「社会にスケールする技術」を追い続けて——アクセンチュアAIセンター長の挑戦 (前編)
プログラミング少年が量子力学を経てコンサルティングの世界へ
——これまでの経歴についてお教えください。
小中高と進むにつれ、どんどんプログラミングにのめり込み、加えて高校では量子力学にも興味を持つようになりました。その関心の延長線上で、大学ではコンピューター上での計算も重要な物理化学の道へ進みました。最終的には博士課程まで修了しました。計算機上で扱う原子、分子の研究はとても面白く、没頭していたのですが、続けるうちに「自分の研究は本当に世の中に貢献しているのだろうか」という問いが心に浮かぶようになりました。
アカデミアに戻る選択肢は残しつつ、まずは社会やビジネスの仕組みを学びたい——そう考え、プログラミングという強みを即戦力として生かせるアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社しました。
配属先では「プログラミングができる人材」として、新人が入らない難易度が高いプロジェクトからキャリアをスタートしました。顧客データベースの構築を皮切りに、セールスの仕組みづくりやコールセンターの構築、さらにはサプライチェーン領域へと守備範囲を広げていきました。顧客接点のシステムから基幹系の受発注システムまで、幅広い領域を手がけるようになったのです。
開発チームが百人規模のグローバル体制へと拡大していく中では、自動テストツールの開発など、属人性を排除する仕組みづくりにも注力しました。再現性と品質を担保するための基盤づくりは、早い段階から意識して取り組んできたテーマです。
キャリアの転機となったのは、受発注システムの高度化を模索する過程でした。博士課程で培った機械学習の知識と、アクセンチュアのコンサルタントのノウハウを掛け合わせ、需要予測や在庫の最適配置といったインテリジェントな仕組みの開発に着手したのです。その成果をクラウドサービスとして展開し、事業としての収益化にも成功しました。
その後は、ビッグデータやマシンラーニングの潮流を見据えて、デジタル拠点と人材育成を進めました。お客様と共同で革新的なアイデアを具現化させるための拠点として麻布にアクセンチュア・イノベーション・ハブ東京を立ち上げました。また、京都にアクセンチュア・アドバンスト・AIセンター京都を開設し、エグゼクティブ層と最先端のAIを熟知する開発者が直接、対話しながら、全社変革を構想する場を創り出しています。
最大の実績は「人と組織」作りに貢献したこと
——ご自身のキャリアの中で最も大きな実績をお教えください。
麻布にイノベーションセンターを立ち上げたり、京都にAIセンターを設立したり、さまざまなAIサービスを開発してきたりと、振り返れば、多くの取り組みに関わってきたと思います。ただ、その中で「会社への貢献」と考えると、「AI組織を拡大できたこと」かもしれません。
いま世の中では、AIが実装レベルになったことで大きな注目を集めていますが、これは比較的最近の潮流です。例えば10年前を思い返すと、AIを軸に大企業が本格的なトランスフォーメーションを推進している事例は、ほとんど見られませんでした。
私がAI組織のリーダーを担った当初、チームは100人にも満たない規模でした。そこから、メンバーが力を発揮できる環境づくりに注力しながら、企業買収なども含めて組織拡大を進めてきました。決して平坦な道のりではありませんでしたが、いろいろな人の力を借りながら、現在では1000人規模の組織へと成長しています。
アクセンチュア全体も成長を続けていますが、その中でもデータとAIの領域は特に高い伸びを示しています。これまで育ててきた人材が中核を担い、今ではAI組織の枠を超えて皆が、データやAIの活用を強く意識して仕事を進めるようになったので、アクセンチュアジャパンの売上の約4割をデータ&AI関連ビジネスが占めるまでになりました。
かつては社内でも決して主流とはいえなかった領域が、いまや会社のビジネスの中心へと位置づけられています。もちろん、AIを取り巻く社会的な追い風が大きかったことは間違いありません。それでも、その波を現実の成果へと変えてきたのは、間違いなく人の力です。多くの人材が育ち、次の世代を牽引していること——それこそが、今もなお挑戦し続けているテーマでもあります。
組織づくりの挑戦と技術を社会に届ける喜び
——実績を上げるための最大のチャレンジと、それが現職でどのように生かされているかをお教えください。
私はコンピューターと向き合うことは得意な方ですが、人とのコミュニケーションは苦手意識があり、簡単ではありません。もともと大学で物理化学を専攻していたのも、人間社会のように予測が難しい世界より、一定の確率と法則のもとで現象を予測できる領域に魅力を感じていたからです。純粋な物理の世界では、計算可能な前提の中で物事が進みます。しかし人間社会は、そうはいきません。
組織が小さいうちは、パーソナルな関係性の中で何とか運営できます。ところが、数百人規模を超えた時点で、全員と個別に向き合うことは物理的に不可能になります。「本当は一人ひとりときちんと対話したい」——。その思いがあるからこそ、どうすれば良い組織をつくれるのかという問いに、今もなお向き合い続けています。正直に言えば、まだ十分にできているとは思っていません。私にとって極めて難しいテーマです。
その一方で、私自身が常に大切にしていることがあります。私はプログラミングが好きで、AIや最先端技術に触れながら何かを生み出していくことに、大きな喜びを感じます。そして、それが社会に実装されていく瞬間に立ち会えることは、本当に楽しいと実感しています。大学を離れた理由の一つも、まさにそこにありました。
データ & AIグループのメンバーも、きっと同じように技術そのものを楽しんでいるはずです。だからこそ私は、その楽しさをまず共有することを大切にしています。「今、こんな面白い技術がある。一緒にやろう」と呼びかける。そこから協働が生まれるのだと思っています。
ただし、その楽しさを個人の満足にとどめては意味がありません。きちんと会社に還元し、最終的にはお客様の変革につなげてこそ価値が生まれます。麻布のイノベーションセンターも、閉じた空間で内向きに研究する場ではありません。お客様とともに議論し、ともに形にしていくための場として設計しています。
京都のAIセンターにも最先端の開発者が集まっていますが、私は「絶対に自分たちだけで完結しないでほしい」と伝えています。R&D拠点でありながら、クライアント企業の社長やCxOの皆様にお越しいただき、企業トップと開発者が直接対話し、その場でフィードバックを受けながら共創する。そうしたダイナミズムこそが、このセンターの本質です。
センターの開設から約1年が経ちましたが、実際にAIを軸とした全社変革に踏み出す企業が出てきています。その動きが具体化していることを実感できている今、この場をつくって本当に良かったと感じています。
最先端技術をまず自分たちが深く理解し、それを社会にスケールさせていく。そのプロセスの楽しさを後押しし、挑戦できる場を用意することが、私の役割だと考えています。
最高のアドバイスは「ストレッチのチャンス」
——これまでに受けたアドバイスの中で印象に残っているものがあれば教えてください。
私はどちらかといえば、自分で考えながら進めるタイプで、あまり人に相談することは多くありません。そのせいか、「この言葉が転機になった」という明確なアドバイスが特にあるわけではありません。
ただ、振り返ってみると、会社の中で出会った上司たちは、常に私の目の前に「今の自分には少し難しい。しかし、努力すれば手が届くかもしれない仕事」を渡してくれていました。結果として、それが最も大きな成長のきっかけだったのではないかと思います。言葉ではなく、機会そのものを与えてくれていたのです。
「自分の能力をわずかに超える仕事」に向き合うことの積み重ねが、確実に成長につながってきました。そうした経験があるからこそ、いまは私自身も部下に対して、「少し背伸びすれば届くのではないか」というレベルの仕事を意識して任せるようにしています。
もっとも、一人ひとりの力量や志向を見極め、適切なストレッチ機会を設計するのは容易ではありません。負荷が過度になれば、本人にとっても組織にとってもマイナスになります。一方で、同じ仕事を続けているだけでは成長のスピードは鈍化してしまいます。
重要なのは、そのレベル感です。無理をさせるのでも、守りに入るのでもなく、挑戦と達成が両立する地点を見極めること。人を育てるとは、まさにそのバランスを取り続ける営みだと感じています。そして、その積み重ねこそが、最終的には組織全体の成長を支えていくのだと思います。
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