モデルが本質的に付加価値を与えられるというのは、優れた認識という観点からであり、言語モデルが応答を作成することができるからなのです」と氏は述べています。より正確に請求を処理するために、イベントの再作成に必要な多くの情報をもたらしてくれます。「今後モデルが進化して完全にマルチモーダルとなれば、異なるタイプのデータをトラバースできるようになります」
アメリカの4大自動車・住宅保険会社の1社であるオールステートはおよそ1億9,000万件の保険証券を扱っており、これには自動車や住宅、モーターバイク、健康、障がい、生命、個人用デバイス、ID向けなどの保険が含まれると同社の広報担当者は述べています。
同社はおよそ5万4,500人を雇用し、専属営業職員は1万100人、独立代理店は5万1,900に登ります。ジーバンジー氏のリーダーシップのもと、社全体で7,000人のIT専属スタッフが働いています。
クラウドネイティブアプローチ開始に伴うCIOの最大の課題は、「デジタル企業になるために社風を変える」ことであるとジーバンジー氏は述べ、経営幹部全員が計画を受け入れてくれたことで自身の仕事が大変やりやすくなったと指摘しています。「我々は当社の全プロセスを見直して、デジタルレディネスを実現したのです」