「育児」と「失敗の経験」が変えたマネジメントスタイルとは──コスモエネルギーホールディングス濱田由比氏に聞く
食品会社のSEからエネルギー大手へ ——これまでの経歴は? 2020年にコスモエネルギーホールディングス(以下、コスモエネルギー)に転職し、それ以前の約10年間は、食品関連企業のシステム子会社でSEとしてシステム開発に携わっていました。いわば「情シスから情シスへ」というキャリアで、現在もシステム開発や保守運用を中心に担当しています。 実は、最初からITの仕事を強く志望していたわけではなく、大学では生物系を専攻していたことから就職活動でも食品業界を考えていたほどでした。 転機になったのは、SEとして働いている父の「性格的にSEが合っていると思うよ」という一言で、その言葉に背中を押されてこの道に進みました。 最初に入った会社で情報システム部門に配属され、そこで実際に仕事をする中で、システム開発の面白さに引き込まれていきました。もともと理数系だったので、課題を細かい要素に分解し、それをどう組み合わせれば最適解になるのかを論理的に考えることに面白さを感じるタイプでした。その意味でもこの仕事は自分の性格に合っていると思います。 ——仕事をする上で大切にしていることは? 仕事をする上で強く意識しているのは、「自分がいなくなった後でも、周囲が困らない仕組みを作ること」です。 日々の業務が忙しいと、どうしても手間のかかるタスクを後回しにしたくなる瞬間がありますが、その場しのぎで済ませてしまうと、後から誰かが困ることになります。だからこそ「この仕事が終わった後、自分がいなくなっても回る状態になっているか」を常に考えるようにしています。 こうした考え方を強く持つようになった背景には、自分自身の経験があります。育児のために産休・育休を取得した際、周囲に負担をかけてしまったという感覚がありました。その経験を通じて、「誰かが抜けても困らない状態を作ること」が、組織で働く上で大事なことだと実感したのです。 実務の中でも「臭いものに蓋をするような対応」はしないよう心がけています。1年後、2年後に誰かが困ることになるのなら、できるだけ早い段階で手を打つようにしようと考えています。 マネジメントでつまずいた経験と「愛を持って接する上司」との出会い ——自分の価値観を変えるような失敗の経験はありますか? 大きな転機になった失敗は、コスモエネルギーに転職する前の職場で経験しました。 当時、2人目の子どもが生まれたことで、自分の意識がほぼ完全に子育てへ向いた時期があったのです。その頃の私は、リーダーとして複数のメンバーをマネジメントする立場でしたが、チームメンバーと十分に向き合えなくなっていました。 本来なら、相談を受けた際に「それは違う」ときちんと伝えなければいけない場面でも、曖昧な対応を続けてしまっていたのです。その結果、チームは徐々に機能しなくなり、最終的には崩壊に近い状態になってしまいました。 今振り返ると、原因は明確です。コミュニケーション不足と、自分自身のリソース配分の失敗でした。仕事が非常に忙しい時期だったにもかかわらず、育児と仕事のバランスをうまく取れなくなっていたことで、チームメンバーへの関心が薄れてしまっていたのです。この経験は、自分のリーダーとしての考え方を根本から見直す大きなきっかけになりました。 その後、コスモエネルギーに入って出会った最初の上司の存在が、大きな転換点になります。その上司は、「愛を持って接する」という言葉をよく口にしていました。正直なところ、最初は「仕事における愛とはどういうことだろう」と、あまりピンと来ていませんでした。 しかし実際には、その上司は部下の小さな変化にも気づいて声をかけてくれたり、適切なタイミングで褒めてくれたりしていたのです。そして気づけば、その姿勢そのものが、自分が頑張れる原動力の一つになっていました。そこで初めて、「自分もこういうリーダーになりたい」と思うようになったのです。 それ以来、少しずつ真似できるところから実践するようになりました。特に意識するようになったのは、「褒め方」です。ただ何でも褒めるのではなく、「日々、ちゃんと見ているからこそ伝えられる言葉」があると思っています。子育てを通じて、結果だけでなく、そこに至る努力を認めることの大切さを学んだことも影響しています。 例えば、メンバーが苦しそうにしている時には、「これが終わったら飲みに行こうか」と自然に声をかけるようにもなりました。そうした小さなコミュニケーションが、チームの空気を大きく変えることもあると感じています。 実際、コスモエネルギーへ転職して以降、大型案件をいくつか経験しましたが、以前よりもチームが一体感を持って動けるようになった実感があります。 ——育児などのライフイベントが、仕事やキャリアに影響を与えた経験はありますか。 一人目の子どもが生まれた時に、働き方や価値観が大きく変わりました。 それまでは、「自分のことは自分でやりたい」「自分のやり方で進めたい」という意識が強く、どちらかというと一人で完結するプレーヤータイプでした。ただ、子育てが始まると、一人ではどうにもならない場面が次々に出てきます。その中で、「本当に困った時には、人を頼ることも大切なのだ」と実感するようになりました。 以前は「助けて」と言うことに抵抗がありましたが、少しずつ、自分から周囲へ頼ることも必要なのだと考え方が変わっていったのです。 一方で、ただお願いするだけではなく、「相手が大変な時には自分も支える」という姿勢をきちんと示すことも大事にしてきました。 丁寧に周囲とコミュニケーションを取りながら、少しずつ協力を得ていった記憶があります。 ——日々変化する技術トレンドをどのように学んでいますか。 情報収集では、XやTikTok、YouTubeといったSNSを積極的に活用しています。 意外に思われるかもしれませんが、TikTokにはAI関連サービスを短時間で分かりやすく解説している海外エンジニアのコンテンツが多いのです。例えば、Microsoftのエンジニアが最新技術を1〜2分程度で紹介している動画なども数多く投稿されています。そうした動画をきっかけに興味を持ち、そこから公式サイトや海外の技術ドキュメントまで掘り下げて確認する、という流れが習慣になっています。 英語のドキュメントについても、生成AIを活用すればかなり効率よく理解できるので、ChatGPTのようなツールを使いながらキャッチアップしています。 また、生成AIとの対話そのものも、日常業務の中でかなり活用しています。以前であれば、新しい製品やサービスを検討する際には、コンサルタントやベンダーへ依頼して資料を作ってもらうケースが一般的でした。しかし今は、まず生成AIに聞いてみることが増えました。ネット上にある情報をAIが整理してくれるため、ベンダーに問い合わせる前段階で知識を整理するのに役立っています。 さらに最近は、深く思考するタイプのLLMと対話しながら、自分の考えを整理する使い方もしています。AIとの対話を通じて思考を精緻化し、それを文章化して、企画書や計画書の叩き台にしていくイメージです。 特に生成AIの効果を実感しているのは、「相手に合わせて説明を組み替える」場面です。例えば役員向け資料を作る際、「何を伝えたいか」という本質は変えずに、相手の役職や関心に応じて表現を最適化する必要があります。その部分をAIに支援してもらうことで、資料作成の効率だけでなく、情報の伝わりやすさ自体も向上したと感じています。 また、グループ長になってからは、同業他社との勉強会や情報交換会にも積極的に参加するようになりました。同じような課題感を持つ人たちと話せるだけでも大きな学びがありますし、「A社はこの方法で失敗した」「B社とC社のやり方を組み合わせてうまくいった」といったリアルな事例は、自分たちの施策を進める上で参考になります。社外ネットワークは、自分の考えや方向性を客観的に検証し、前に進めるための大きな支えになっていると感じています。 「リーダーになりたくなかった」リーダーが、グループ長になるまで ——理想とするリーダー像と、そのために実践していることをお教えください。 今年度、グループとして掲げた目標は2つあります。 1つは「みんな仲良くしよう」。もう1つは、「一人ひとつ、ワクワクする案件を作ろう」という目標です。 一見するとシンプルな言葉ですが、そこには明確な意図があります。まず、「仲良く」というのは、単なる馴れ合いを意味しているわけではありません。立場を気にしすぎず、言いたいことを率直に言い合える、心理的安全性の高い関係性を作りたいという意味です。現在は週4日出社が基本になっていますが、だからこそ「会社に来ること自体が楽しい」と思える状態を作ることが重要だと考えています。 もちろん、すべての業務が楽しいわけではありません。ただ、自分自身がワクワクできるテーマや案件を一つでも持てると、仕事への向き合い方やモチベーションは大きく変わります。そして、それは結果として生産性向上にもつながると思っています。 私自身が理想としているリーダー像は、「前に立って引っ張る人」というより、「背中を押す人」に近いイメージです。メンバー一人ひとりが自律的に動ける状態を作るために、まずはゴールや方向性をしっかりすり合わせる。その上で、細かく管理するのではなく、必要な時に支援する立場でいたいと考えています。 ——リーダーとしての覚悟が試された経験はありますか? 私は最初から「リーダーになりたい」と強く思っていたわけではなかったので、初めてチームリーダーになった当初は不安のほうが大きかったことを覚えています。 特に大変だったのは、リーダーに就任した直後の時期です。それまでは、自分に与えられた役割や担当範囲に集中していればよかったのですが、リーダーになると、チーム全体を俯瞰しながら問題を見つけ、さらにメンバー一人ひとりの状況まで考えながら動かなければなりません。自分だけを見ていればよかった状態から、チーム全体へ視野が一気に広がったことで、想像以上に負荷を感じました。 一方で、「リーダーをやっていてよかった」と思えるようになったのは、1〜2年かけて取り組んできた案件が成果につながり始めた頃です。特に2025年から2026年にかけては、大変だったプロジェクトが次々に成功し、チームみんなでハイタッチしたくなるような瞬間が増えていきました。 最近は、「リーダーになりたくない」と感じる若い世代も多いと聞いており、その気持ちはよく分かります。私自身もそうだったからです。ただ、自分の経験を振り返ると、もし本当に合わなければ、その時に別の道を考えればいいので、「まずは一度やってみる」という姿勢は大事だと思っています。年齢とともに自然と責任範囲は広がっていきますし、一度チャレンジしてみる価値は十分にあると感じています。 ——男性比率が高いIT領域で、女性リーダーとしてキャリアを築いてきた経験について教えてください。 正直に言うと、これまで「女性だから」ということを強く意識して仕事をしてきた感覚はあまりありません。 家庭でも男の子を2人育てていることもあり、普段から性別をあまり意識しない環境にいるせいかもしれません。ただ一方で、産休や子育ての大変さは自分自身が経験してきたので、その部分については以前よりも自然に配慮できるようになったと感じています。 私は比較的、その場で率直に思ったことを伝えるタイプで、それによって問題がその場で解決するケースも多いと感じています。例えばチームの中で、誰かに対して理不尽な言い方をする人がいたり、「それは自分の担当範囲ではないから」と線を引いて関与を避けようとする姿勢が見えたりすると、男女に関係なく「どうしてそんな言い方をするの? 今はみんなが大変な時期なんだよ」と、ついその場で言ってしまうことがあります。感覚としては、子どもが友達に失礼なことをした時に、「それは違うよ」と自然に声をかけるのに近いかもしれません。 もちろん、言い方や伝え方には気をつけますが、モヤモヤを抱えたまま心の中に溜め込むよりも、安心して話せる場で言葉にしてしまったほうが、チームとしては健全だと思っています。 「次はもっと良くできる」――改善の手応えが次の挑戦への燃料に…

