大企業とベンチャー、両方を知ったからこそ見えてきた改革の最適解
——これまでの経歴についてお教えいただけますか。
大学卒業後、航空会社に営業職として入社しました。配属先は小規模な営業支店で、旅行代理店や企業を訪問し、航空券の販売を担当していました。
入社した年、オフィスに初めてパソコンが導入されることになり、最年少だった私がその担当に任命されました。私は学生時代にマーケティングを学んでいたこともあり、過去10年分の市場データを入力し、需要の推移や成長パターンを分析し始めたのです。
当時、営業現場では「経験がすべて」という文化が根強くありましたが、データを活用することで経験を補い、より精度の高い判断ができることを実感しました。たとえば、特定の航空券がよく売れる店舗を調べた際、近隣企業の工場の存在と路線需要に相関があることをデータから導き出すことができたのです。
ベテランの先輩方は「この路線はよく売れる」という結果を知っていても、その理由までは把握していませんでした。データ分析によってその背景を明らかにできたのは、とても刺激的な体験でした。まだ「データドリブン」という言葉もなかった時代でしたが、データが経験を超える可能性を感じた瞬間でした。
そんな取り組みを続けていので、次はより大きな支店で販売促進を担当するのだろうと思っていたのですが、届いた辞令は想定外の「IT部門への異動」でした。
システムの専門家でもなかったため、正直なところ「なぜ自分が?」という戸惑いもありましたが、結果的にはこの異動が自分のキャリアを大きく変えるきっかけになったのです。新たな知識を学ぶ面白さや、テクノロジーで課題を解決することへの使命感のようなものが芽生え、次第にITが自分の仕事の中心になっていったのです。
IT部門では、顧客向けビジネスモデルをシステムで設計し、予約から発券、チェックインまでの一貫したサービスをデザインしました。そこで学んだ「仕組みで体験を変える」という考え方は、後のキャリアにも通じる重要な財産になったと思っています。
その後、特に大きな転機となったのが、LCC(Low Cost Carrier)「Peach Aviation」の立ち上げです。社員番号4番として創業メンバーに加わり、航空会社をゼロからつくり上げるという貴重な経験をすることができました。
ベンチャーならではのスピード感や、ビジネスとITを結びつけるシステムデザインに触れたことで、大企業的とは異なる新たな文化が身についたと思います。
そして2022年、ご縁があってJFRに入社し、2025年で4年目を迎えます。
BtoCという観点で見ると、いくつかこれまでの仕事と共通する点があると感じます。お客さまにより良いサービスを提供するためにさまざまな工夫を凝らしながら、同時に社内の業務効率とのバランスを取っていくこと、お客さまのデータを活用して最適なアプローチを行うことは共通しているのではないかと思います。
一方で、リアルな店舗を持つという点では、航空会社とはお客さまとの距離感が少し異なると感じています。
そうした違いがあるからこそ、これまでの経験がそのまま通用するわけではなく、そこに新たな発見や学びがある——それが今の仕事の面白さだと思っています。
日本初、LCCのビジネスモデルをどう創るか──ベンチャーのスピードの中で磨かれた企画力と実践力
——これまでのキャリアの最も大きな功績をお教えください。
責任の重い仕事や大規模なプロジェクトには大きなプレッシャーが伴い、その分だけ多くの学びがあります。プロジェクトの前後で自分自身の成長を実感できるような経験を積めたことが、私にとって最も大きな財産だと感じています。新たなスキルや視点を得て次の挑戦に臨めるという循環こそが、キャリアを通じて得た最大の成果かもしれません。
そういう中で一つを選ぶのは難しいのですが、特に印象に残っているのは、Peach Aviationの立ち上げです。日本初のLCC(ローコストキャリア)という前例のない挑戦で、国内で参考にできるモデルがほとんどない中でのスタートでした。
東南アジアなどではLCCが既に確立されていましたが、同じモデルを日本にそのまま持ち込んでも人件費などの構造的な違いから競争に勝てません。初期の小規模な組織であっても戦えるよう、基本モデルを押さえつつ、独自の競争優位をどうデザインするかが大きなテーマでした。
しかも、構想から初フライトまでわずか1年という短期間で、航空会社として必要なすべての仕組みとサービスを構築しなければならなかったのです。安全運航を前提に、顧客体験、業務効率、収益性をどう両立させるか——。限られたリソースの中で「何に集中し、いかに必要なパーツをうまくつなげながら一つの形にしていくか」というところは非常に難しく、今、振り返ってもしびれるような1年でした。
さらに、サービスやビジネスは「つくって終わり」ではなく、市場に受け入れられて初めて意味を持ちます。当時は「安い航空会社=安全性に不安があるのでは」という懸念を持たれないように、「低価格を実現できる理由」を自然に伝える仕掛けをビジネスモデルの中に織り込む工夫も重ねました。
また、将来の成長を見据えた仕組みづくりにも力を注ぎました。特にデータ設計は重要で、運航や販売などのプロセスから得られるデータを収集・分析し、いかにそこから得たインサイトを次の改善や新しいデザインへと反映していくか——というサイクルの仕組化に、メンバー一丸となって力を注いでいました。
大事なのは、「良いデザイン」を、いかに速く実装するか
——大きな実績を上げるまでにはどのようなチャレンジがあり、それは現職でどう生かされていますか?
「良いデザインをすること」はもちろん大切ですが、私にとってはそれを「スピードを持って実現する」ことこそ、最も大きなチャレンジだったと感じています。限られた時間の中で成果を出すには、「何に集中すべきか」「どこに力点を置き、いかにそこを起点とした2次デザインをするか」といったことを、走りながら考える必要があります。
こうした思考と判断のスピード感は、JFRに入社して最初に手がけた「デジタル人財育成プロジェクト」の教材づくりに生かされています。教材のほとんどを内製でつくったのですが、その中のケーススタディに、私自身がPeach Aviation時代に経験した事例を盛り込みました。
たとえば、「この条件のもとで、期限までにサービスを立ち上げなければならない。複数の課題がある中で、どこから手を付けますか?」という問いかけや、「デザインを行う際、どの要素を優先して考えるべきかをチームで議論してみよう」といった内容です。
Peach時代はとにかく走り続けていたため、当時のプロセスを整理して振り返る余裕はありませんでした。しかし、教材をつくる過程で改めて自分の思考や判断を振り返ると、そこには人財育成に生かせる多くの要素があることに気づきました。
特に、大企業では「走りながら考える」という習慣が不足しがちです。だからこそ、実際の事例を通じて「スピードと判断力を両立するとはどういうことか」「普段の仕事だけでは思いつかない考え方やステップがある」ということを感じてもらえるよう意識しています。
こうした学びを実装へつなぐ基盤として、私たちは人財育成を「仕組み」として設計しています。
——人財育成について詳しくお聞かせください。
「土壌づくり」という考え方にも通じますが、どんな取り組みも最終的には人が大事だと思っています。だからこそ、デジタル化を進めるのなら、まずはデジタル人財の育成から始めることが基本だと考えています。
とはいえ、デジタル部門が単独で「人財育成をやります」と掲げても、どうしても協力してくれるのは一部のデジタル好きな人に限られてしまいがちです。そこで私たちは、人事部門とタッグを組んでプロジェクトを立ち上げ、「デジタル人財とはどのような人か」という定義をゼロから一緒に考えることにしました。
一般的に「デジタル人財」と聞くと、「統計の知識を持ち、データ分析ツールを使いこなしてレポートをつくる人」をイメージすることが多いと思います。もちろんそれも重要ですが、それだけでは不十分です。私たちは、データを扱うスキルと同じくらい、「ビジネス課題を発見し、デジタルの力で解決策をデザインする力」が必要だと考えました。
そこで導き出したのが、2つの人財像です。
1つは、データ分析を担う「データアナリスト」、もう1つはデジタル知識を活かしてビジネス全体をデザインする「デジタルデザイナー」です。
この2つの職種を育成するために、人事と共同で「どのようなスキルや能力、マインドが必要なのか」を細かく分解していきました。それらを整理したうえで、育成のためのカリキュラムを内製で設計したのです。
外部の講座に頼らず社内で教材を作るのは手間がかかりますが、社内で教えるからこそ理解度が高まり、実務への展開がスムーズになるというメリットがあります。社外で学んだものの「自社の仕事にどう活かせばいいのか分からない」というケースを避けるためにも、内製化は非常に効果的でした。
このカリキュラムは、2022年12月にスタートし、現在(2025年8月末)では、ホールディングス傘下の各事業会社から約170名が参加しています。店長クラスから入社2〜3年目の若手まで、年齢も職種も会社も異なるメンバーが一つのチームを組み、共に課題に挑む姿は興味深いものがあります。学びの過程では「戦友」のような関係が生まれ、卒業後もつながり続けています。
こうした交流は、単にスキルを身につけるだけでは得られない価値を生んでいます。会社や世代を超えたネットワークが広がり、互いの課題や悩みを共有できる場が生まれることで、グループ全体としてのシナジーが育まれているのです。
さらに、卒業後のフォローにも力を入れています。修了生が集う社内バーチャルコミュニティを立ち上げ、定期的にオンラインで意見交換をしたり、時にはオフラインで集まったりしています。
このようにしてつながりを保つことで、どの部署にいても「困った時に相談できる仲間がいる」状態をつくりたいと考えています。そうしたネットワークが社内に広がれば、個人が抱える課題や悩みを、仲間との対話を通じて解決につなげる“学びの循環”が生まれるはずです。これこそが、私たちが目指す人財育成の理想形だと思っています。
——経営層に対する人財育成の取り組みについてお聞かせください。
実際に育てた人財が十分に力を発揮できない要因の一つに、経営層を含むリーダー層が育成プログラムの意義や目的を十分に理解していないという課題があると感じています。
そこでJFRグループでは、社長をはじめとする経営層を対象に、独自のデジタル教育プログラムを設計・実施しています。
プログラムの一部には一般社員向けの内容も取り入れていますが、経営層向けに新たに設計したオリジナルの構成も含まれています。全体で3日間にわたる研修を、大丸、松坂屋、パルコなど主要事業会社の経営層に対して行い、私自身が講師として登壇しました。
ここで重視しているのは、「共通のマインドを持つこと」です。どれほど優れた戦略や仕組みがあっても、根本となる考え方が一致していなければ、意思決定のスピードや方向性にばらつきが生じてしまいます。
たとえば「良い仕組み」と言っても、人によってその定義や評価軸は異なります。しかし、「この仕組みは、こういう意識のもとで設計された」という共通の理解があれば、その背景にある価値観や目的を共有でき、議論が建設的になります。
こうした共通認識の形成は、「デジタルデザインや業務改革に取り組む現場の人財の努力を正しく評価できる文化の醸成」にもつながります。経営層が同じ視座を持ち、同じ言葉で議論できるようになることで、組織全体が一体となって前進できるのです。
そのため、JFRグループでは経営層向けのプログラムを単発では終わらせず、継続的な学びの仕組みとして運用しています。経営と現場が同じ方向を向き、共通のマインドを持ってデジタル改革を推進できる体制を築くことが、この取り組みの目的です。
イノベーションの花を咲かせたいなら、まず土壌から
——これまで受けたアドバイスの中で印象に残っている言葉をお教えください。
一つに絞るのは難しいのですが、Peach Aviation時代にいただいたアドバイスの中で、今も心に残っている言葉があります。
世界のLCC業界で“レジェンド”と呼ばれるパトリック・マーフィーさんという方がいらっしゃいます。当時、数カ月に一度お会いしてプロジェクトの進捗を報告し、アドバイスをいただく機会がありました。そのマーフィーさんからかけてもらった言葉が、今も私の指針となっています。
それは、「イノベーティブな取り組みで花を咲かせたいのなら、まずイノベーティブな土壌をつくりなさい」というものです。
会社という組織では、どうしても「花」や「実」——つまり目に見える成果をすぐに求めがちです。しかし、どれほど優れたアイデアや施策でも、それを支える土壌がなければ根を張ることはできません。マーフィーさんはそのことを、シンプルな言葉で教えてくれました。
この「土壌」とは、部署や組織によって意味が異なります。文化やマインドのようなソフト面もあれば、システムでいえば基盤やインフラの整備にあたる部分でもあります。どちらにしても、良い基盤がなければ、その上にあるアプリケーションや仕組み、さらには人の行動までもがうまく機能しません。これは企業経営でもIT設計でも共通する真理だと思います。
この言葉を聞くまでは、私自身も「どうすれば良い花を咲かせられるか」という成果志向でデザインを考えていました。しかし今では、まずは良い土壌をつくること、つまり人と仕組みの双方が成長できる環境づくりを重視しています。
後編では、育成した人財と共通のマインドを事業横断の価値へどうつなげるのかを探るとともに、ホールディングス視点でデータを束ね、ビジネスの最大化につなげる方法に踏み込みます。
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