——現職としての仕事の魅力、やりがいについてお教えください。 もともと私は、「世の中にはどのような会社があり、何をしているのかを知りたい」という思いから今の会社に入りました。その原点は、現在の仕事にもつながっています。 いまの立場の魅力は、AIをはじめとする最先端技術に触れられることだけではありません。それを実際に企業へ実装し、成果として社会に届けられるという点にあります。単に技術を理解するのではなく、「どう活用し、どう変革につなげるのか」までを考え抜かなければならない。そこに大きなやりがいがあります。 当社は、常に世の中の最先端テクノロジーを把握していくことが求められる立場にあります。しかも、それは国内にとどまりません。グローバルレベルで何が起きているのかを理解し、その動向を踏まえながらビジネスを推進していく必要があります。 グローバルレベルの最先端テクノロジーに触れ、自らその推進に関与し、それを多様な業界や企業、さらには社会全体へと展開していく。そして、その取り組みをグローバルスケールで拡張できる。このダイナミズムこそが、私自身が強い魅力を感じている点です。 技術を知るだけではなく、社会に実装し、変革として結実させる。そのプロセスに携われることが、現職(データ & AIグループ統括)としての最大の醍醐味だと感じています。 いかに「安心して転べるフィールド」を用意するか ——成功するマネジメントにとって必要なことは何でしょうか。 非常に難しいテーマです。アクセンチュア・アドバンスト・AIセンター京都を設置した理由の一つに、京都大学との共同研究があります。技術分野だけでなく、実はリーダーシップについても共同で研究を進めています。 複数の企業にも参画いただきながら、「会社として高いパフォーマンスを上げる」と、「従業員のウェルビーイングを実現する」、この2つを両立するための要素について、分析しています。単に業績を出すだけで、従業員が疲弊してしまっては意味がありません。企業としての成果と、働く人の幸福度をいかに両立させるか——それが重要な問いです。 研究から見えてきたのは、若い人達にどれだけ寄り添い、適切に育成できるかが鍵になるという点でした。若い力を引き出すことができれば、結果として組織のパフォーマンスも高まり、ウェルビーイングの状態も向上していきます。 若い人達は総じてITとの親和性が高く、デジタルネイティブとしての感覚も持っています。だからこそ、その力を積極的に活用すべきです。しかし一方で、ITの世界には「失敗が許されにくい」という特性があります。ミスがそのまま大きな影響につながる可能性があるからです。 ただ、私自身が強く感じているのは、AIも人間も、成長には適切な失敗経験が不可欠だということです。AIの学習においても、成功データだけでなく失敗データが重要です。人間も同様で、失敗からの学びが成長を促します。それにもかかわらず、日本企業、とりわけITの現場では「失敗してはいけない」という空気があります。 だからこそ、リーダーの役割は、挑戦できる環境を整えることだと考えています。すべての失敗を許容するのではなく、「許される範囲の失敗」を設計する。そして、「安心して転べるフィールド」を用意することではないでしょうか。 小さな挑戦を重ね、成功体型と失敗体験、両方から学ぶ。そのプロセスにリーダーが寄り添い、仮に失敗しても「大丈夫だ、次に生かそう」と言えること、若い人達が安心して挑戦できる環境を整えることこそが、組織の持続的な成長を支えるマネジメントの本質ではないかと考えています。 技術革新の波を自社に取り込むためにすべきこととは ——若手のITリーダーへのアドバイスやメッセージをいただけますか。 日本のITリーダーの方々を見ていると、どうしても視点が社内に閉じがちだと感じることがあります。これまでは、いかに基幹システムを安定的に稼働させ続けるかが最優先事項でした。それ自体は極めて重要な役割であり、企業活動を支える基盤でもあります。 しかし今は、状況が大きく変わりつつあります。生成AIをはじめとする技術革新の波は、私たちの状況に関係なく押し寄せています。従来通りのシステムを安定運用するだけでは、企業として競争力を維持できない時代に入りつつあると感じています。 生成AIに加え、今後はフィジカルAIのような新たな領域も現れてきます。仕事のやり方そのものが変われば、当然、それを支えるITシステムも変わらざるを得ません。その変化にどう向き合うのかが、ITリーダーに問われています。 もちろん、既存の基幹システムを止めるわけにはいきません。安定運用と変革推進という、二つの責任を同時に担わなければならない。その中で、外で生まれている新たな技術を、どのように自社に取り込むのかが重要になります。 それを誰かに丸投げするのではなく、自ら理解し、自社にとっての意味を考え抜くことが大事になってきていると感じます。外の世界で何が起きているのかを広く見渡し、それを自社の文脈に引き寄せて吸収していく。そのためには、短期的な社内視点だけでなく、長期的かつ社会的な視点を持つことが重要になるでしょう。 バランスを取るというのは、単に中間を選ぶことではありません。安定と変革、短期と長期、内向きと外向き——それぞれを深く理解したうえで、自らの戦略を明確に打ち出すことです。 今は、ITリーダーにとって極めてダイナミックで刺激的なタイミングです。この変化の波を受け身でやり過ごすのではなく、自ら取り込み、企業の進化につなげていく。その覚悟と構想力が、これからますます重要になると考えています。 AIは「人の仕事を置き換える」のではなく「役割分担」を問い直すもの ——今後の御社の展望と中長期の取り組みを教えてください。 これまで外部環境の変化についてお話ししてきましたが、アクセンチュア自身もまさに同じ変化の中にあります。現在、登場している技術は、コンサルティング業界そのものを根本から変える可能性があります。 将来の正解が明確に見えているわけではありません。しかし、3年後、5年後に社会がどうなっているのかを考えることをやめてはいけないと思っています。私自身、AIセンターで未来予測を行うAIの開発に取り組んでいます。AIの分析結果から学びつつ、AIが十分に捉えきれない部分については、グローバルのリサーチチームが収集した情報を追加したり、新たな調査を行ってAIにインプットしています。そうした相互学習のサイクルを回しながら、AIの力を活用した意思決定を実践し始めています。 この取り組みは、開発したものを、まず社内に展開し、社内実践の結果も踏まえて、お客様にも提供し始めています。AIを適切に活用しながら、社会をより良い方向へ進化させていくことが、中長期的な目標です。 生成AIの議論では、とかく「人の仕事を置き換える」という論点が先行しがちです。しかし私は、単純な置き換えではなく、「どのように役割を再定義するか」が本質だと考えています。AIと人間がそれぞれの強みを発揮できる分担を設計することで、人間の能力をより引き出すことができるはずです。 そのためには、アクセンチュア自身も組織のあり方を変えていかなければならないと感じています。コンサルタントの役割も大きく変わるでしょう。そうした変革を自ら実践しながら、その知見をお客様にもスケールしていくことができたらと考えています。 フィジカルAI×生成AI×責任あるAI——日本の社会課題に挑む ——AIは日本の企業組織や産業にどんなインパクトを与えていくとお考えですか。 現在、世の中に広がっているLLM(大規模言語モデル)は、特にホワイトカラー業務に大きな影響を与えています。グローバルのリサーチチームの調査でも、ドキュメント作業の比率が高い業種ほど影響が大きく、とりわけ金融分野は顕著です。また、ソフトウェアやシステム開発の現場も、すでに生成AIを前提とした仕事の進め方へと移行しつつあります。 影響を受けやすいのは、言語や文書を扱い、かつ付加価値の高い領域です。生成コストも急速に低下しているため、いずれは単価に関係なく、ホワイトカラーの言語タスクは広範にAIが担うようになるでしょう。 さらに今後、フィジカルAIが本格化すれば、AIの影響はホワイトカラーにとどまりません。物理的に人間が働いている領域まで広がり、実空間での作業もAIとロボットが担う世界へと進んでいくと見ています。 そのとき議論の焦点になるのは、「AIにできるかどうか」ではありません。「人間がやるべきか否か」です。仮にAIが実行可能であっても、人間が担うべき役割は残ります。 例えば、社内でAIを活用していて感じるのは、ネガティブなフィードバックはAIに任せた方が、感情論を抜きにして合理的な指摘ができる場合が多くあります。しかし、称賛は人の方が向いています。「今回よく頑張った」とAIボットに言われるのと、直属の上司に言われるのでは、受け取る側の感情は大きく異なります。 また、難しいリスク判断をAIに委ねることは技術的には可能かもしれませんが、最終的に責任を取るのは人間です。エグゼクティブは、自らの意思でリスクを取り、結果に責任を負わなければならないでしょう。 結局のところ、「人間が何を担うのか」を定義することが出発点になります。それによって組織のあり方が決まり、必要なシステムの姿が見えてきます。AIやロボットの役割が明確になれば、CIOはそれを支えるIT環境をどう構築するかを設計することになります。今はまさに、その構想を描く好機だと考えています。 ——今、気になるAIの取り組みは何ですか。 私は「責任あるAI」の重要性について、過去に書籍を出版するほど強い関心を持っていますし、フィジカルAIについても講演を行っています。ただ、あえて技術そのものに焦点が当たりすぎないように気をつけています。重要なのは、技術が社会にどのようなインパクトを与えるかだからです。 LLM(大規模言語モデル)、フィジカルAI、責任あるAI——それぞれが重要ですが、本質はそれらをどう組み合わせ、社会に実装するかにあります。フィジカルAIや生成AIは、日本が直面する社会課題を解決する重要な技術なのです。 少子高齢化が進み、過酷な労働環境で人材確保が難しくなっている領域では、フィジカルAIは極めて有効です。ただし、単純なロボティクスだけでは不十分です。高齢者や多国籍の方々など、多様なバックグラウンドを持つ人々と機械が円滑にインターフェースするためには、生成AIの役割が不可欠になります。 さらに、AIやロボットの活用比率が高まるほど、「責任あるAI」を抜きにした運用は考えられません。倫理、説明責任、ガバナンスといった観点が、技術と不可分になります。 「国産AI」をめぐる議論もありますが、本当に国内で開発すべき領域はどこなのかを冷静に見極める必要があります。過度に内向きになるのも問題ですし、戦略的視点を欠くのも適切ではありません。 最終的に問われるのは、さまざまな技術をどう組み合わせ、どう展開することが社会全体にとって最善なのかという視点です。目先の流行ではなく、中長期で何が適切かを考え続けることが重要です。 正解を即座に導き出すのは容易ではありません。しかし、考え続け、行動し、振り返る。そのサイクルを回すこと自体が、組織と個人の成長につながります。ITリーダーにはぜひ、その思考を止めずに挑み続けてほしいと思います。
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