『課題 × デジタル = 価値 ⇒ 成果 ⇒ 成長・変革』――CIOが描くべき、成果・成長に直結するDXの方程式
デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が使われ始めて久しくなりました。しかし各社からは、「PoC(概念実証)は実施したが成果につながらないPoC地獄だ」とか、「生成AIは全社導入したが利用率が上がらない」といった声を耳にすることも少なくありません。
なぜDXは、これほど取り組まれているにもかかわらず、成果に結びつかないケースが多いのでしょうか。その原因の一つは、「デジタル技術を導入すること自体が目的になってしまっている」ことにあると思います。いわゆる「目的と手段の混同」です。
DXの本質は、デジタル技術そのものではなく、
・デジタル技術を導入することで、どんな「課題」を解決したいのか
・誰のため何のために「価値」を提供するのか
・その提供価値はしっかりと「成果」に結びついているのか
・成果を持続的に積み上げることで、個人や組織、会社の「成長・変革」につながっているのか
にあると考えます。言い換えれば、

という方程式を立て、価値の連鎖を設計した上で、戦略は実行できているのか、成果を出し続けられているかがDXの成否を分けると思います。
まずは 「課題」から始める
DXが失敗する典型的なパターンは、「この技術が使えそうだ」「他社もやっているからこのITツールを導入する」といったプロダクトアウトの発想です。もちろん技術進展を追いかけるという意味での知的好奇心はとても重要なのですが、技術・ツールを導入すること自体が目的化した瞬間に、DXは迷走を始めることになります。まず問うべきは「私たちが本当に解くべき課題は何か」です。
業務の標準化・自動化を進めて生産性を向上させたい
データ活用を進め、高度な意思決定につなげたい
顧客ニーズに迅速に対応することで顧客満足度を向上したい
人財不足への対応、ベテラン社員のナレッジ蓄積をしたい
デジタル技術やデータを活用して新しい事業・サービスを創出したい
など、様々な課題がある中で、解くべき課題を曖昧にしたまま、いくらデジタルを掛け算しても、思ったような価値は生まれません。
CIOは、顧客や社会の声を傾聴し、経営層や事業部門と徹底的に対話した上で、解くべき課題を言語化する役割を担います。ときには、表面的に見えている事実や問題事象、発する言葉の裏にある潜在的なニーズ・課題にまで踏み込む必要があります。
課題を明確にするということは、単なる現状分析ではなく、たくさんの問題の中から今解くべき課題として選び取り、かつ、解決する優先順位を決める行為です。限られた資源(ヒト・モノ・カネ・情報・時間)を有効活用して、どこにデジタルを掛け合わせるかを決断する覚悟が求められます。
デジタルは「掛け算」である
解きたい経営・業務の「課題」が明確になった後、初めてデジタルの出番が来ます。しかしここでも重要なのは、「導入」ではなく「掛け算」です。デジタルは、それ単体で価値を生むわけではありません。あくまでもWHATにあたる「経営・業務課題」に対して、手段としてのHOWにあたる「デジタル」が掛け合わされてこそ、意味を持ち価値を生み出します。
デジタルが得意なことはたくさんあります。市場分析、動向や設備劣化などの予測、最適化、顧客接点強化、暗黙知の形式知化、遠隔操作・集約化・自動化・生産性向上など、近年のデジタル技術の進展により、現在は多数の課題解決ができる状況となっています。

例えば、社内に営業力強化という課題がある場合、生成AIやデータ分析技術を掛け算すれば、
・顧客や社会全体のニーズ・課題を自動で情報収集・要約し、営業パーソンに配信する
・顧客のペルソナをAIエージェント化し、顧客体験向上につながるニーズ・意見をAIエージェントから多数挙げてもらう
・生成AIを使って顧客への提案資料を自動作成する
・顧客との商談が終わると同時に、SFAシステムに営業日報が自動登録され、営業チーム内や上司に共有される
・顧客との商談履歴を生成AIが分析・評価し、AIエージェントが商談のクロージングに向けたアドバイスをしてくれる
・顧客からの問合せ対応については、定型的な内容はAIエージェントが回答し、非定型で高度な内容については人間が回答・対応する業務プロセスへと変革する
といった形で、営業全般の業務・シーンに対してデジタル技術の利活用が可能となります。また自社における営業活動のノウハウから成功パターンを抽出して標準化・システム化するとともに、AIの利活用を前提とした変革を併せて実行することで、より大きな価値が生み出されることになります。
ここでCIOに求められるのは、デジタル技術の知識・スキルはもちろんのこと、「業務と技術の接点を設計する力」です。課題を理解し、業務の流れを俯瞰し、どこにデジタルを掛け算すると最もレバレッジが効くのかを見極める。この設計力こそが、CIOの核心的な役割だと思います。
価値を定義しなければ、成果は測れない
「課題 × デジタル」が実現したとしても、それが「価値」につながっているかどうかを測れなければ、組織は動き続けません。ここでいう価値とは何でしょうか。以下に、第2回の私の記事でお伝えした「価値ピラミッド」の「機能的価値」「情緒的価値」「社会的価値」の3層を再掲します。

DXで提供される価値としては、機能的価値として収益向上、コスト削減、省力化、リスク低減などが中心となりますが、情緒的価値には安心の提供、魅力やつながりの提供があり、社会的価値には社会貢献、環境問題への対応、帰属・縁の提供、自己実現などもあります。
いずれの提供価値であっても、重要なのはDX施策を構想する際に、「このDXの取組みの提供価値は何か」「何をもって成功とするのか」「どのKPIで測るのか」を設計・定義しておくことです。これらをDX施策を始める段階で明確にてしておかなければ、提供価値が曖昧になり、結果として「成果・効果が見えない」という状態に陥ります。
CIOは、適用技術の責任者であると同時に、事業部門と一緒に価値を共創し、成果責任を共有する経営メンバーです。価値を定量・定性の両面で定義し、投資対効果を説明できる状態を作ることがDXを進める上では必要不可欠だと私は思います。
成果を出して初めて、成長と変革が始まる
経営学の父ピーター・ドラッカーの言葉に「成果に焦点を当てよ」というものがあります。ドラッカーは「何をしているか」ではなく「何を達成したか(成果)」に意識を向けるべきだと繰り返し説いています。DXは決して単発プロジェクトで終わることはありません。DXの真の目的は、企業の圧倒的競争優位の確立と持続的成長、そして組織変革です。このうち組織変革については、ミッションやビジョン、バリューを掲げただけでは進みません。課題とデジタルを掛け算して、継続的に価値創出できる場を設計し、成功と失敗を繰り返しながら、実際の成果が見えてくると、少しずつ組織の空気が変わり始めます。
・「A事業部門では、生成AIを使って、これだけ効率が上がって、○○円の効果が出た」
・「B事業部門では、各職場で自発的にDXを進めており、個人も組織も成長し、組織風土も良くなっている」
このように成功事例が社内で共有され始めると、DXは「一部の人だけがやる特殊な取組み」から「全社員が当たり前のように取組む仕事のOS」へと位置づけが変わっていきます。
小さくても良いので成果を出すこと。成果が出たら全社で共有し褒め、称え、祝うこと。その繰り返し、積み重ねが、やがて大きなうねりとなって組織全体の変革を促進します。
CIOは、PoCで終わらせず、実装・評価・横展開・定着までをやり切る覚悟を持つ必要があります。
DXは「組織風土」の変革である
最終的に、課題解決から価値創出を繰り返し、それを成果・成長につなげることで、組織には新しい風土が作られ始めます。
心理的安全性も、仕事の基準も、共に高い組織
小さく早く試し、人より早くたくさん失敗して、失敗から学び、成長する組織
AIの利活用を前提に変革し、業務を再構築する組織
これらが企業全体に根付いたとき、DXは単なる施策ではなく、企業のOSになり、やがて企業のDNAになります。
CIOの役割は、技術の導入者にとどまりません。課題を起点に、デジタルを掛け合わせ、価値を定義し、成果を出し続ける仕組みを設計すること。そして、そのプロセスの繰り返しを通じて組織風土をより良いものに変えていくことだと私は強く思います。
おわりに:方程式を、解き続け、回し続ける
「課題 × デジタル = 価値 ⇒ 成果 ⇒ 成長・変革」という方程式は、一度解けば終わりではありません。環境が変われば課題も変わり、デジタル技術もどんどん進化します。だからこそ、この方程式を回し続ける仕組みと覚悟を持つことが重要です。
VUCAの時代において、CIOは単なるIT責任者ではなく、経営変革の推進者です。デジタルを手段として、課題を解き、価値を生み、成果を出し、組織を成長・変革させる。その連鎖を設計し実行し続けることが、CIOに課された使命だと言えるでしょう。
DXの本質は、技術ではなく「課題解決力」にあります。デジタルを武器にして使いこなし、使い倒し、成果へとつなげる方程式を、組織とともに磨き続けていきたいと強く思います。
次回の予告:(第4回)AIは良い「データ」を浴びて成長する――CIOが担うべきデータマネジメントの本質
・AIは「データの鏡」である
・データは「自然に整うものではない」
・データマネジメントは「IT部門だけの仕事」ではない など
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