SIer、監査法人を経て事業会社へ
——これまでの経歴は?
私が社会人になったのは、「2000年問題」が大きな話題になっていた2000年で、大手商社系のシステム子会社に入社しました。以来10年以上にわたり、SIerとしてシステム導入に携わってきました。
中でも長く担当していたのが、SAPの導入支援です。顧客企業の業務プロセスを理解し、それをシステムへ落とし込んでいく役割を担い、業務とITをどう結びつけるかに向き合ってきました。
このSIer時代に次第に気になるようになったテーマが「監査」でした。担当していた菓子メーカーのプロジェクトでも、「監査上、この観点が重要になる」といった話がたびたび出てきていたのです。
「監査とは何なのか」「品質や内部統制と、どう結びついているのか」——そんな疑問を抱いていたタイミングで、転職エージェントから監査法人の求人を紹介されました。
実際に監査法人の方と面接で話をした際、システムを「作る側」とは異なる視点からITに関われることに強く惹かれました。これまでとは違う文脈で、自分の専門性を広げられるかもしれないと感じたのです。それはちょうど30代に入った頃でした。
そうして採用された監査法人では約7年間、リスクマネジメントやITセキュリティ、内部統制に関するコンサルティング業務を経験しました。多様な企業の情報システム部門と関わる中で、事業部門とIT部門の関係性が、システム導入の成否を大きく左右することも実感しました。
ただ、SIerや監査法人という立場は、あくまで「企業の外部支援者」です。どれだけ深く関わっても、プロジェクトが終われば現場を離れることになります。そのたびに、「あの取り組みは、その後どうなったのだろう」という不完全燃焼な感覚が残るようになっていきました。
2017年にカルビーへの転職を決めたのは、そんなことを考えていた時期でした。複数の事業会社を検討しましたが、カルビーを選んだ理由は大きく2つあります。
1つは、SIer時代に菓子メーカーを担当していた経験から、食品業界に親近感があったこと。
もう1つは、面接で情報システム本部の本部長と話した際に、「自分が働く姿を具体的にイメージできる」と感じたことです。
特に印象的だったのは、「IT部門が事業部門にどれだけ貢献できるか」を非常に重視していた点でした。事業部門との信頼関係を大切にするカルビーの考え方に触れ、自分がこれまで培ってきた経験を生かせると確信したのです。
今では自分が構築に関わったシステムが、カルビーの事業そのものを支える基盤として動き続けています。そして、それを自分自身が日々守り、改善し、進化させていく感覚は、外部支援の立場だった頃とはまったく異なります。
成果も失敗も、すべてが会社の成長と直結するところに強い「自分ごと感」があります。事業会社のIT部門で働くとは、こういうことなのだと、今は実感しています。
——仕事をする上で大切にしていることは?
一言で言えば、「フェアであること」です。すべての意思決定において「自分自身に説明できるか」を唯一の判断軸にしており、そのために不可欠な姿勢が「フェアであること」だと考えているからです。
カルビーのIT部門で私は、システムを適切に導入し、安定的に運用していく責任を担っています。その立場に立つと、パートナー企業であるSIerと、事業部門の双方にそれぞれ異なる論理や事情があることがとてもよく見えます。
SIer側は、コストや工数、技術的制約を踏まえた提案をしてきます。一方、事業部門は現場起点で「もっとこうしたい」「この業務を改善したい」という要望を出してくる。どちらかが正しくて、どちらかが間違っているという話ではありません。重要なのは、その両者を理解した上で、「カルビーにとって最適な落としどころはどこか」を考えることだと思っています。
私自身、これまで複数の立場を経験してきました。SIer時代には、提案の裏側にある工数感や技術的制約を理解してきましたし、業務コンサルティングでは、事業部門の課題や要件を言語化する力を培いました。そして監査法人では、内部統制やリスクマネジメントの観点からシステムを俯瞰する視点を身につけました。そうした経験の積み重ねが、物事をできるだけフェアに判断するための土台になっています。
もちろん、パートナー企業からの提案に対して、「これは違う」と感じることもあります。その場合は、「このやり方では本質的な解決になっていない」「本当に要件を理解できているのか」と、率直にフィードバックします。逆に、事業部門からの要求が現実的ではない場合には、技術面やコスト面の根拠を示しながら調整を行います。
感情論ではなく、論理と根拠をベースに判断することと、特定の立場に偏るのではなく、会社全体にとって最適な選択肢を考えることが、私が仕事をする上で最も大切にしている姿勢です。
「好き」を武器に、生成AIを道具として使う
——日々変化する技術トレンドをどのように学んでいますか。
基本的には、メディアのアラート機能を活用しながら、IT、ビジネス関連のニュースや技術記事を日々チェックしています。また、上司から共有される情報も大きな学びの機会になっています。新しい技術やトレンドに触れた際には、生成AIを「壁打ち相手」として使いながら、自分なりに理解を深めています。
技術トレンドのキャッチアップという意味では、やはり「自分で触ってみること」が大事だと思っています。もともとプログラマー出身なので、手を動かすこと自体が好きなのです。
例えば最近、自宅に10ギガ回線を導入した際には、仮想マシンを活用してルーターを自作しました。以前であれば、エラーが発生するたびに検索して、仮説を立てて、また試して……というサイクルを何度も繰り返していました。
ところが今は、エラーログを生成AIに貼り付けるだけで、「この設定値を確認したほうがいい」「このパラメータが原因かもしれない」といった形で、かなり的確なヒントが返ってきます。試行錯誤にかかる時間は、以前と比べて劇的に短くなりました。
業務でも同様で、例えばシステム障害時の原因調査では、ログやエラーメッセージを生成AIに渡すことで仮説の絞り込みが速くなりましたし、新しい技術のPoC(概念実証)段階でも、設計案のたたき台を生成AIに作らせてからレビューするスタイルが定着しつつあり、検証サイクルが明らかに速くなりました。
また、社外との情報交換も重要な学びの機会になっています。例えば、お菓子業界のEDIを担う「e-お菓子ねっと」の委員活動や、一般社団法人日本加工食品卸協会における次世代EDI策定プロジェクトなどに参加し、業界横断で情報交換を行っています。このような同業メーカーとの定期的な情報共有はもちろん、航空系システム会社など、まったく異なる業界の企業とも対話する機会があります。
そうした場で感じるのは、「IT部門が抱える悩みは、業種を超えて共通している」ということです。例えば、ガバナンスとセキュリティをどう両立させるか、どこまで内製化を進めるか、IT部門の価値を経営にどう示していくか——こうしたテーマは、企業規模や業態が違っても、多くのIT組織に共通する課題だと感じています。
プレイングマネジャーとして「ビジョンを仕組み化する」
——理想とするリーダー像と、そのために実践していることをお教えください。
特に「こうありたい」という明確なリーダー像を強く持っているわけではありませんが、私が考えるリーダーの役割は、組織のビジョンをメンバーに落とし込み、それがチームとして自律的に回る状態を作ることです。
課長という立場では、上位層の情報システム部としての方針を踏まえながら、自分たちの組織として何を目指すのかを整理し、それをメンバーが納得感を持って動ける形に翻訳していく必要があります。
一方で、私自身はまだプレイヤー色の強いマネジャーだと思っています。だからこそ最近は、できるだけ仕組み化を進め、メンバーに任せる範囲を広げていくことを意識しています。
カルビーのITチームのメンバーは全員が中途採用で、バックグラウンドもさまざまです。SIer出身者もいれば、コンサルティングファーム出身者、事業会社のIT部門経験者もいる。それぞれが異なる経験を積んできているため、「IT部門はどこまで業務に踏み込むべきか」といった考え方も、人によって大きく異なります。
だからこそ私が大切にしているのは、その違いを否定するのではなく、まず理解することです。1on1を通じて、それぞれがどんな価値観で仕事をしているのか、何を重視しているのかを把握した上で、役割をアサインしています。
結局、人は完全には分かり合えない部分があります。だからこそ、「分かり合えないことを前提に、違いを理解すること」が重要だと思っています。
仕事の進め方についても、基本的にはメンバーに任せたいと考えています。もちろん、納期や品質といった最低限守るべきラインはありますが、同じゴールに到達できるのであれば、「どうやって達成するか」は人それぞれでいい。そこはかなり尊重したいタイプです。
実は現在、チームとしては大きな転換点にも直面しています。新たに重要度の高い大型プロジェクトが立ち上がり、各メンバーが事業部門と進めてきた施策を一時的に止めてでも、優先度の高いミッションに集中してもらわなければならない状況になっています。
メンバー一人ひとりのモチベーションや意思を尊重しながら、それでも会社としてやるべきことをやり切るためのバランスをどう取るかが、今まさにリーダーとして問われている部分です。
「これまでで一番ヤバい本番稼働」が教えてくれたこと
——リーダーとしての覚悟が試された経験はありますか?
カルビーに入社してから特に印象に残っているのが、数年前に担当した大手小売チェーン向けシステムの導入プロジェクトです。
非常にタイトなスケジュールの案件だった上に、技術的な制約も多く、十分なテストを実施しきれないという、かなり厳しい状況でした。しかも本番稼働の前日、私は家族の事情で急遽、実家に戻らなければならなくなったのです。その時は「これは本当にヤバい、これまでで一番ヤバいかもしれない」という思いが頭に渦巻いていました。
出発前には、パートナー企業のエンジニアたちと徹底的に連携を取りました。想定されるリスクや対応方針を確認し、「何かあればすぐ連絡してほしい」と伝えた上で実家へ向かいました。
本番当日は、正直なところ、ずっとプロジェクトのことが気になって落ち着かなかったのですが、驚くことに結果として、大きな障害は一切発生しませんでした。後からパートナーとも、「あれはまさに奇跡だったね」と話したほどです。
しかし、冷静に振り返ると、単なる偶然ではなかったと確信しています。
まず大きかったのは、長年一緒に仕事をしてきたパートナーとの信頼関係です。日頃から密にコミュニケーションを取り、お互いの考え方や判断基準を共有できていたことが、非常時にも機能しました。
また、完璧ではなかったとしても、「やれることはすべてやり切った」といえるだけの入念な準備があったことも大きかったと思います。さらに、万が一、障害が起きた場合のリカバリー方針を事前に共有していたことで、現場に迷いが生まれませんでした。
このように、結果としてうまくいった事例もありますが、当然ながら、すべてのプロジェクトがスムーズに進むわけではありません。
カルビーの情報システム部は14名という少人数体制です。そのため、パートナー企業の存在は不可欠であり、実質的には一つのチームとして動いています。
だからこそ、「指示を受けたことだけをやる」というスタンスでは機能しません。カルビーの文化や業務を理解し、自発的に動いてくれるパートナーでなければ、少人数組織では回らないのです。
実際、長く関わっているパートナーの中には、私たち以上にユーザー部門との距離が近い方もいます。それくらい深く事業に入り込み、同じ目線で動ける関係性が、現在のカルビーのIT組織には欠かせません。
——リーダーとしてのモチベーションの源泉は?
一番大きいのはやはり、「自分たちのチームが会社に貢献できている」という実感です。
カルビーのチームメンバーは、本当に個性豊かで優秀な人材ばかりです。それぞれが主体的に事業部門へ入り込み、「もっと現場を良くしたい」「より大きな成果につなげたい」という強い意志を持って動いています。
そうしたメンバーたちのモチベーションを維持しながら、チームとして成果を出し続けることと、その状態を作ることができていると感じる瞬間に、課長としてのやりがいを感じます。
IT部門の役割は「重厚長大」から「スピードとガバナンスの両立」へ
——IT部門の役割はこの数年でどう変わったと感じていますか。
これまでのIT部門は、基幹システムを安定稼働させることが最大の役割でした。その重要性は今も変わっておらず、企業活動を止めないための安定運用は、引き続きIT部門の根幹にある仕事だと思っています。
ただ、この4〜5年で大きく加わったのが、DXの文脈です。
ローコード/ノーコードツールの普及によって、現場部門自身がアプリケーションを開発できる環境が整い始めました。その結果、IT部門には、従来以上に短期間かつ高速でサービスやシステムを提供する役割が求められるようになっています。
さらに、この1〜2年で生成AIのインパクトが一気に加わりました。生成AIによって、システム開発や業務改善のスピードは劇的に向上し、以前であれば数日かかっていた調査や検証が、短時間で進むケースも増えてきました。
一方で、そのスピードの裏側には新たなリスクもあります。
ユーザー部門や内部メンバーが、自らツールやシステムを作れるようになったことで、セキュリティホールやガバナンス上の問題が発生するリスクは、以前より確実に高まっています。
実際、昨年もさまざまな企業で大規模なセキュリティインシデントが発生し、その影響の大きさを改めて実感することになりました。だからこそ現在のIT部門には、「スピードを止めずに、どうガバナンスを担保するか」という、非常に難しい役割が求められています。
単に「守る」だけでも、「速く作る」だけでも不十分です。事業スピードとセキュリティ、利便性と統制の両立をどう実現するかが、今のIT部門に求められている大きなテーマだと思います。
不確実な時代の判断軸は「自分自身に対して説明できるか」
——先が読めない時代に、意思決定のよりどころにしている判断軸は何ですか。
意思決定をする際に私が最も重視しているのは「説明責任」です。特に大切にしているのは、「その判断を、自分自身に対して説明できるか」という視点です。
今の時代は、どれだけ慎重に検討しても、結果として失敗することがあります。だからこそ重要なのは、意思決定に至るまでのプロセスをどこまで考え抜いたかだと思っています。
判断する際には、まず必要な情報をできる限り集めます。その上で、「失敗した場合に何が起きるのか」「財務面への影響はどれほどか」「レピュテーションリスクはあるのか」「被害を最小化するにはどんな対応策が必要か」といった点を徹底的に整理していきます。こうしたリスク評価の考え方は、監査法人時代の経験によって身についたものです。
もちろん、最終的に成功すればそれが一番ですが、仮に結果として失敗したとしても、「あの時点で得られる情報を基に、必要な検討はすべて行った」「同じ条件なら、もう一度でも同じ判断をする」と自分で納得できる状態であることが重要だと思っています。
実際の判断では、いくつかの軸を使って整理するようにしています。具体的には、「取引先への影響」「コンプライアンス」「財務インパクト」「セキュリティ」の4つです。
この4つの観点からリスクを整理した上で、「やるべきか、やらないべきか」を考えるだけでなく、「失敗した場合にどうリカバリーするか」までをセットで考えることが、私自身の意思決定のスタイルになっています。
——生成AIや自動化が進む中で、IT部門の「人の価値」はどこにシフトすると見ていますか。
私は「人としてのより基本的な能力」が、これまで以上に高い精度で求められるようになると考えています。確かに現在は、コーディングや設計の一部を生成AIが担えるようになっていますが、それによって人が不要になるかというと、むしろ逆だと思っています。生成AIから精度の高いアウトプットを引き出すためには、前提として「質の高いインプット」が必要だからです。
例えば、ユーザー要件を正しく理解して言語化することや、生成AIが誤解しない形でプロンプトを構成すること、そして、AIが出力した内容を人間が評価し、問題がないかを判断した上で最終的に承認する、といったことは、すべて従来からIT部門に求められてきた基本能力の延長線上にあります。
つまり、AI時代になったからといって、IT部門に必要な本質が大きく変わるわけではなく、むしろ、要件定義やレビュー、品質保証といった基礎力の重要性は、さらに高まっていきます。
例えば、業務要件をどこまで正確に理解できるか、設計書やソースコードをレビューし、潜在的な問題を見抜けるか、テストケースが本当に妥当なのかを判断できるか——こうした「人としての判断力」は、AI活用が進むほど価値が上がっていくはずです。
今後のIT部門は、開発プロセスの中間工程をAIに任せながら、人間は上流工程の要件定義と、下流工程の品質保証へより深く関与していくような役割分担へとシフトしていくのではないかと考えています。
理想のIT部門像——少人数だからこそ、生成AIをレバレッジに
——理想とするIT部門のあり方についてはどのように考えていますか。
IT部門にとって最も重要なのは経営へ貢献することだと考えています。
特に重要なのは、経営判断に必要な情報を、「速く、正確に、使いやすい形で提供すること」です。不確実性が高い時代だからこそ、経営層が迅速に意思決定できる情報基盤を整備することが、IT部門の大きな役割になっていると感じています。
カルビーの情報システム部は14名という少人数体制です。そのため、生成AIをはじめとする新技術の活用は、もはや「選択肢」ではなく「不可欠なテーマ」になっています。
私はそれを大きなチャンスでもあると捉えています。生成AIを適切に活用できれば、少人数のチームでも、大規模組織と同等、あるいはそれ以上のスピードや品質を実現できる可能性があるからです。
大企業では組織が大きい分、新しい技術を導入する際の調整コストも増えます。しかし、小規模な組織であれば、意思決定も速く、新しい技術を柔軟に取り込みやすい。「小さいからできない」のではなく、「小さいからこそ速く動ける」ところを強みに変えていきたいと思っています。
ITリーダーにおすすめの一冊:燃えよ剣
——ITリーダーにおすすめの一冊は?
私のおすすめの一冊は、「燃えよ剣」(著者:司馬遼太郎)です。高校生の頃に初めて読んで以来、今でも折に触れて読み返しています。
主人公は、「鬼の副長」と呼ばれた新選組副長の土方歳三です。土方は、壬生浪士組の立ち上げから新選組という組織を作り上げ、厳格な規律を浸透させながら、強い集団へと育てていきます。
特に印象的なのは、近藤勇が掲げる旗印を支えながら、自らは組織づくりや仕組みづくりに徹していく姿です。ビジョンを示す人がいる一方で、それを現実の組織として機能させる存在がいる。その構図に、リーダーとして非常に学ぶものがあります。
最終的に土方は、自ら築いた組織への信念を最後まで貫き、戊辰戦争を経て五稜郭で命を落とします。それでもなお、自分の役割と組織への責任を手放さなかった。その覚悟や美学には、現代のリーダーにも通じるものがあると感じています。
上下巻の文庫本ですが、とても読みやすい作品です。組織づくりやリーダーシップに関心のある方にはぜひ手に取ってみてほしいです。
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