急成長するネオ・クラウド市場:AI特化型クラウドは新たな選択肢になりうるか
爆発的成長が予想されるネオ・クラウドとは ネオ・クラウドとは、GPU中心の高性能インフラに特化したクラウドプラットフォームを指す。主要なサービスは、GPUaaS(GPU as a Service)、GenAI(生成AI)プラットフォームサービス、そして高容量データセンターの提供だ。 このネオ・クラウド市場、実に驚異的な成長を遂げている。調査会社のSynergy Research Groupによると、2025年第2四半期(4月-6月期)の収益は前年比205%という高い成長率を記録し、50億ドルの大台を突破した。2025年通年の収益は230億ドルに達する見込みという。 急成長の背景には、AIインフラへの高い需要がある。 企業のAI需要は急増しているが、ハイパースケーラーなどのクラウドプロバイダーは「膨大なAI需要に供給を合わせるのに苦労している状況」とSynergyの創業者でチーフアナリストを務めるJeremy Duke氏はコメントしている。 従来、企業がAIワークロードを実行する選択肢は、オンプレミスかパブリッククラウドと大きく二択だった。しかし、それぞれに大きな課題がある。オンプレミスでは、GPUは高価で電力消費が大きく、専門人材の確保や物理的な導入が困難という課題がある。一方、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloudといったハイパースケーラーのパブリッククラウドは、幅広いサービスを提供する反面、コストの予測が難しいというリスクがある。業界、ユースケース、組織のルールなどの縛りがある場合は、データ主権の観点からも懸念が残る。 ネオ・クラウドは、この二つ以外の選択肢として登場した。ハイパースケーラーが広範なクラウドサービスを提供するのに対し、ネオ・クラウドはGPUとAIワークロードに特化することで差別化を図る。 IDCのアジア/太平洋 エンタープライズサーバーおよびデータセンターリサーチグループでアソシエイト・リサーチディレクターを務めるCynthia Ho氏は、「ネオ・クラウド事業者はNVIDIAとの契約により迅速にリソースを確保し、高性能なサービスを提供している点でハイパースケーラーよりも優位性がある。AIという成長市場でシェアを獲得しつつある」と述べている。 ネオ・クラウドのメリットは「安心して試せる場所」 ネオ・クラウド市場の主要プレイヤーには、CoreWeave(2017年創業)、Crusoe(2018年創業)、Lambda(2012年創業)、Nebius(Yandexから2024年に誕生)、そしてOpenAI(2015年)など。最後のOpenAIは「ChatGPT」を提供するが、2025年初めに発表したAIインフラの「Stargate」構想により、今後市場の重要なプレイヤーになると見られている。これらに加えて、Applied Digital、DataRobot、Together AIなどの新規参入も続いている。興味深いのは、CoreWeaveのように、暗号マイニング企業が高性能コンピューティングサービスプロバイダーへと転換しているケースが多い点だ。 ここまで挙げたネオ・クラウド事業者は米国や欧州中心に展開している大手だが、ローカルで提供するネオ・クラウドもある。その1社がオーストラリアで展開するSharon AIだ。2024年に創業、この11月に最大50MWの容量拡大契約を発表したばかりだ。 Sharon AIでCTOを務めるDan Mons氏が、Ciscoが11月にオーストラリア・メルボルンで開催したイベントで、Ciscoのオーストラリア&ニュージーランド バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めるStefan Leitl氏と対談した。そこではネオ・クラウドの優位性として、以下が挙がった。 まずコスト優位性だ。ハイパースケーラーと比較して予測可能な価格体系を提供し、予想外の課金のリスクを回避できる。従量課金で予想外の高額請求が発生するリスクを嫌う企業にとって、これは大きなメリットだろう。 2つ目として、専門性の深さである。ネオ・クラウドプロバイダーの多くは、HPC(ハイ・パフォーマンス・コンピューティング)やスーパーコンピューティングの分野で知見を持つ。実際、Mons氏は「AIであまり語られていない秘密」として、「AIインフラで必要な知識の多くは、HPCやスーパーコンピューティングの世界では40年以上前からやってきたこと」と明かす。HPCのバックグラウンドを持つMons氏らにとっては「新しいものではない」と語る。この専門知識があるからこそ、複雑なAIワークロードに対応できるという。 3つ目が、迅速なリソース提供だ。ネオ・クラウドプロバイダーはNvidiaとの契約を通じて、ハイパースケーラーよりも迅速にGPUリソースを確保できる。GPU不足が続く現状において、これは決定的な優位性となる。 これらに加えて、Mons氏が挙げた興味深い優位性が、「安全に失敗できる場所」だ。生成AIプロジェクトの95%がPOCから本番環境に到達しない(MITレポート)などと言われている。「組織が必要とするのは安全に失敗できる場所であり、早く失敗するして学ぶ必要がある。新しい技術を試してみることが重要で、その場所を我々は提供できる」とMons氏。 最後に上がったのが、データ主権への対応だ。「データ主権は多次元的な問題だ」とMons氏は指摘する。データなしにAIはない。通貨とも言われるデータだが、データの種類によっては「データをどこに置くべきか、従うべきコンプライアンス規制はどれか、地域でスキルをどう見つけるか、信頼できるベンダーをどう見つけるかなどを考えなければならない」(Mons氏)。Sharon AIなどローカルで展開するネオ・クラウドはこうした地域特有の要件に精通しており、グローバルなハイパースケーラーとは異なる価値を提供している。 企業がネオ・クラウドに注目すべき理由 実際にネオ・クラウドを利用する企業はどのような企業なのか。 Mons氏は、初期顧客の1社としてVictor Chang心臓研究所を紹介した。従来の研究をGPUベースに移行し、AIを活用しているという。Sharon AIを選択した理由はGPUへのアクセスだけでない。医療研究機関が扱うデータは機密性が高いため、データ主権は極めて重要な課題だ。Sharon AIはオーストラリアの2拠点にインフラを設置しており、データが国外に出ることはないという点が魅力だったようだ。 Victor Chang心臓研究所のような研究機関や大学に加え、AIサービスを開発するスタートアップなどもネオ・クラウドの顧客のようだ。「現時点では、技術的な知識が比較的高い企業が組織が多いようだ」とHo氏。一部地域では、GPUアクセスに制限のある中国企業が顧客というネオ・クラウドもあると言われている。 成長は今後も続きそうだ。Synergyは2030年までにネオ・クラウド市場の規模は約1800億ドルに到達し、年平均成長率69%で拡大すると予測している。GPUaaS/GenAIプラットフォームサービス市場は現在、年間165%という高い成長率を維持しており、ここでネオ・クラウドはかなりのシェアを占めるという。 だが課題はある。Ho氏は稼働率を挙げる。「巨大なインフラ投資が必要だが、実際のところ稼働率はどのぐらいか。利用は追いついていないのではないか」(Ho氏)。ネオ・クラウドという選択肢が定着するためには、ユースケースやメリットをより明確にして訴求する必要もありそうだ。 気になる日本ではどうなのか? IDCでシニアリサーチマネージャーとして日本国内のエンタープライズインフラストラクチャ市場を担当する加藤慎也氏は、日本では「ネオ・クラウド」と大々的に名乗る事業者は登場していないと認めながら、経済産業省の「クラウドプログラム」などによりGPUの大規模投資が発生しており、今後GPUクラウドサービスが活況となる可能性を示唆した。実際に「GPUをフルに活用できる環境として最適化されており、パフォーマンスのメリットは大きい」と話す。 現時点での用途は研究開発や学術研究などこれまでHPCを用いていたユースケースがわかりやすいものの、企業も動向に注目しておく必要はありそうだ。日本でもネオ・クラウドサービスが本格化するかという提供者側の課題はあるものの、「HPCおよびAI領域において、すでにGPUを利用していたり大規模な需要があったりする企業は、クラウドにある効率的・効果的なインフラという選択肢になる可能性はある」と加藤氏。「ネオ・クラウドの重要な特徴にコストとスピードがある。AIを活用する分野で、開発力で競争優位性を測るためにも選択肢の1つになりうると注目しておいて良いだろう」と続けた。 Read More from This Article:…

