リコーの技術を支えるCTO:専門外から始まった技術者の挑戦と選択
大学では工業化学、特にセラミックを専攻していたのですが、1986年、リコーへ入社した際に抱いていたのは、「あえて化学以外の分野に挑戦したい」という強い意志でした。その希望を配属面接で伝えた結果、化学以外の部署に配属されました。
当時、急成長していたファクシミリ事業の新規開発部門に配属。液晶を用いた新製品開発に携わり、技術者としての幅を広げていきました。その後、リコーの主力製品である複合機のコントローラシステム開発に従事。ハードウェアとソフトウェアの融合領域で、製品の中核を担う技術に深く関わっていきます。
そして、クラウド技術の重要性を見据え、リコーグループ共通のクラウドプラットフォーム「RICOH Smart Integration」の立ち上げを主導。新製品の企画・開発に数多く関わってきました。現在は、CTOとして技術の選定や評価、いわゆる技術の目利きを行っています。
また、社外活動にも積極的に取り組み、経団連での委員活動や、一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会での理事などを通じて、日本の情報通信産業の発展にも寄与してきました。
「技術の力で社会を変える」──その信念を胸に、今もなお、リコーの技術戦略と日本のICTの未来を見据え、挑戦を続けています。
技術は国境を越える:国際標準化に挑んだ技術者の歩み
技術者として特に印象に残っている仕事のひとつが、ファクシミリ事業部で取り組んだカラー静止画像伝送技術の開発です。当時、FAXは白黒が主流であり、カラー化は技術的にも大きな挑戦でした。
「FAXにカラー画像伝送技術がなかった時代に、どうやって電話線で画像を送るか」──この課題に向き合う中で、JPEG、JPEG2000、MPEGといった画像圧縮技術の国際標準化に関与する機会を得たことは、大きな転機となりました。
もともと化学を専門にしていた私にとって、画像伝送技術は未知の領域。猛勉強の末、世界中の技術者と議論を交わす国際標準化の場に立つことができたことは、現在のCTOとしての基盤にもなっています。
特に、JPEG2000のワーキンググループでは議長を務め、各国の代表と技術的な議論を重ねながら合意形成を図る経験を積みました。この中で、「相手の技術の良さを見極め、自社の強みも理解してもらう」ためのネゴシエーション力を磨くことができました。
この経験は、技術の目利き力を鍛える機会となり、現在のCTOとしての判断力に直結していると思います。
さらに、その技術の広がりとして、ネットワークカラオケの初期モデルの開発や、デジタルカメラの画像ファイルフォーマットの設計にも関与。MPEG技術を通じてDVDやMP4などの分野にも携わり、多くの技術者とつながったことが私にとって非常に大きな功績かなと思います。
社内の壁を越えて:CTOが語る、技術革新を実現する信念と対話
ファクシミリや画像圧縮技術の国際標準化に関わる一方で、もう一つ大きな挑戦として取り組んでいたのが、リコーの主力製品である複合機のコントローラシステムの大改造です。
当時、携帯電話がスマートフォンの登場によって急速に進化していたことを受け、「複合機にもスマートフォンの技術を活かしたい」という発想から、Android採用の操作部を提供するという大胆なチャレンジに踏み切りました。これは、将来的に複合機の最新機能の追加をネットワークで実現することを見据えた構想でもありました。
しかし、新しいコントローラーは従来よりも7,000~8,000円ほど高価で、年間100万台規模の製造を考えると社内からの反発も大きかったのです。
ですから、最大の壁は社内にありました。
それでも諦めず、「将来のソフトウェアとの親和性やスピード感の重要性」を役員に語り続け、理解者を増やしていったのです。
この挑戦は、「将来を信じて諦めずにやる」ことの大切さを教えてくれた最大のチャレンジだったと思うのです。
さらに、もう一つの挑戦がクラウドサービスの立ち上げです。
コントローラーの進化と連動して、「クラウドの時代が来る」と確信し、リコー独自のクラウドシステムを構築。しかし、欧州で開催された技術展示会ではセキュリティの懸念から一度は拒否されるという壁に直面しました。
それでも、翌年に同じ展示会で再び提案したところ、クラウドの重要性が認識され、評価が一変。この経験から、「世の中のトレンドを見て、価値を訴求し続ければ必ず理解される」という信念を得ることができました。
「君子は義に喩り、小人は利に喩る」:CTOが語る、人間力と仕事の本質
技術者として数々の挑戦を重ねてきましたが、今も心に深く刻んでいる言葉があります。それは、部長になりたての頃、退任された大先輩から贈られた一言でした。
「リコーの看板がなくても信頼される人間になれ」。
この言葉は、「会社の肩書きではなく、あなた自身の人間性や信頼で人が集まるようになれ」という意味であり、私の仕事観を大きく変えるきっかけとなりました。
以来、「仕事とは人と人との信頼関係がすべて」という信念のもと、技術開発だけでなく、社内外の人々との関係構築にも力を注いできました。
私が今でも心に残る座右の銘として、孔子の言葉があります。
「君子は義に喩り、小人は利に喩る」。
これは、「正しさを基準に判断し、損得では動かない」という価値観を表しており、技術者としての判断軸にもなっています。どんなに困難な状況でも、「正しいことを貫く」という姿勢が信頼を築いてきたのです。
その結果、退任された先輩とも今なお交流が続き、「人と人とのつながりが、肩書きを超えて生き続ける」ことを実感しています。
この言葉には、私が技術者としてだけでなく、人としてどうありたいかという深い思いが込められています。
より具体的なCTOの仕事観、やりがいや魅力に焦点を当て、リーダーシップやITリーダーへの効果的なアドバイスなど、野水氏に話を聞きました。詳細については、こちらのビデオをご覧ください。
CTO・CDO・CIOを一人で担う:技術・データ・経営をつなぐ三位一体の挑戦
リコーではCTO以外のCIO、CDOといった役職設けていないものの、実質的にCTOがCDO、CIOの役割を兼任し、デジタル技術の推進を牽引しています。
それぞれの役割には明確なミッションがあります。
CTOは「技術の先読み」をし、未来の技術を見極めます。
CDOは「データドリブンの経営システムの構築と運用」を担います。
CIOは「デジタルを活用した経営の効率化」を推進します。
この3つのベクトルを揃えて動かすことで、スピーディーな意思決定と実行が可能になるというのが大きなメリットだと思っています。
また、CTOとしてのビジョンも明確に打ち出しています。
「リコー独自のテクノロジーを活かして、お客様と共にイノベーションを創出する」という言葉には、リコーならではの技術力と顧客との共創への強い思いが込められています。
このビジョンには、リコーが掲げる「7つのリコーウェイ」の中でも特に重要な、
- CUSTOMER-CENTRIC(お客様の立場で考え、行動する)
- INNOVATION(制約を設けず、柔軟に発想し、価値を生み出す)
- PASSION(何事も前向きに、情熱を持って取り組む)
- WINNING SPIRIT(失敗をおそれず、まずチャレンジし、成功を勝ち取る)
という4つの価値観が反映されており、社員にも積極的に共有されています。
「技術だけでなく、人や組織の成長もCTOの役割」と位置づけ、リコーが掲げる「“はたらく”に歓びを」という使命と目指す姿のもと、社員一人ひとりが実感できる文化や環境づくり、エンジニアを元気にすることを大切にしています。
「技術・人・組織をつなぎ、未来を創る」──CTOとしての挑戦は、リコーの技術戦略だけでなく、企業文化そのものを支える力となっています。
未来への種を蒔く:CTOが描く技術と経営の架け橋
CTOとしては、「明日の種を蒔く」ことが大事です。
経営の視点ではどうしても短期的な成果が重視されがちですが、技術の世界では中長期的な視点での育成が不可欠です。将来の発展のために、今から種を蒔いておく──その考え方こそが、CTOの本質だと思います。
そのためには、経営陣に中長期視点の重要性を理解してもらうことがCTOの最大の責任であり、現場との密な連携、そして迅速な意思決定が成功の鍵となります。
特にデジタルの世界では、変化のスピードが格段に速くなっています。
私は技術者になり、部長時代から一貫してミクロではなくマクロの視点で技術を見つめてきました。
「世の中のマクロトレンドを常にウォッチし、必要な技術をすぐに取り込める体制を整えること」が重要と思っています。
マネジメントにおいても「信頼できる右腕・左腕に任せる勇気」を持ち、情報を受け取ってスピーディーに判断を下す体制を築いています。このような役割分担が、大きな組織を動かす上で不可欠な要素だと考えています。
そして何よりも大切にしているのが、「現場の声を素直に吸い上げられる組織」です。
「コミュニケーションが良い組織が勝つ」という信念のもと、現場との信頼関係を重視し、組織全体の活力を引き出すことに力を注いでいます。
唯一無二の存在を目指して:CTOが語る、技術と組織を育てる中長期視点
これからのITリーダーや技術者に求められる資質とは何か──その問いに対し、「唯一無二の存在になってほしい」と思っています。
「世界一になるのは難しい。でも世界初はアイデアとスピードで勝負できる」。
この考え方は、オリンピックの金メダルではなく、ギネスブックに名を刻むような発想の転換を促すものです。
「真似できない強みを持つこと」こそが、これからの時代に必要な価値だと思うのです。
私自身、化学を専攻してリコーに入社しながら、現在はソフトウェアやデジタル分野で色々な経験をしてきました。「同じ土俵で勝てないなら、勝てる土俵を探す」という発想で、国際標準化という新たなフィールドを切り拓き、自分の尖った強みを築いてきたのです。
また、技術者としての視点だけでなく、「顧客価値」ではなく「体感価値」を重視する姿勢も必要です。
「お客様がどう感じているかを大切にする」──これは、論理や機能だけではなく、右脳や感性を使って判断することの重要性を示しています。エンジニアにも、「感覚を大事にしてほしい」と常に伝えています。
そして、何よりも大切なのは、「高いモチベーションを持ち、現状に満足せずに改善を続けるマインド」。この姿勢が、個人の成長だけでなく、企業全体の進化にもつながります。
「自分だけの価値を見つけて、挑戦し続けてほしい」。私は全力で応援したいと思っています。
三愛精神から始まる未来:CTOが語る、技術と人材で創る“はたらく”歓び
リコーの原点には、創業者・市村清が掲げた「三愛精神」があります。
「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す」──この3つの愛を社員一人ひとりが心に刻み、創造力を発揮してお客様に価値を届けることが、リコーの基本理念です。
社会や働き方が大きく変化する中、リコーもまた変革を続けています。
2020年には働く人の創造力を支える「デジタルサービスの会社への変革」を宣言し、複合機を中心とした製品販売から、ITサービスや各種デバイスを組み合わせ、企業が取り組むDXを支援するデジタルサービスのビジネスモデルへとシフト(リコーのDX)。AIの進化やリモートワークの普及に対応し、単純作業を減らし生産性を向上するとともに、創造力の発揮を支援することへと私たちの役割も変化しています。
この変化を支えるのが、「デジタル人材の育成」です。
リコーでは、「リコーデジタルアカデミー」や独自の教育プログラムを通じて、人材育成を推進。現在、約200の国と地域でビジネスを展開しており、技術やサービスとしてお客様に還元する体制を整えています。
CTOとしては、「技術の目利き」を重視しています。
特にAI分野では、シリコンバレーなどの最先端技術を現地で直接キャッチし、日本やグローバルに展開する組織を2025年4月に新設。「現地の技術をすぐに取り入れ、グループ全体で発信する」というスピード感が、今後の競争力の鍵になります。
また、「AIを使いこなす人材」の育成が重要です。
「AIは日々進化している。だからこそ、自分たちが使って、経験とノウハウ、事実データを蓄積し、それをお客様に提供する」という考え方が核となっています。
私たちは「“はたらく”に歓びを」という使命と目指す姿を掲げ、それを社員一人ひとりが心に抱きながら、お客様にどう届けるかを常に考えています。
AIの分野では、私たちは早くから技術者の育成に取り組み、画像認識や自然言語処理技術を活かして研究開発を進めてきました。
AIは日々進化しており、現在は世界中で膨大な投資が行われ、技術の進化スピードは加速しています。その中で私たちは、最先端の技術をいち早く取り入れ、実践を通じて知見を深め、お客様の課題解決に最適なソリューションを提供してまいります。 この取り組みを支えるのが、先ほど申し上げた「デジタル人材の育成」です。私たちは、AIを含めた技術を使いこなす人材を社内で育て、共に成長することを大切にしています。
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