ベンダー経験を武器に、事業成長を牽引するCIOへ
——これまでのキャリアについて教えてください。
私のキャリアは富士通から始まりました。7年間、主に行政向けシステムのシステムエンジニアとして働き、現場で技術を磨いてきました。
その後、2000年にソフトバンク(現 ソフトバンクグループ)へ転職します。当時は孫正義さんが「これからはインターネットの時代だ」と発信していた頃で、社内では次々とインターネット関連のベンチャーが立ち上がっていました。その一つがEコマース事業、現在のセブンネットショッピングです。私はシステム責任者として立ち上げに関わり、約8年間、事業の成長を支える役割を担いました。
次に挑戦したのは、外食ITベンチャーのガルフネットです。トリドールホールディングスをはじめ有名な外食チェーンを顧客に持つ会社で、ここでは4年間、開発責任者としてシステム面をリードするだけでなく、営業責任者も経験しました。技術に加えてビジネスの現場を動かす難しさと面白さを体感できたのは大きな収穫でした。
その後は投資会社Oakキャピタル(現 UNIVA・Oakホールディングス)に移り、約8年間にわたって投資先の企業にハンズオンで関わりました。経営再建やバリューアップ、時には自ら社長に就任するなど、経営そのものに深く入り込む経験を積みました。この時期に培った「事業をどう立て直し、成長へ導くか」という視点は、今の自分の大きな財産になっています。
そして2019年、トリドールホールディングスのCIOに着任しました。ちょうど6年が経過したところですが、これまでのキャリアで積み重ねてきたベンダーとしての知識、事業会社での経験、そして経営者としての視点のすべてを総動員し、事業成長を牽引するCIOとして挑戦を続けています。
キャリアを変えた「ビジネスをつくる」という挑戦
——これまでの経歴の中で、特に印象に残っている仕事はありますか?
振り返ると、それぞれの業種や立場で大きな挑戦がありました。最初にSIに携わっていた頃は、どれだけの規模のプロジェクトを回せるかが自分の成長のものさしでした。当時、800人月規模の開発プロジェクトを20代で任されていて、今思えばとても大きな責任を若いうちに与えてくれる会社だったと思います。
ソフトバンクでは、初めて「ビジネスをつくる」ということに挑戦しました。担当したのは、現在のセブンネットショッピングにつながるEコマース事業です。売上ゼロからスタートし、システム責任者として約200億円規模まで事業が成長するプロセスを支えた経験は、自分のキャリアにおいて非常に大きな意味を持ちました。単なるシステム開発ではなく、ビジネスを成長させることに直結する仕事だったからです。
現職であるトリドールホールディングスのCIOとしての最初の大仕事は、システムの全面的なモダナイズでした。着任してから6年をかけて取り組んできたのですが、ようやくすべての置き換えが完了する段階にきています。
当初は3年で完了させるつもりでしたが、社内の事情や既存の仕組みを丁寧に考慮しながら進める必要があり、結果として時間をかけてでも確実にやり切る形になりました。
取り組みのスタートは「システムがいくつあるのかを数える」ところからでした。最初に洗い出した時点で180ほどのシステムが存在していて、そこから業務の目的に立ち返って整理し、統合を進めてきました。最終的には180のシステムを大幅に集約し、今では40程度にまで減らすことができています。
こうしてみると、システムの棚卸しからモダナイズまでを自分の手でリードしてこられたことは、CIOとして最初に取り組むにふさわしいチャレンジだったと思います。
「オペレーション領域を切り離す」という挑戦
——これまでのキャリアの中で、最もチャレンジングだった出来事を教えてください。
とても神経を使ったのが、トリドールホールディングスで手がけた業務組織改革の取り組みです。
具体的には、トリドールグループの本社業務を、持ち株会社とシェアードサービス会社に分けたうえで、シェアードサービス会社が担っている管理部門の定型業務をオフバランス化し、BPOベンダーに移管するという取り組みでした。社内で担っていた業務を外部に出すというのは、大胆で、非常に繊細な調整を伴うプロジェクトでした。まずはIT部門から着手しましたが、これが最も大変だったと思います。
私は当時、シェアードサービス会社の社長を兼務しており、最大で180人ほどのメンバーを率いていました。そこにはIT運用のチームだけでなく、経理の記帳を担うファイナンス部隊や、人事の給与計算を担当する部隊など、いわゆるオペレーション機能が集約されていました。戦略立案は持ち株会社が担い、日常のオペレーションは一つに束ねて管理する体制を整えていたのです。その業務を少しずつ切り出して外部に移すというのが、当時の私の役割でした。
当然、既存の仕事を担っていた人材の「次のキャリアをどうつくるか」が課題になります。トリドールは兵庫県加古川市で創業し、その後兵庫県神戸市に本社を置いていましたが、当時シェアードサービス会社の拠点も神戸にありました。
渋谷の本社へ転勤可能な人にはホールディングスの業務を打診しましたが、家庭の事情などで転勤が難しい方も多くいました。そうした方には、BPOベンダーへ転籍してこれまでと同じ業務を継続してもらったり、トリドールグループの店舗に活躍の場を移してもらったりと、一人ひとりと面談を重ねて次の道を一緒に決めていきました。
もちろん、これは私ひとりでできることではありません。部長や管理職のメンバーに協力を得て、従業員たちと真摯に対話を重ねながら進めました。最終的には「それぞれが次の環境で長く活躍できること」がゴールでした。会社としての方針は明確にある一方で、できるだけ納得感を持って着地させることが、自分の最大の使命だったと思います。
投資を惜しまぬインターネットの発想がもたらした気づき
——仕事をする上で心に残っている言葉や出来事はありますか?
心に残っている言葉は2つあります。
まず一つは、セブンネットショッピングの立ち上げに関わっていた頃のことです。当時セブン&アイ・ホールディングスの会長を務めていた鈴木敏文さんの言葉を、当時の上司であって会長のご子息である、鈴木康弘さんより教えていただいたことがありました。
あるとき「人前で話すときにどうすれば緊張しないのでしょうか」と尋ねたら、「背伸びせず、分からないことは話さず、知っていることだけ話せば緊張しない」とおっしゃったんです。確かに、分からないことは「分からない」と言えばよい。そうやって等身大で話す人こそ、実績を残していけるのだと強く感じました。
もう一つは同じ時期、セブンネットショッピングがヤフーの子会社の事業だった頃の経験です。当時はまだインターネットが本格的なビジネスになりきっておらず、日本ではヤフーが先駆けていて、Googleがようやく参入したばかりの時期でした。
ユーザーが急増するとサーバが混み合い、システムが逼迫する場面も多かったのですが、その時に当時ヤフーの社長であった井上雅博さんから「インターネットビジネスというのはユーザーのアクセスが増えたらサーバを追加するのがゲームのルールなんだ。」と言われたんです。その言葉にハッとしました。
従来のエンタープライズの世界では、高価なリソースをどう最適化して使い切るか、という発想が基本でした。私自身も「限られた資源を大事に活用する」ことを当たり前だと思っていたのです。
しかしインターネットの世界では「安価なサーバを並べればいい」という発想が主流で、投資を前提にしたスケールアウトの文化が根づいていました。もし追加投資ができないのであれば、インターネットビジネス自体が成り立たないという考え方です。
この考え方の違いは衝撃でした。エンタープライズのテクノロジーと、インターネットのテクノロジーとの大きな違いをまざまざと感じた瞬間でしたし、その違いはいまなお、世の中では完全に融合しきれていない部分が残っていると感じています。
変化に強い基盤づくりこそCIOの最大のやりがい
——CIOとして、どのようなところにやりがいを感じますか?
私にとってCIOのやりがいは、「会社が目指す方向性を加速させる基盤をどうやってつくるか」に尽きると思っています。
当社のミッションは「お客さまに感動体験を届けること」です。その最前線に立っているのは店舗のスタッフであり、それを支えるマネジメント層です。
とはいえ、人だけに頼るのには限界がありますから、そこで「裏側から彼らをどう支えるか」が重要になります。変化に素早く対応できるビジネス基盤を整えることこそ、CIOとしての醍醐味だと思います。
IT部門が自分たちの論理だけで動いていても面白くはなりません。大事なのは「ビジネスにどれだけ貢献できているか」「変化にどれだけ柔軟に対応できる基盤を築けたか」ということです。
例えば事業のスケールを考えるとき、「業態が増えたら一つの仕組みで賄うのか、それとも複数を組み合わせるのか」といった設計思想が問われます。また「サーバ台数を増やすのか、一台を大規模化するのか」というスケールアウト/スケールアップの判断も必要になります。こうしたアーキテクチャの検討は非常に面白い部分です。
さらに、今のように変化の激しい時代では、経営陣が「やっぱりやめよう」と方針を転換することは必ず起こります。そんなときに「多額の投資をしてしまったからシステムを捨てられない」というのでは困るわけです。
だからこそ、私はなるべくサブスクリプション、つまりSaaSを活用しています。特にバックオフィスのように柔軟性が求められる領域は、SaaSを組み合わせた方がリスクを抑えられます。
こうした判断を支えているのは、エンジニアとしての経験と、事業経営に携わった経験の両方です。テクノロジーに精通していないと最適な選択はできませんし、経営の視点がなければ「ビジネスをどう支えるか」という答えも出せません。その両方を活かして考えられるのは、CIOとしての一番の楽しさだと思っています。
実は私はITベンダー時代から「これからはSaaSが必須になる」と考えていました。当時は提案してもユーザー企業が採用しなければ形になりませんでしたが、CIOの立場になって初めて「自分が決めれば実行できる」と実感しました。これは非常に大きな違いであり、事業会社側に移ったからこそ挑戦できていることです。
トリドールグループは変化を恐れずに進化を続けてきた会社です。だからこそ急成長してこられたし、時代の荒波にも沈まずに対応してきました。この強みは絶対に失ってはいけないですから、そのためにも、システム基盤を全面的にSaaSにする取り組みを進めてきました。
SaaSベンダーの製品の裏には優秀なエンジニアが数多くいて、考え方によっては彼ら全員が私たちを支えてくれている存在とも言えます。自社の力だけではなく、外部の力をどう組み合わせるか。それを設計できることこそがCIOの役割であり、私にとってのやりがいなのです。
——AI活用についてはいかがですか?
世の中では生成AIばかりが注目されていますが、私たちが注力しているのは「現場の生産性を高めるAI活用」です。生成AIはホワイトカラーの業務効率化には有効ですが、私たちの事業に直結する現場業務では、もっと実務的なAIの力が必要だと考えています。
その代表例が需要予測です。売上や来店客数をAIで予測することで、「明日は何人のスタッフを配置すべきか」「どれだけ食材を仕入れるべきか」といった店舗マネジメントの計画を効率化できます。これにより、現場の負担を大幅に軽減することができました。
もう一つは顔認証を活用した勤怠管理です。当社には多くのパート・アルバイトスタッフが働いており、その打刻作業は大きな課題でした。従来の指紋や静脈認証では水仕事や寒さで例外が発生しがちでしたが、顔認証に切り替えてからは例外ゼロ。しかも打刻スピードも速く、マスクをしていても瞬時に認証できるため、現場から「勤怠がスムーズになった」と好評です。
派手さはありませんが、こうした取り組みが現場の生産性を着実に引き上げています。これこそが、私たちが目指すAI活用の本質だと思っています。
CIOに必要なのは「ビジョンを語ること」と「やり抜く覚悟」
——CIOに必要な資質とは何でしょうか?
私が最も大事だと思うのは「覚悟」です。もちろん「決めたことをやり切る」ことも重要ですが、その前に「何を目指すのか」をはっきりと打ち出さなければなりません。未来の絵を描いたら、「この方向へ会社を導いていく」と宣言する。その宣言自体が、CIOにとっての覚悟の証だと思っています。
私自身も「DXビジョン」を社外に公表したことで、「もう絶対にやり切るしかない」と腹が決まりました。そうすることで、社員もベンダーも「トリドールグループはこういう姿を目指しているのだ」と理解し、同じ方向を向けるようになるのです。これは非常に大きな意味を持ちます。
CIOには、目指す姿を絵として示し、そのビジョンに向かってひたすら突き進む力が求められます。その際、バックキャストの発想が欠かせません。「このゴールに到達するために、今何をすべきか」を逆算して考えるのです。フォアキャスト、つまり現状の延長線上で課題解決を積み重ねるだけでは、新しい価値は生まれません。
もちろん、一定の安定期に入ればフォアキャスト的な改善で十分なこともあります。しかし、大きな変革を起こす時には、バックキャストで大胆に道筋を描く必要があります。
そして、ときに大きなギャップが生じたら「違う、こちらに舵を切るぞ」と果断に方向転換できる——。これこそがCIOに求められる資質だと私は考えています。
デジタル時代のリーダーが身につけるべき「三本柱」とは
——これからCIOを目指す人材に求められるスキルは何でしょうか?
私自身、チームのメンバーには「将来はCIOやCTO、あるいはCDOといった役割を担える人材になってほしい」と常々伝えています。日本にはまだそうした人材が十分に育っていません。だからこそ、多くの企業でデジタルをビジネスに結びつける橋渡し役となれる人を増やす必要があると思っています。若い人も、最初からこの役割を目指してキャリアを積んでほしいと考えています。
そのために必要なのは大きく三つの力です。
まずは基礎的な技術力です。コードを書けないITリーダーもいますが、書けるに越したことはありません。私自身も中学生の頃からコードを書いてきました。プログラミング言語も一つではなく、二つ以上学ぶことで比較ができ、より深い理解につながります。これは転職を経験すると新しい世界が見えるのと同じで、複数の視点を持つことが重要だと思います。
次に必要なのはアーキテクトとしての力です。ユーザー企業のCIOは「既存の技術をどう組み合わせ、自社のビジネスに最適な構造をつくるか」を常に考えなければなりません。CTOの役割に近い部分でもありますが、ネットワークやインフラ、クラウドといった基礎を理解していないと、最適な組み合わせを判断できません。システムアーキテクトとしての知識と発想は必須だと考えています。
そして最後はコミュニケーション力です。プロジェクトがうまくいかない原因の多くは、技術力不足よりもコミュニケーション不足にあります。私は1on1をよくやりますが、相手は社長からグループ会社の役員、事業会社の幹部まで幅広いです。彼らが「何をやりたいのか」を理解しなければ、先を見据えたシステム設計はできませんし、信頼できる相談相手になれなければ良い成果も出せません。これは自分だけでなく、部長クラスのメンバーにも求めています。
基礎的な技術力、アーキテクトとしての構築力、そしてコミュニケーション力——。この三つはCIOを目指す上で欠かせない資質です。BtoB企業なら特に、パートナー企業との関係が重要ですから、若いうちから強く意識してほしいと思っています。
目指すは「世界に通じる外食企業」――グローバルブランドへの挑戦
——今後の展望について教えてください。
当社は「グローバルフードカンパニー」を企業ビジョンに掲げています。目指しているのは、有名なハンバーガーチェーンやコーヒーチェーンと肩を並べる、日本初の「世界に通じる外食企業」になることです。
トリドールグループはすでに30カ国以上に展開していますが、すべての国で日本と同じクオリティーを実現できているかといえば、まだ課題が残っています。ここをどう底上げするかが、これからの大きなテーマです。私はデジタルの力で水準をそろえ、さらに新しい国へ展開しやすい環境を整えることが、ビジネスの加速につながると考えています。
これまでは日本市場に注力してきましたが、今後はグローバルの子会社やフランチャイズパートナーに対して、より積極的に支援していきたいと思っています。
もちろん、すべてを一律の仕組みに当てはめるのは現実的ではありません。製造業のように全世界で同じシステムを展開するアプローチもありますが、私たち外食産業では「現地の人に食べてもらって初めて価値がある」わけですから、一定の自由度を残しつつ、「トリドールグループとして絶対に守ってほしい基準」をどう浸透させるかが重要になります。
そこで有効なのがデジタル基盤です。仕組みに組み込んでしまえば、意識せずとも自然に基準が担保される。そうした仕掛けを増やしていきたいと考えています。
ただしやりすぎると、当社の強みである「手づくり・できたて」のこだわりが薄れてしまうリスクもあります。その線引きをどうするかは難しい課題ですが、むしろそこに面白さがあると感じています。
トップや事業会社の責任者と一緒に議論を重ね、現地に合った最適なバランスを見つけていく。そうした取り組みをグローバルに広げていきたいと思っています。
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