DX(デジタルトランスフォーメーション)の時代において、CIOの役割はますますビジネスの中心的存在となり、CIOは成長を促進し、組織全体に新しいデジタル文化を確立することに注力するようになっています。
しかし、CEOの全面的なサポートがなければ、CIOのイノベーションとDXのアジェンダはそれ以上は進みません。CEOがCIOの役割がどのように進化しているのかを理解していなかったり、CIOが経営幹部のビジネスリーダーへと飛躍する準備ができていなかったりすれば、競争が激しく、難題が多い環境の中でイノベーションを起こす企業の能力は損なわれてしまうでしょう。
「私がDXを推進するためにグレーデッドのIT部門に入社したとき、経営陣は変革の重要性を確信していました。CEOの強い意志のおかげで、イノベーションの推進には何の障害もありませんでした」と、ナポリの省エネ企業、グレーデッドでデジタルイノベーションの責任者兼CISOを務めるジェンナーロ・アルドリーノ氏は振り返ります。
グレーデッドは1950年代に創業したため、非デジタルシステムに根ざしており、時代とともに近代化されてきました。現在、CIOがCEOと常に対話し、IT部門がその戦略的役割を認識することは、DXの取り組みを推進する上で不可欠となっています。「変化というものは、本質的に疑念と抵抗を生むものです。紙の文書からファイルへの移行でさえ、困難な場合もあります。CEOが存在感を示し、新しい文化をサポートすることが重要なのです」とアルドリーノ氏は言います。
以下に、CIOがデジタル戦略をより効果的に支援するために、CIOの役割の進化について経営幹部との意見の相違を克服するための方法をご紹介します。
対話を通じてデジタル化の核心に迫る
プロセスの変更はビジネスのさまざまな部分に影響するため、CEOのサポートはITエグゼクティブにとって不可欠です。幹部のなかには、CIOの指導を自分たちの仕事やチームに干渉してくるもう一人のマネージャーとみなし、好ましく思わない人もいるかもしれません。
「CEOとCIOが戦略的に協力することで、DXがIT部門だけに影響する慣行ではなく、ビジネス全体に影響する新しい方法であることを容易に示すことができるようになります」と、アルドリーノ氏は説明します。
イタリア国家資源評議会(CNR)のICT室長であるロベルト・プッチネリ氏は、DXの取り組みへのサポートを得るために取締役会との対話の重要性を明言します。
通信、処理のインフラストラクチャの設計、実装、管理、およびCNRの全国ネットワークの調整を監督しているプッチネッリ氏は、「ICTオフィスは、トップダウンで示される会社の戦略に従いますが、ITオフィスでは、インフラストラクチャとスキルレベルの両方で、必要とされるイニシアティブの指示に対応します。取締役会や人事部との対話は実り多いものであり、マネージャーたちも好意的だと、デジタル戦略が大いに促進されます」と説明します。
IT用語をビジネス用語に変える
ヘッドハンティングおよび人材紹介会社リバースのCEOであり、自身も元CIOであるダニエレ・バッキ氏は、次のように述べています。「CIOはある程度、すべての事業部門の問題に精通していなければならなりません。管理職は自分たちの立場で話します。ITの立場を理解しようと努力しているとは限りません。そうなると、CIOは技術的な第一人者ではなく、財務やマーケティング、給与計算の担当者のように振る舞い、あらゆる活動がITインフラストラクチャ上で行われていることを明確にする必要があります。ソフトウェアは見えません。インターフェースに集中する必要があるのです」
データは、CIOがCEOと効果的な対話を行うための最も重要な手段の一つです。グレーデッドのアルドリーノ氏は、上層部にプロジェクトを提示する際、まず概要の説明から始め、その後、例えば工数の削減やデータ検索のメリットなど、さまざまなビジネス領域で推定されるプラスの影響を測定できるKPIを組み合わせていくと言います。
「コンプライアンスなどの規制上の義務がある問題では、テクノロジーソリューションの必要性を伝えやすく、取締役会から投資を得やすくなります。しかし、ニーズと結果を客観的に測定し、上層部とのコミュニケーションに役立てる独自の内部データもあります」とCNRのプッチネリ氏は説明します。実際、CNRは15年前からデータウェアハウスを導入しており、内部管理システムから情報を集めて分析を行い、戦略を導いています。
CIOを予算に不可欠な存在にする
アルドリーノ氏によれば、CEOには少なくとも3つの異なるベンダーの提案と投資要件を提示し、常に比較と代替案を提示することが重要です。
投資に対する経営幹部の支援は不可欠です。これを達成するために、アルドリーノ氏は毎年末に独自の予算見積書を作成し、CFOとCEOと一緒に確認しています。
「戦略路線に基づき、ビジネスニーズ、推し進めたいプロジェクト、実行のタイミングを見て、削減や追加の可能性がある項目を一緒に検討します。当社は、デジタル化が社内プロセスのモダナイゼーションだけでなく、市場機会の開拓、国際化、新たな事業モデルの構築も意味していることを明確にしています」と同氏は語ります。
プッチネリ氏によると、CNRのケースも似たようなものだと言います。「投資に関しては、年末に作成する見通し予算書があり、2023年に私が出したリクエストは認められています。経営トップは、CIOの役割の重要性と組織にとってテクノロジーの重要性を認識しているのです」と同氏は言います。
ITプロジェクトの価値をデータで示す
プロジェクトの初期費用は常に計算する必要があります。「メリットがあり、それを証明できれば、許可を得ることができます」とアルドリーノ氏は言います。
その一例が、従来のプロセスをモダナイズする出欠管理のデジタル化です。グレーデッドのアルドリーノ氏にとっての出発点は、アナログのシステムの欠陥がいかに会社のコストと時間を浪費しているかを示すことでした。現在では、出勤、残業、休暇、病気休暇、オンサイトまたはオフサイトの人員配置、職務命令における労働時間などのデータを管理・収集するデジタルシステムにより、CEOは意思決定を行うにあたって信頼できる情報を手に入れることができるようになりました。「CEOの質問に答えるデータを明確に表示できるダッシュボードを提供する必要があります」と同氏は言います。
EYによる研究論文『Why your CIO could be the new co-pilot of your business』(なぜCIOはビジネスの新しい副操縦士になり得るのか)によれば、自由度が高まると、CIOはリーダーシップに支えられ、組織のためにはるかに戦略的で監督的な役割を担うようになるはずだと言います。単に会社の技術ニーズと関連予算を管理するのではなく、セキュリティとイノベーションに焦点を当てる必要があります。
先日開催されたEY NextGen CIO 2023のオンラインイベントで、EYのイタリア担当金融サービステクノロジーコンサルティングのリーダーであるジョバンニ・アンドレア・インカルナート氏は、次世代のCIOは三重の脅威であると述べました。CIOは教育者であり、ビジネスの指揮官であり、レジリエンスの達人である必要があります。つまり新しいCIOは、革新的で破壊的となりうるテクノロジーソリューションを導入する一方で、会社の事業戦略や人材管理に積極的に関与することになります。組織の次の成長段階へと推し進めるために、この移行を理解し、受け入れることが経営幹部にかかっています。