SUBARUのCIOが挑む全社変革──現場から始まるデジタルの力
キャリアの転機と挑戦:SUBARUのCIOが語るデジタル化への取り組みとリーダーシップの軌跡 現在SUBARUのCIOを務めていますが、キャリアのスタートをIBMのシステムエンジニア(SE)として切りました。SEやプロジェクトマネジメントの経験を積んだ後、結婚を機に週末起業をスタート。ITとは異なる分野で、女性の就業支援に取り組み、平日はSE、週末は自営というダブルワークを実践していました。 その後、子育てをきっかけに地元・群馬県へUターン。製造業であるサプライヤー企業に一般社員として入社し、IT部門でキャリアを再スタートしました。IT企画を担当しながら、総務部長を兼務するなど幅広い業務を経験し、最終的にはCIOとして3年間、全社のデジタル化を担いました。 50歳を迎えた2019年夏、SUBARUに入社。直後にコロナ禍が始まり、情報システム部長として全社のペーパーレス化やリモート環境の整備に奔走。デジタル化が遅れていた業務を一気に引き上げることに注力しました。その後もサイバーセキュリティー部門や総務部門でそれぞれ部長を兼務しながら、知見を広げていきました。 そして2024年4月より、SUBARUのCIOとして、これまでの経験を活かし、まわりの方々に協力頂きながら、全社のIT/DXをリードしています。 クラウド革命からデジタル変革へ:SUBARUのCIOが語る挑戦と成功の軌跡 前職では、まだ「クラウド」という言葉が一般的でなかった約15年前に、クラウドベースのグローバルシステムを構築するプロジェクトを立ち上げました。会社にとっても初のグローバルプロジェクトでしたが、色々と試行錯誤を重ねながら2〜3年にわたりプロジェクトマネージャーとして尽力。その成果が評価され、日本科学技術連盟(日科議連)のTPM(Total Productive Maintenance)の革新賞を受賞しました。新しい技術と発想で挑戦したこの経験は、自身にとっても大きな学びとなりました。 その後、SUBARUに入社した2019年、直後にコロナ禍が始まりました。当時のSUBARUは、給与明細も稟議書もすべて紙、パソコンのWeb会議用のカメラも使えないという、いわば「紙とハンコの文化」が色濃く残る状態でした。 このような中で、情報システム部門の責任者として、ペーパーレス化やリモートワーク環境の整備を急ピッチで推進。多くの社員の協力を得ながら、短期間でデジタル基盤を整備し、企業としての働き方を大きく変える礎を築きました。 この経験が、現在進めている「ITを基軸とした働き方改革」の出発点となっています。 各部門の垣根を超えた挑戦:SUBARUのCIOが語るデジタル変革と組織文化の統一 SUBARUでのデジタル改革を進める中で、特に大きな課題となったのが「部門や事業所ごとの壁」でした。当社は100年以上の歴史を持つ企業で、グループ企業間の違いに加え、事業所ごとに文化や慣習がまるで別会社のように異なっていました。 たとえば、メールのマナーやPCの機種、ITツールの導入状況までバラバラ。こうした状況では、運用の標準化やセキュリティの統一も難しい。 しかし、コロナ禍をきっかけに、全社的なデジタル化が急務となりました。外部から来た私だからこそ、過去のしがらみにとらわれずに動けた部分もあり、まわりの皆さんが協力してくださったことが大きな力になりました。 特に印象的だったのは、1万人近い社員が在宅勤務を求められる中、VPNの接続数がわずか100程度という状況からのスタート。そこから、IT部門の仲間たちとともに、全社の環境を整備し、セキュリティレベルも統一。現場と本社の信頼関係を築きながら、共通の「あるべき姿やツールの使い方」を丁寧に説明し、役員から一般社員まで一人ひとりに理解を得ていきました。 本社がしっかりとした意思を持って方向性を示せば、業務部門の方々も真摯に応えてくれる。そうした信頼の積み重ねが、IT部門の声が社内に届くようになった背景にあります。単なるシステム導入ではなく、文化や意識の変革を伴う取り組みとして、今のSUBARUの働き方改革の土台が築かれたと感じています。 実務からトップへ:SUBARUのCIOが語るキャリアの進化とマネジメントの秘訣 前職では、一般社員からCIOまでキャリアを積み上げてきた経験があります。そのため、現場の実務を深く理解したうえで、方針を出すことができました。実務の苦労や仕組みの細部を知っているからこそ、現実的で納得感のある判断ができたと感じています。 一方で、SUBARUに入社した際は、中途入社の部長という立場。社内の人財やスキル構成、業務の流れも分からない中でマネジメントをする必要がありました。最初は本当に大変でしたが、だからこそ「個々人の強みを見極める力」が非常に重要だと実感しました。 実務に詳しくないからこそ、固定観念にとらわれずに「あるべき姿」を描ける。人のスキルの尖った部分を見つけて活かすことで、組織を柔軟に動かすことができる。そうした経験を通じて、「知らないこと」がむしろ大きな仕事を動かす原動力になることもあるのだと学びました。 運命を引き受ける勇気:SUBARUのCIOが語るリーダーシップと挑戦の軌跡 私がまだ一般社員だった頃、尊敬する経営者の方からこんな言葉をいただきました。 「周りを見て、自分しかいないと思った時は、自分ができるかどうかは関係ない。自分の番が来た、運命だと思って引き受けなさい。」 この言葉は、今でも私の中で大切な指針になっています。 当時、私はIBMで培った「性別に関係なく成果で評価される」働き方をそのまま日系企業(前職)に持ち込んでいました。周囲から見れば、少し浮いていたかもしれません。そんな私に、女性の先輩方が「そんなに頑張っても女性は評価されないから、無理しない方がいいわよ」と優しく声をかけてくれました。 でもその時、ふと思ったのです。「誰かが一歩抜きん出て頑張らなければ、次に続く人が出てこないのではないか」と。周りを見渡してみると、子育て中で、長男の嫁で、健康で元気な自分が、もしかしたら一番その役割に適しているのではないかと気づきました。 だからこそ、「自分がやるしかない」と覚悟を決めて、できるところまで頑張ろうと決めたのです。 この経験から学んだのは、「自分がやるべき」と感じた時こそ、それは自分の番だということ。 今、後輩たちにこう伝えています。 「周りを見て、自分かもしれないと思ったら、それはあなたの番です。運命だと思って、ぜひ引き受けてください。」 ITの架け橋:SUBARUのCIOが語るデジタル変革とコミュニケーションの力 今の時代、ITやデジタルに関係のない仕事はほとんどありません。だからこそ、IT部門は会社全体のあらゆる領域――工場、販売、ガバナンス、セキュリティなど――企業変革のほとんどのことに関わることができます。大変ではありますが、それだけにやりがいも大きいと感じています。まさに、会社の仕組みを “裏側からすべて見ている” 立場です。 自社のみならず他社のIT環境や使い方を見ることで、デジタルリテラシーや組織の成熟度がおのずと見え、多方面で自社をより深く理解することができます。そうした視点を持つことで、自社がどう動くべきかを冷静に判断できるのも、IT部門ならではの面白さです。 SUBARUには多くのCxO(経営幹部)がいますが、私はCIOとして、彼らとしっかり対話を重ねることを大切にしています。ITの取り組みは、表面的には「パソコンやシステムの話」に見えがちですが、その裏には多くの戦略的な意図や配慮があります。それをきちんと伝えるために、役員就任後は毎月、関係する役員全員と25分間の1on1(IT雑談という個別面談)を続けています。 最初は「ITの話は分かりづらい」と感じられていた方々も、活動の背景や意図を知ることで理解が深まり、「1on1をぜひ継続したい」「もっと時間を延ばしたい」と言ってくださるようになりました。現在もこの対話を続けており、会議とは違って、小さなことも大きなことも率直に話せる貴重な場になっています。 SUBARUのIT革命:橋渡し技術で未来を切り拓く SUBARUのIT部門は今とても注目されていて、「一番元気な部門」と言ってくださる方もいます。その背景には、現場の声に耳を傾け、困りごとをできる限り早く対応したいという気持ちが強くなってきたこと――そんな信頼関係の積み重ねがあります。 CIOになってから、毎月、関係する役員の方々と25分間の1on1を行っていると申しあげましたが、そこでは、私たちが考えていることをお伝えするだけでなく、相手が今困っていることを聞き出し、すぐに対応するようにしています。こうした小さな積み重ねが、IT部門への信頼につながり、テーマを進めやすくなると考えています。 SUBARUは製造業ゆえ、製品をつくるプロセスには非常に高い共通理解があります。しかし、そこにITやソフトウェアが関わってくると、どうしても慣れていない方もいて、たとえば「保守切れになったらどうするのか」といったITとしては日常的な話も、なかなか伝わりにくいものです。 だからこそ、IT部門の役割は、技術と経営の“橋渡し”役として、専門用語をかみ砕いて伝えたり、現場の課題を経営の言葉に変換したりする――我々はその翻訳者のような役割もあると思います。 とんでもない人財を活かす:SUBARUのIT部門の挑戦 SUBARUでCIOとして働く中で、特に大切にしているのは「経営とITの橋渡し役」としての役割です。ITの専門用語や仕組みは、現場や経営層にとって分かりづらいことも多い。だからこそ、相手の立場や言葉に合わせて、“翻訳”して伝え、早く実装することが重要です。 早く実装するためには、尖った才能をどう活かすかがカギになります。当社では、そうした人財を「とんでもない人財」と呼んでいます。一つの分野に突出したスキルを持っていても、マネジメントやコミュニケーションが苦手な人もいます。製造業の伝統的なマネジメントラインでは、そうした人財が埋もれてしまいがちです。 かつては「パソコンオタク」と呼ばれていたような技術者たちは、実は非常に鋭い感性と高い技術力を持っています。そうした人たちの力を、もっと社内で理解してもらい、活かしていくこと、それが、私の大切な仕事の一つだと考えています。 彼らの才能を引き出し、活かせる環境をつくるのもリーダーの役割。リーダーは先頭を走るだけでなく、仲間が走りやすい道(環境)を整える人でもある。私はSUBARUでそのことを学びました。 また、ITリーダーには「伝える力」も求められます。経営層への説明、他部門との連携、部下への指導――どれも、難しいことを分かりやすく伝える力が必要です。特に女性は、私自身もそうですが、言葉で的確に説明することに苦手意識を持つ方も多いです。 そんな時は、まず思っていることを文章に書きだしてみる。そこからストーリーを見つけて、もしくは要点を見つけてもらい、上司や仲間から「こう言えば伝わるよ」とフィードバックをもらうことで、少しずつ伝える力が育っていきます。 さらに、会社を俯瞰する視点も大切です。「リーダーを目指すなら、2つ上の役職の視点を持ちなさい」と伝えています。一つ上の上司は、さらにその上の意志を受けて動いているからです。2つ上の視点を持つ努力をすることで、今の自分の仕事が会社全体の中でどう位置づけられているのかが見えてきます。 そしてもう一つ、異業種とのネットワークも非常に有効です。 業種が違っても、ITや経営の課題には共通点があります。異業種のCIOやスタートアップ、老舗企業など、さまざまなIT部門とつながっておくことで、自分の会社だけでは得られないヒントや視点が得られます。技術も日々進化していますから、他社から常に学ぶことができます。…

