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【寄稿:第1回】「危機感」の共有と「好奇心」をベースに、大きな機会を捉える――VUCA時代におけるCIOが示す羅針盤とは

1997年関西電力入社。2024年からIT戦略室長として、デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進により生産性向上と価値創出を図る取り組みに従事。

AI産業革命に備えるための「DX・AI戦略」を策定後、OpenAI社との戦略的連携により全社員が生成AIを武器として使い倒すことで、日本の伝統的な企業(JTC)からAIファースト企業(AIFC)への転換を図っている。

経済産業省 人材育成タスクフォース(ビジネスアーキテクチャ/データマネジメント)委員。 関西大学客員教

はじめに:変化は「例外」ではなく「常態」になった

近年、企業を取り巻く経営環境は、かつてないスピードで変化しています。2022年11月のChatGPTの登場以降、生成AIは将来のAI産業革命を予感させるほど凄まじい勢いで会社・社会に浸透し始めており、当社においても、これまでのIT戦略は役に立たないとの危機感から、「DX・AI戦略」として再策定しました。また、グローバルレベルでのサイバー攻撃リスクや地政学リスクの高まりにより、重要インフラ事業を担う当社においても、情報セキュリティリスクの総点検と十二分な対策が求められています。日本においては超少子高齢化が進展しており、当社においても労働人口の減少を前提とした、人財の質×量の対策だけでなく、新たな価値創出の面でも対策が必要不可欠となっています。これらの変化は決して一過性のトレンドではなく、企業経営の前提条件そのものを塗り替えています。

一昔前、「ITはビジネスの何らかの役に立つ」時代でした。その時代のCIOの役割の中心はITの企画・導入・活用・運用の着実なマネジメントやITコストの最適化でした。「ITとビジネスは一体不可分」の時代となった現代においてCIOに求められている役割は、経営と現場をつなぎ、変化の兆しをいち早く捉え、組織としての進むべき方向を示し、変革を先導する「羅針盤」となることが求められています。

その変革の起点となるのが、「危機感の共有」と「好奇心」です。

「危機感」とは、不安を煽ることではない

ここで言う「危機感」とは、いたずらに不安や恐怖を煽ることではありません。「現状の延長線上に未来はないかもしれない」という事実を、真摯に冷静に組織全体で受け止め共有するという、言わば「健全な危機感」です。

多くの組織では、「今まで通りのやり方で特に大きな問題は起きていない」「これまでこのやり方でうまくいっていた」という過去の経験や成功体験が、無意識のうちに変化の必要性に対する感度を鈍らせてしまっています。しかし、VUCA(Volatility:変動性, Uncertainty:不確実性, Complexity:複雑性, Ambiguity:曖昧性)の時代で環境変化のスピードが指数関数的に加速している昨今においては、昨日までの常識は、今日、明日には非常識となり、通用しなくなる可能性があります。

CIOは、最新の技術動向などの外部環境をいち早く収集・分析したり、現場の強み・弱みや問題・課題を部門横断で俯瞰して把握できたりする立場にあります。だからこそ、

  • 「このまま変化が続けば、会社、社会でどんな問題が発生する可能性があるのか」
  • 「組織のどこに構造的な課題・リスクが潜んでいるのか」

を言語化し、経営層や現場と密にコミュニケーションし、理解、共感、納得を得た上で変革を進める役割を担う必要があります。

当社においても、エネルギー業界における「5つのD」

  1. 脱炭素化(Decarbonization):CO2削減に向けたゼロカーボンの取り組み
  2. 分散化(Decentralization):太陽光発電・系統用蓄電池など分散する小規模の電源の集中制御・運用
  3. 自由化(Deregulation):電力自由化に伴う、電気事業以外への多角的な事業展開・価値創出
  4. 人口減少(Depopulation):労働人口減少に伴う生産性向上や新たな価値の創出
  5. DX(Digital Transformation):上記4つのDすべての同時解決に向けたカギ

への課題解決が求められています。

「変革の1丁目1番地は、健全な危機感の共有」であり、「危機感は、変革のためのエネルギーであり、行動を起こす出発点」であるという認識のもと、ジョン・P・コッターが著書『実行する組織』で述べている「変革の8つのアクセラレータ」のうちの最初の3つについて、当社においても、

  1. 危機感を高める
    社長から「生成AIは、従業員の働き方やお客さまの体験を大きく変える力を持つ革新的な技術。今後、業務効率の向上やエネルギーインフラの次世代化、デジタル技術を活用した新たな価値創出を目指す。これからも持続可能な社会の実現に向けて、これからも失敗を恐れず果敢に挑戦し続け、一歩先の未来を切り拓いていく」といったメッセージを発信することで、当社グループ全体の健全な危機感を高める。
  2. コア・グループを作る
    DXを担うコア・グループであるデジタル専業子会社「K4 Digital」に専門家を集結し、現場のDXを全面支援する。
  3. ビジョンを掲げイニシアチブを決める
    AI産業革命の到来に備えた「DXビジョン・ロードマップ」を掲げ、「DX戦略委員会」といった具体的施策を行い、トップダウンでの変革を進めてきました。

「危機感」だけでは、ヒトも組織も動かない

一方で、危機感だけでは、ヒトは長く走り続けることができません。不安や恐怖、やらされ感を原動力にした変革は、いずれ疲弊や反発を生み、失速します。ここでカギになるのが、「好奇心」です。

好奇心とは、「知らないことを知りたい」「試してみたい」「自分たちなら何ができるだろうか」といった、前向きで内発的なエネルギーです。特にデジタルやAIの領域では、好奇心の有無が、組織の学習・成長スピードを大きく左右します。

またCIO自身が、素直な気持ちで、新しい技術やサービスに対して関心を持ち、自ら触れ、試し、語る率先垂範の姿勢を見せることは、想像以上に大きなメッセージになります。「まずは使ってみよう」「スピード感を持って小さく試行してみよう」「他人より早くたくさん失敗して、そこから学び成長しよう」という組織風土は、CIOの言行一致のメッセージ・振る舞いから生まれると考えています。

当社においても、

  • AI/デジタルを使う場の提供として、OpenAI社の「ChatGPT Enterprise」を全社員やグループ会社へ展開し、社長以下全員が生成AIを武器として使い倒し、AIエージェントを創ることができる環境を整備
  • CIOとして自ら行っている小さな実験としては、「関西電力はJTC(日本の伝統的企業)ではなくAIFC(AIファースト企業)を目指したい」というメッセージを、生成AIで作成した「AI武装した上田 晃穂」のプロフィール画像とともに伝える、というDX広報戦略を試行
    • 若手や現場を巻き込むための工夫としては、若手や現場の「やりたい」という欲求・動機を見過ごさずに捉え、変革の胎動をしっかりと経営の視界に入れながら、心理的安全な自己実現/実験の場を整備しつつ、変革の障害物を取り除く

といった施策を進めています。

「好奇心」が、危機を「機会」に変える

危機感と好奇心が強力に結びついたとき、初めて「機会」が見えてきます。

同じ環境変化という事実を目の前にしても、「これは脅威だ」と捉える組織と、「ここに新しい可能性がある」と捉える組織では、その後の具体的な行動も異なり、数年後にはまったく異なる景色が広がると思います。

例えば、生成AIの登場は、今後、多くの業務や会社、社会全体を変えていくでしょう。それを「仕事がAIに奪われるリスク」として捉えるのか、「ヒトがより創造的な仕事に集中できるチャンス」と捉えるのか。その視点の違いが、AI時代における新たな経営スタイルを生み出し、人財育成、組織設計、組織風土を形作ります。

CIOの重要な役割は、決して技術そのものを語ることではなく、技術を通じて「どんな未来が創れるのか」を示すことです。好奇心をベースにした問いかけは、一人ひとりの「自分事化」を促し、組織に前向きな創造力をもたらし、変革への納得感を高めると考えています。

当社においても、DXに取り組み始めたばかりの頃は、十分な環境・体制もないままに、単に「これからはDXが大事だ!どんどん挑戦しよう!」と声高に叫ぶだけの状態で、思うようにDXが進まない時期がありました。

DXを推進する際、私たちはつい「どの技術を使うか」「どのツールを導入するか」といった手段の議論に目を向けがちです。しかし、実際にDXの成否を分けるのは、技術そのものではなく、心理的安全性の確保をベースとした「組織風土」にあるのではないか? 私はそれに気づいたとき、一筋の光が見えた気がしました。DXとは、正解の分からない挑戦の連続です。仮説を立て、新しい技術を試し、失敗して学び成長し、それを次につなげる。そのプロセス自体がDXであり、最初から完璧なゴールやコースが用意されているわけではありません。

それにもかかわらず、「言い出しっぺが損をする」「失敗すると評価が下がる」「間違ったことを言うと非難される」「前例がないことはやらない方がマシ」という空気が組織に漂っていれば、ヒトは挑戦しなくなります。結果として、DXは掛け声倒れに終わり、PoC止まり、DXのやったフリや形骸化を招きます。現在、当社では心理的安全性をベースとした全社の組織風土改革に全力で取り組んでいます。この組織風土改革がDXを加速し、会社全体の変革を後押ししていることは間違いありません。

CIOは「正解を出す人」ではなく、「問いを立てる人」

VUCAの時代においては、完璧な正解を出すことは不可能です。だからこそ、CIOに求められるのは、「正しい答えを出すこと」に拘るよりも、「問いを立て続けること」だと考えています。私が特に大切にしている問いは以下の3つです。

  1. なぜ今やるのか/やらないと何が起きるのか
  2. 今起こっている変化はわれわれのビジネス・業務にどのような影響を与えるのか
  3. われわれは「何を変えず」に大切にし続け、デジタル技術を駆使して「何を変える」のか

こうした問いを常に組織全体に投げかけ、議論を促し、試行錯誤を後押しし、成長・変革を促すこと。これこそが、明るい未来を創り出す羅針盤としてのCIOの役割です。

おわりに:「危機感」と「好奇心」の両輪が変革の原動力

  • 「危機感は、現実を冷静に直視する力」です。
  • 「好奇心は、明るい未来を切り拓く力」です。

この二つは、どちらが欠けても力強く前に進み「続ける」ことはできません。CIOがこの二つを高次元で両立させ、組織全体に伝播させていくことで、変化は「ピンチ」から「チャンス」へと変わります。

不確実性の高い時代だからこそ、CIO自身が羅針盤となり、組織の仲間とともにチーム力を発揮して大きな機会を捉えていく。そして、ヒトより早くたくさん挑戦し失敗することは、次の企業価値を生み出し、持続的成長につながる原動力になると信じています。

次回の予告:顧客志向で、ワクワクするビジョンを描き、創り出す(第2回)

・なぜ今、ビジョンが問われるのか
・顧客志向とは、「顧客の言うことをただ単に聞くこと」ではない
・ワクワクする未来像が、組織を動かす など


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Source: News

Category: NewsJanuary 28, 2026
Tags: art

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