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“全員が使える”を当たり前に 八千代エンジニヤリングのデジタル変革

デジタル技術への転換と技術者の役割変化

大手総合建設コンサルタント会社の八千代エンジニヤリングは、都市計画、河川整備、環境保全、交通インフラなどの分野で「計画・設計・評価・監理」などを行い、官公庁の公共事業に参加、社会のインフラや地域の暮らしを裏側から支える役割を果たしてきた。しかし公共事業が減少していく中で、民間事業にも進出する必要性に迫られた。そのためには新しい取り組みをしていく必要がある。

そのためデジタル技術やAIを活用した都市設計、スマートインフラの分野にも力を入れており、技術者たちの仕事はこれまでのような経験則に基づくやり方から、デジタルを駆使したやり方が求められるようになっている。そのような中で2021年7月に、DX(デジタルトランスフォーメーション)の専任組織、「DX推進室」が設立された。

八千代エンジニヤリングがDXを進める理由について技術管理本部技術管理課課長、DX推進室専門課長などを務める中田泰輔氏は次のように語っている。

「昔なら年に数回とられるデータとそこで起こっている事象を経験則に基づいて分析するということがまかり通っていました。しかし昨今は気候変動しかり、自然現象自体がわれわれの経験則にはそぐわないものが出てきています。またそのデータ量は非常に大きくなってきていて、その処理もしなければならない。さらに最近は生成AIなどテクノロジーの発展が目覚ましく、われわれとしてもデータ分析の力量を上げていかなければならないところにきているわけです。そのような中でわれわれが社内の基盤と人材を育成していく必要に迫られたのです」

八千代エンジニヤリングが進めるDXとは、土木とデジタルの融合を目指しデジタルツイン、BIM/CIM(3D設計・施工支援)、AI解析などを活用し、インフラの設計・施工・維持管理の精度を高めていこうとするもの。従来の経験工学に加え、データ駆動型の意思決定を可能にするために社内業務の抜本的な見直しを行い、クラウド移行やSaaSを導入、セキュリティ強化を段階的に実施している。

そうした中でデータの扱いも変わる。

「これまでは社内の管理データ(電子データ化されたもの)を情報技術部が管理し、データを必要とする部署はそこに連絡して、そこから出力してもらっていました。しかし現在はデータを必要としている人が直接データベースにアクセスして自分でデータを取り出したり、ダッシュボード(視覚的に分かりやすく表示するインターフェース)を使って“見える化”したりするような仕組みに切り替えています」(中田氏)

使用しているBIツールは同社が契約しているGoogle Workspaceに内含されている「ルッカースタジオ(Looker Studio)」と有償の「タブロー(Tableau)」。メールのようにみんなで見るようなものについてはルッカースタジオを使い、もう少し深堀していくようなものについてはタブローを使っている。ただ全社員がまず学ばなければならないのは、ルッカースタジオだという。

「どうしてもデジタルツールを使える人と使えない人の力量の差が出てきます。使える人にみな、仕事を頼むわけです。そうすると、全体の底上げにはならないので、全社員のITの知識を引き上げていきたいというのがリスキリングの狙いです」(中田氏)

全社員へのITスキル習得を目指して

ではどのようにしてDX人財の育成を行っているのだろうか。まず最初におこなったのがツールの選定だ。「ITパスポート取得支援」のようなサービスを含め、さまざまな選択肢が検討されたが、結局資格取得だけでは実務で活用できる本当の意味でのリスキリングにならないと判断。そこで経済産業省が定める「デジタルスキル標準」を参考に社内で独自の学習ツールの構築なども検討した。しかし八千代エンジニヤリング単独で学習ツールを作るのは難しいと判断。そこでさまざまなeラーニングサービスを検討し、「デジタルスキル標準を基準に定量評価できる」サービスを探し、行き着いたのが「GLOBIS 学び放題」だったという。

グロービスは経営人材の育成と企業変革の支援を中心に展開する日本発の教育・投資・知見発信企業だ。DX人材育成には、単なるITスキルの習得にとどまらず、組織変革をリードできる人材を育てるという特徴がある。

リスキリングの推進役は技術管理本部。ゼロから「リスキリング実施計画」を作成した。

「まさに手探りの状態からのスタートでした。中長期的な経営計画、経営陣が社内向けに発信している今後のビジョン、そして先行して設立されたDX推進室の計画などを読み解きながら、『会社にとって必要な人財とは』を考えていきました。しかし業務が忙しい社員にとって新しいスキルを学ぶことは、大きな負担がかかります。そこで、そうした現場の実情とのギャップをどのように埋めるかを意識し、議論を積み重ねながら検討していきました」(中田氏)

特にデジタル分野の学習には抵抗を感じる社員は少なくない。いきなり新しい領域に挑戦するのではなく、まずはアップスキリング(既存業務のスキル向上)の要素を取り入れた。

「具体的には、デジタルを活用して現在の業務をどう効率化できるか実践してもらい、その後で新しい領域の学びへとつなげるステップを踏むことで、スムーズに学習を進められるよう工夫しました」(中田氏)

最初に取り組んだのは学習のマイルストーンになる「スキルマップ」を作ることだった。

スキル成長の4段階スキーム

「最初に考えたのは、どんなスキルが必要かということでした。このとき課題を見抜いて解決する力である『ビジネス推進スキル』と、問題解決のための技術力である『デジタルスキル』の2つを習得することが必要だと考えました」(中田氏)

さらにスキルの成長段階を整理し、スキルは、ただ「知っている」だけではなく、実際に使えるようになるよう4つのLevelに分けられた。

Level1(現在の社員の状況、エクセルやワードなど会社公認のアプリで上司の要求には応えられるが、最新の技術を使いこなせないレベル)
Level2
(ITパスポート合格レベルの知識を有し、BI、AIの特性を理解し、BIを業務に活用できるレベル)
Level3
(デジタルスキルを駆使しながら、顧客の課題解決や提案をしつつ、仲間にスキルを伝達できるデジタル技術をかなり使えるレベル)

Level4(社会課題解決のアプローチを想定でき、デジタルリソースで解決シナリオを構築し、組織にカルチャーを根付かせることができるレベル)

そしてリスキリングの目標として、まずは「全社員がLevel2を目指す」という目標を設定。より専門的な技術を持つ社員を増やすために、20%(約200名)の社員を2027年6月までにLevel3に到達させることを目標にした。

キックオフでは冒頭のあいさつを社長の高橋努氏に依頼し、全社員に激を飛ばしてもらったという。

「最初のうちは理解してもらうのに、丁寧に話をしていく以外方法はありませんでした。当社は社内の情報共有でSlackを活用して、リスキリングのチャンネルを設定してなるべく議論の透明性を高めるようにしました。とにかくやりやすいところから始めようということで、グロービスと相談しながら、eラーニングのDXのリテラシーアセスメントを活用して『あなたのITの知識を測定しましょう』『Level2の達成率は70%を目指しましょう』というところから始めました」(中田氏)

DXのリテラシーアセスメントは全部で40問。すべてのビジネスパーソンが知らなければならない知識などで構成された経済産業省が策定した「デジタルリテラシー標準(DSS)」に準拠し、この問題を解くことで、自分はどの分野が弱いのか、わかるようになるという。

「このアセスメントは40問で1問につき1分。40分で終わるスタイルになっているため、テストのために何時間もかかるといった心配はない。導入もしやすかったですし、時間の管理もしやすいと感じました」(中田氏)

2024年4月にスタートし、いきなり80%の社員が参加した。Webなのでいつでも受験が可能だ。

DXアセスメントを受験した社員は、その結果に基づいてリコメンドされたコンテンツを学習。DXアセスメントの正答率を70%に設定し、目標を明確化。目標到達率を可視化し、Slackを活用して達成状況を全社で共有。自社で作成したeラーニングコンテンツ「BI基礎講座」を受講することで、デジタル技術の知識取得にとどまらず、実践でも活用できるような建付けにした。

BI研修の構成と学習ステップ

BI研修はいつでもWebから参加することができる。10項目くらいあり、最初は動画を見ながらBIを理解し、第2ステップで実際にBIツールを使っていろいろなグラフの作成などを行う形になっている。

「まずはBIとはなんであるのか、というところから学べようにコンテンツを作成し、データレイク、データウェアハウス、データマートなど社内で整備したデータ分析環境に、各人にアクセスしてもらう。そこから各種いろいろなグラフを作って提出してもらうわけです。最終的には、自分で作成したダッシュボードを使って答えるテストを組み込んでいるので、ちゃんと作れれば答えられる。これがゴールです」(中田氏)

例えば、自社の人事データをベースに労働者の年齢構成をデータにしたものや台東区の産業連関表を使ったどの地域の産業がどのくらいの売り上げを上げているのかを図表にまとめるものがテストの問題となる。勉強時間は就業時間扱いとなる。昇進などの人事評価にはつなげていないという。

「アセスメントとBI研修含めてトータルで年間16時間。就業時間内にやるわけですから、当然それなりに人件費が発生する。そのお金の負担は各部署が行うということで、どの程度までが許容額なのか、かなりシミュレーションしました」(中田氏)

各部署の合格者の割合はSlackを活用して全社的に情報が共有されるようになっている。

「情報が公開され、どこの部署で何割の合格者が出ているということがわかると、部署間の競争も相まって結果的には多くの社員が参加するようになりました」(中田氏)

DXアセスメントはすでに90%取得し、BI研修を終えてLevel2に認定されたのが、6月末時点では、対象者の98%、1072人を認定した。ほぼ目標は達成した。

「実は昨年4月にスタートして、その半年後の10月にBI研修をし、年度末は繁忙期になるのでしばらく研修を中止していました。そして4月から再スタートしたものですから、5月時点ではLevel2の取得者が510人に留まってしまっていた。しかし取得者が増えるように認定者のリストを作り、Slack上に公開し、もっと頑張るよう社員に喚起し、2025年6月末までに全員Level2をクリアするという目標はなんとかクリアーできたと思います」(中田氏)

自社制作のBI研修コンテンツをeラーニング化

さらにLevel2に合格すると次はLevel3に挑戦することになるが、Level1からLevel2に昇格するのとは次元が違うという。

「Level3になってきますと、お客様に対してきちんとしたサービスを提供することができるのか、ということが求められます。何か研修するということではなく、いろいろな業務をしているのでその業務の成果内容が評価の対象です。高い技術を持っていても仲間にいろいろ教えるような横展開ができず、属人化していたりする人は少なくない。そうしたスキルの横展開をすることが求められます。高い技術を社内に技術承継する。そうしたことが確認されれば、認定されるわけです」(中田氏)

認定のプロセスは本人が申請し、その内容や社内での展開状況を直属の部長が評価し、技術開発本部に推薦する。技術開発本部の本部長と副本部長が審査会を開いて認定する。審査基準が固まったのが4月だったことから、それから募集をかけ、2人がLevel3に承認され、3名が承認待ちとなっている。(6月末時点)

Level4はデジタルの技術だけでなく問題解決の能力も求められるという。

「技術力が高くなってくると、専門化・先鋭化してきてしまいます。マネジメントに特化していく人もいれば、研究者のようになっていく人もいる。それをやりながら組織のカルチャーを根付かせてくれる、ザ・八千代みたいな人がLevel4に認定されることになると思います。基本的には我々の会社には研究所があるのですが、そこの所長は対外的にも活躍していますし、もともと技術出身でお客様の問題も解決してきている。そうした人物がlevel4と呼ばれるようになるのだと思います」(中田氏)

では今後はどのような取り組みを行っていくのか。

「今後の取り組みとしてはLevel2のリスキリングで、新たに生成AIの活用などを進めていきたいと思っています。DX関連のアンケートで多かったのはやはり『生成AIを使ってみたいけれどもなかなか触れる時間がない』という声でした。社内のDXカンファレンスでも実際に業務でどのように生成AIを活用しているのか、活用事例などの発表が行われました。そしてもう一つはLevel3を増やしていく、ということです」(中田氏)

DXに関連する社内教育に詳しいアローサル・テクノロジー社長の佐藤拓哉氏は次のように語る。

「中小中堅企業で今旬なのは生成AIですね。ここで重要なのは学ぶというよりはアシスタントのように使うということが大切です。ではどのようにアシスタントとして活用するのか。文章で質問する際に課題になるのは、一般の言葉と生成AIが求めている言葉との違いというものをきちんと認識するべきです。ひとつは具体的に質問することが重要です。そして自分の知識レベルにまで生成AIのアドバイスを落とし込んでもらうことが重要です。たとえば本当にわからないのであれば、あえて生成AIに、『先生が小学生に教えるように説明してください』と指示をしてもいいんですよ。いかに自分が理解できるようになるのか、その指示の仕方を覚えることが重要だと思います」


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Source: News

Category: NewsJuly 21, 2025
Tags: art

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