はじめに:AI活用の本質は「置き換え」ではなく「協働」にある
昨今の生成AIの急速な進化により、多くの企業がAI活用を加速させています。具体的には、ホワイトカラーがオフィス業務で実施している議事録作成、要約、検索、問い合わせ対応、文書ドラフト作成など、AIが実務に入り込む場面は着実に広がっています。一方で、AI活用の議論が盛り上がれば盛り上がるほど、世の中では「人の仕事はどうなるのか」「どこまでAIに任せるべきか」といった問い・課題も出てきている状況です。
私自身、ヒトとAIの役割を考察する上で前提としている考えは、「AIを単なる効率化ツールとして捉えない」ということです。CIOが本質的に考えるべきテーマは、「どの業務にAIを導入するか」ではなく、「ヒトとAIがそれぞれ何を担い、どう補完し、さらにどう高め合えば、これまで実現できなかった新たな価値を生み出せるのか」を徹底的に考えることにあります。
関西電力グループDX・AI戦略”DXビジョン2035”において、関西電力グループでは目指す姿として「AIを前提とした変革で、ヒトがAIと協働しながら新たな価値を創り続ける」ことを明確化しています。そこに込めた思いとしては、AIの活用は、決して従来の延長線上の改善レベルではなく、事業・業務・働き方の再構築レベルの実現を目指しています。
このように、「ヒトとAIの協働」は、仕事の一部をAIに置き換えることではなく、「ヒトの強みとAIの強みを見極め、仕事の流れ、意思決定、価値提供のあり方を再構築すること」です。これができて初めて、AIは単なる便利なツールから「企業変革に必要不可欠な武器」へと進化すると、私は考えています。
AIは何が得意で、ヒトは何を担うべきか
ヒトとAIの協働を考える上での出発点は、それぞれの得意領域を冷静に捉えることです。
AIは、大量の情報を高速で分析、処理、検索、要約、複数案を提示し、一定のパターンに基づいて推論して評価することに強みがあります。
例えば、社外情報収集、資料ドラフト作成、議事録作成、契約書確認、問い合わせ対応、リスク評価のたたき台作成などは、AIが大きな力を発揮しやすい業務領域です。実際、関西電力においても、AIによる法令チェック、会議案件のAI批評家エージェント、投資案件のAIリスク評価エージェント、社内ヘルプデスクのAIによる高度化、AI活用による法人営業プロセス全般の改革など、多様なユースケースでAIの活用が加速しています。
一方、AI時代においてヒトが担うべき役割は、①問いを立てること、②意味づけをすること、③決断すること、④結果責任をとることの4つだと私は考えています。
AIは、膨大な候補を示すことはできても、「何を大切にするのか」「この会社として何を選ぶのか」という判断の責任は負えません。特に経営、顧客対応、組織運営の現場では、倫理、信頼、感情、利害調整といった要素が絡みます。そのような文脈(コンテキスト)において最終的に拠り所となるのは「ヒトの意思」です。
つまり、ヒトは「何を問うか、何を選ぶかを決める存在」であり、AIはあくまでも「処理結果を速く出す存在」です。この役割分担を曖昧にしたままAI活用を進めると、現場は混乱します。逆に、この整理ができていれば、AI導入は現場の能力を奪うのではなく、ヒトの能力を引き上げるものになります。
協働とは「分担」ではなく「相互強化」である
ここで注意すべきポイントは、ヒトとAIの協働は単純な役割分担表を作れば成立するものではないということです。
重要なのは、両者が互いの強みを引き出し合い、高め合う関係性を設計することです。
トヨタ自動車創業者の豊田喜一郎氏の言葉に、「機械は人間と一体となって完全になる」というものがあります。この言葉のうち「機械」を「AI」に置き換えると、「AIはヒトと一体となって完全になる」となり、AI時代の現代でも十分通じる不変的な考えを表していると私は思います。
では、ヒトのAIの協働にはどのようなパターンがあるのでしょうか。以下に、ヒトの仕事の仕方を、「サイエンス⇔アート」(横軸)、「個人で単独実施⇔複数で協調実施」(縦軸)で4領域のマトリクス図にしてみました。
例えば、
【領域D】 サイエンス × 個人で単独実施 ⇒ タスクをAI+ロボットに任せる。
【領域C】 アート × 個人で単独実施 ⇒ ヒトの創造性をAIが広げる。
【領域B】 サイエンス × 複数で協調実施 ⇒ ヒトとAIが協業する
【領域A】 アート × 複数で協調実施 ⇒ ヒト主体で実施/AIは壁打ち相手
となります。
ヒトがAIに良い問いを与えることで、AIの出力精度は大きく変わります。逆に、AIが論点整理や情報収集を先回りすることで、ヒトはより本質的な判断に時間を使えるようになります。関西電力でも、AIエージェントを経営判断の壁打ち、リスク評価、議論の活性化に活用するPoCが進んでいますが、これは「AIに仕事を丸投げする」のではなく、「AIが思考を拡張し、ヒトの意思決定の質とスピードを高める」という発想で進めています。
これらの協働が進むと、仕事の単位そのものが変わります。これまでヒトが時間をかけて行っていた情報収集・整理・分析はAIが担い、ヒトは問いや仮説の設定、顧客との対話、創造、合意形成、最終判断に集中する。結果として、単なる工数削減ではなく、仕事の質とスピードが上がります。
このように、決して「AIがヒトの仕事を奪う」のではなく、「AIを駆使するヒト・会社」が勝ち、「AIを使わないヒト・会社」が負ける世の中になるのではないかと私は考えています。
CIOが持つべき本質的な問いは、「AIに何をやらせるか」ではなく、「AIが入ることで、ヒトは何に集中できるようになるか」です。協働の最終的な価値は、AIの導入率ではなく、ヒトの仕事の高度化・迅速化にこそ発揮されると私は思います。
協働の実現には、業務再設計が不可欠である
AI活用が思うように進まない組織に共通するのは、ヒトの仕事のプロセス・やり方は変えずに、その一部だけにAIを導入していることです。これは一見一番進めやすそうに見えますが、実際には結果として、AIの力を最も弱く使う方法であり、発揮できる価値も最小化されてしまうことになります。要するに、JTC(日本の伝統的企業)の発想は「既存業務プロセスありきでどこにAIを導入するか」と考えるのに対し、AIFC(AIファースト企業)は「AIがあることを前提に業務を再構築する」ということです。
ヒトとAIの協働を本気で実現するには、業務そのものを分解し直す必要があります。仕事の中にある「課題設定」「収集」「整理」「判断」「対話」「解決」「評価」「改善」などの要素を見える化し、それぞれについて、AIに委ねるべきか、ヒトが担うべきか、あるいは両者で共同すべきかを設計し変革することになります。
これは単なるAIの導入ではなく、事業・業務・組織の設計・変革です。
関西電力でも、AIによる営業プロセス全体の変革、火力部門におけるナレッジ・技術継承支援、法令チェック支援、社内ヘルプデスク高度化などのユースケースがありますが、単なるAI導入・部分最適ではなく、業務全体の流れを俯瞰した上でAIを組み込み、最終的には全体最適の実現を見据えている点に意義があると考えています。
このように、CIOは、AIの導入責任者ではなく、業務変革の設計者として振る舞う必要があります。
CIOは「AI導入責任者」ではなく「協働設計者」である
AI時代にCIOへ求められる役割は、単にAI導入を推進することではありません。
ヒトとAIが共に働く未来像を描き、それを実装可能な業務、制度、ルール、組織風土へと落とし込むことです。その意味で、CIOは「AI導入責任者」ではなく、「協働設計者」だと言えます。ヒトは何に特化し、どの領域でAIを使うのか。ヒトは何をより強く担い、何を手放すのか。こうした問いに答え続けることが、CIOの本質的な仕事になります。
しかも、その設計は一度作って終わりではありません。AIそのものが急速に進化し続けている以上、協働の形も進化し続けます。だからこそCIOは、「正解を示す人」ではなく、「問いを立て続ける人」であるべきです。どこまでAIに任せるのかではなく、AIがある時代に、ヒトは何を磨くべきか。そこを問い続けることが、企業の競争力を左右します。
おわりに:協働の先にあるのは、ヒトとAIが互いを高め合う関係をつくること
「ヒトとAIの協働」と聞くと、多くの人がまず効率化、生産性向上を思い浮かべることと思います。しかし、本当に目指すべき姿は、その先にあります。AIによって人の仕事を減らすことだけではなく、AIによって人の可能性を広げることです。
ヒトがAIを使いこなすのではなく、ヒトとAIが互いを高め合う関係をつくる。そうした協働が定着したとき、企業は初めてAI時代の競争優位を手にします。
CIOが描くべき未来は、AIに仕事を奪われる組織ではありません。AIをパートナーとして、ヒトがより創造的に、より本質的に、より顧客や社会に向き合える組織です。
ヒトとAIの協働とは何か。
その問いを曖昧なままにせず、徹底的に考え、実現すること。
それこそが、AI時代のCIOに課された重要な使命ではないでしょうか。
次回の予告:(第6回)DXを「実行」できる人財の育成――AI時代にCIOが本気で向き合うべき、人と組織の変革
・DXの成否を決めるのは「技術」ではなく「人」である
・DX人財とは、「ITに詳しい人」ではない
・「知っている」だけでは、DXは進まない など