2024年、クラウドソフトウェア企業BlackLineはAIエージェント「Buckie」を導入した。社員がHRやITに関する質問を気軽にできるナレッジベースだ。しかし1年も経たないうちに移行を余儀なくされた。「テクノロジーの進化があまりにも速かった」とCIOのSumit Johar氏は言う。翌年6月には「Google Gemini Enterprise」に移行し、今では社員が自ら300近くのAIエージェントを構築するまでになった。
こうした急速なAI導入の波は、CIOの課題を複雑にしている。社員の側では、次々と新しいツールやプロセスが押し寄せ、新しいワークフローや期待外れの時間節約から来る燃え尽きによる「AI疲弊」が広がっている。一方、取締役会はCEOにAI導入と成果を強く求め、CIOは経営層と現場の狭間に置かれる。グローバルITコンサルティング企業SutherlandのCIO、Doug Gilbert氏は「現状、AIの導入失敗率は最大90%に達する」と言う。焦って進めるより、じっくり正しく進めた方が、最終的には早く成果が出る、というのがGilbert氏の持論だ。
なぜ社員はAIに疲れるのか
AIインテグレーション企業Cadre AIのファウンダー兼CSO、Riley Stricklin氏は、AI疲弊が広がっているのは社員がAIに反対しているからではなく、新しいツール、新しい期待、絶え間ない変化に圧倒されているからだと指摘する。AI導入の初期は時間がかかり、約束された時間節約が実現する前に一時的に業務負荷が増える。そしてようやく新しいテクノロジーに慣れ始めた瞬間、また新しいものが登場して状況が変わる。「これがAI疲弊を生む。従業員にとって変化のスピードが速すぎるのだ」とJohar氏は言う。
AI疲弊が最も起きやすいのは、既存のプロセスにAIを後付けで乗せたときだとGilbert氏は指摘する。たとえば社員がプログラムのデータをChatGPTなどの別のLLMにコピー&ペーストするように求められるケースだ。さらにAIが会社のデータと適切に統合されていない場合、LLMがハルシネーションを起こし、低品質なアウトプットを生成することもある。これらは、効率性を期待していた社員を疲れさせる。
一方で、既存システムにAIを差し込むのではなく、ワークフロー全体を再考してAIを業務に組み込むアプローチをとったCIOは取り組みに成功している。シームレスにAIを統合できレれば、社員はAIを意識すらしないだろう。そして効率性を手に入れることができる。
あらゆる方向からのプレッシャー
Gilbert氏によれば、場当たり的なアプローチをとってしまう理由はトップダウンのプレッシャーが関係しているという。取締役会やCEOが他社のAI事例を見て「我が社も」となり、その要求がCIOに下りてくる。CIOは素早くソリューションを展開するプレッシャーを感じる。
投資家もAIがコストを大幅に削減することを期待し、リーダーシップに即時のROI証明を求める。しかし「コストを削減する前にコストをかけなければならないことを、常に理解してもらえるわけではない」とJohar氏は言う。McKinseyの調査では、AI関連の業績への影響を報告した企業は参加企業の39%に過ぎず、大多数のAIプログラムはまだ意味のある財務的成果を出せていないことが示されている。
プレッシャーは上からだけではない。冒頭に紹介した他部門からのAIツール導入要請が25%増加している。IT部門は寄せられる要請を一つひとつ評価しなければならず、IT側の疲弊も深刻だ。さらにAIそのものの変化のスピードが速いため、テクノロジーを評価して調達を決定した頃には、すでに時代遅れになっている可能性もある。社員が自ら構築した300近くのAIエージェントに対して、データプライバシーやセキュリティのポリシーへの準拠を確保するガバナンスと構造をもたらすことも、CIOとそのチームの責任だ。
AIをどう語るか——社員を動かすナラティブ
Stricklin氏は、CIOがAIで成功するためには、AI導入の前に「収益改善」「コスト削減」「処理時間の短縮」など具体的なビジネス目標を設定することが重要だと言う。しかし、社員にAIの受け入れを促すには、ビジネス上のメリットを強調するより別のアプローチが有効だとも指摘する。
AIの価値を社員の視点から見るとどうだろうか。業務をより効果的にこなせるようになる、スキルが身につくなどが挙げられるだろう。Johar氏は、このような社員の視点からAIを語ることを勧める。これにより「社員は時間を投資することにずっと協力的になる」。Gilbert氏も、AIは人員削減の手段ではなく、社員と並走するものだというナラティブに転換することの重要性を強調する。人間が常に関与してモデルを微調整し、AIのアウトプットの精度を継続的に高める役割を担うべきだと言う。
Google Workspaceが委託した調査では、AIが会社に大きなプラスの影響をもたらしたと答える確率は、経営幹部の方が一般社員より15%高い。この認識のギャップを埋めることが、CIOの重要な役割だ。
Stricklin氏はまた、組織全体に一度にAIを展開しようとするのではなく、今後6カ月で注力する2〜3の優先領域を選び、社員を巻き込みながら最善の進め方を考えることを勧める。「すべてを同時に解決しようとすると、成果より混乱の方が大きくなる」。どの領域にAIを使わないかを決めることも同様に重要だと言う。
Gilbert氏は「AIがすべてのビジネス課題に対する答えではない。不要だと判断すれば、CEOや取締役会にも臆せず反論すべきだ」と言う。「ときにはAIが答えではないこともある」。
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