今回、第一回目の「Leadership Live Japan」に出演するゲスト、富士通株式会社執行役員エグゼクティブバイスプレジデント、CIO(最高情報責任者)、CDXO(最高デジタル変革責任者)の福田譲氏をお迎えし、CIO、CDXOとしてのキャリアや仕事観、やりがいなどについて語ってもらいました。
インパクトのあった最初の10年、担当した化学業界で様々な企業の経営改革や業務改革、IT戦略を詳しく知る機会に恵まれた
学校を出て最初に勤めた会社はドイツのSAPと言うソフトウェアの会社です。1997年に入社して以来、2020年の3月まで23年間、同社に勤めていました。営業や事業畑が長く、2014年から6年間、SAP Japanの社長を務めました。
2020年4月に富士通に入社し、CIO兼CDXO補佐として勤務。2023年4月からCIOおよびCDXOを務めています。
富士通
最初に勤めたSAPは、ERP(Enterprise Resource Planning)という基幹業務のサービスを提供している会社でした。営業職として素材業界、特に石油や化学業界を担当しました。
当時はSAPの日本法人がまだ小規模だったため、最大手から業界の主要な企業まで一気に担当する機会に恵まれました。長年同じ業界を見てきたことで、日本の化学技術の立ち位置や、グローバル大手メーカーの動向、経営・業務改革、ITの戦略的な活用について詳しく知ることができました。
日本の化学業界で経営層と良好な関係を築きました。ちょうど業界が合従連衡を始め、日本政府の政策変更に伴い、多くの化学メーカーが経営改革に取り組んでいた時期でした。
その動きに合わせて、業界トップ20社のうち約3分の2が戦略的にSAPを導入し、経営や業務プロセスの改革に立ち会う機会に恵まれました。
提案は経営層に真剣に受け入れられ、大手企業が一斉に経営改革、業務改革、IT改革に取り組むことになりました。この経験は私にとって非常に大きく、経営、経営環境、IT、業務プロセスを総合的に捉える視点が身についた10年間でした。
最大のチャレンジはITリテラシーの不足でしたが、その経験を通じてITの本質を深く理解することができた
当初はIT業界に入ったにもかかわらず、ITリテラシーが不足していました。特にIT業界に入りたかったわけではなく、結果的にIT業界に入りました。ITについて何も分からず、初期の頃は的外れな質問をしていましたが、お客様に手取り足取り教えていただいたことが強く記憶に残っています。
ITに詳しくない方々の視点を理解することで、彼らが何に困っているのかを把握できるようになりました。この経験が、逆に強みとなりました。
営業職としての経験から、ITに詳しくない経営陣やNon-ITの方々にも分かりやすく説明するスキルを身につけました。自分が分からないことは、相手も分からないだろうという視点からスタートし、相手の立場に立って物事を伝えることができるようになりました。
どういう可能性を秘めているとか、何が落とし穴なのか、何がポイントなのか、ITリテラシーのなさとか、例え話を踏まえて相手に分かりやすく伝える。あるいはシンプルに物事を捉えて、そのITの本質を出来る限り理解しようとする。そこが逆によかったと思っています。
現在、CIOおよびCDXOとして、ITをどのような価値に変えるかを社長やCFO(最高財務責任者)、CHRO(最高人事責任者)などの経営メンバーに説明し、一緒に取り組んでいます。営業職での経験を活かし、複雑なITの概念を分かりやすく説明するスキルを磨いてきました。また、ビジネスや事業の視点からITを見ることで、ITの本質を理解し、価値を最大化する方法を提案しています。この経験が、今まで積んできたキャリアにおいて大きな強みとなっています。
人と人の関係は全て同じ。自分から心を開いて本音で語る。相手にも心を開いてもらう。そこに信頼関係が出来てくる
社会人としての初期段階では、お客様の困りごとを理解するために、以下のようなステップを踏んでいました:
- お客様の声を聞く:お客様が何に困っているのかを丁寧にヒアリングする。
- 仮説を立てる:お客様の問題点について仮説を立て、どのような解決策が考えられるかを検討する。
- 共通理解を作る:お客様と共に問題点を整理し、共通の理解を持つようにする。
このようにして、お客様のニーズに応えるための基盤を築いていました
その上で心を開いて色々と議論したり提案したりといった事が、基本的に役立ったと思います。でも、本当に最初の頃はお客様との会話がうまく出来ず、意思疎通が難しかったです。
ある時、メンターである上司に「お客様がなかなか心を開いてくれないんです」と相談しました。すると、「それは君が心を開いていないからじゃないの?」と言われ、ハッとしました。それ以来、自分から心を開くことの大切さを学びました。
何事も自分から心を開く。それをするとお客様も心を開いてくれる。今は社内をリードする立場にあり、お客様関係ではありませんが、人と人の関係は全て同じかなと思っています。本音で語るとか、こちら側から心を開く事を通じて、相手にも心を開いてもらう。率直な会話をする。そこで信頼関係ができてくる。
これが仕事や物事を進める上での基本だと思います。自分から心を開くことや、相手の行動やリアクションが自分の鏡であるという考え方は、初期の頃に上司から教わり、とても印象に残っています。
武内氏は、より具体的なCIOやCDXOの仕事観、やりがいや魅力に焦点を当て、リーダーシップやITリーダーへの効果的なアドバイスなど、福田氏に話を聞きました。詳細については、こちらのページのビデオをご覧ください。
CIOやCDXOのやりがい、魅力について:
先は大変な仕事です(笑)。その大変さとやりがいや魅力は比例をしていると思っています。私自身は転職して富士通に移り、営業とか事業側にいて日本法人の経営をしていた立場から何故この富士通とういう会社のテクノロジーのリーダーシップになろうと思ったかと言うことですが、長年仕事を通じて感じた事は、まず日本の大きな組織が会社もそうだし、おおげさに言うと国家レベルのものもそうだし、なぜこんなにも変わらないのかという課題感があります。
このなぜ変わらないかと言うことに加えて、ご一緒した仕事やプロジェクトの中で、やはり私の場合、ERPであったりBI(ビジネスインテリジェンス)であったり、CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)ですが、こういうものが企業の課題や戦略とマッチしてきちんとしたリーダーシップのもと、こう変革を伴って導入されていくと、いかに根本的に会社が変わるのかと言うこともたくさん見てきました。
その数倍、テクノロジーを活用したのに変わらないケースも見てきました。富士通のような日本を代表するITサービス企業が変わり、より活力のある会社を目指すことが重要だと感じました。お客様にITサービスやデジタルトランスフォーメーション(DX)を提供することで、競争力を高めていくしかないと思っています。
社長の時田さんと話していた時、「まさにその通りだね。富士通自体が変わる覚悟があるからこそ、今回のご縁があるんだ」と言われました。
10万人の従業員を抱える数兆円の企業が向きを変えるとか、会社のたたずまいや空気が変わるとか、といった事は大変な事であると思いますが、もっとも効果的な手法の一つが、間違いなくITだと思うんですね。
みなさんも朝、会社に通ってPCを開けるところからスタートする。PCが立ち上がらなかったら、あるいはPCが立ち上がってもネットワークが繋がらなかったら、あるいはアプリが立ち上がらなかったら仕事にならないと思う。
このようにITの中に仕事の業務や経営が詰まっています。従って、大きな組織であれば、あるほど、ITを変える事によって経営や業務や仕事の仕方を変える事ができる。あるいは人と人とのコミュニケーションのあり方とか、それが積み重なるとコーポレートカルチャーを変える事ができるという風に思っています。課題も大きい反面、可能性も大きいと思っているのは、このITとかデータとかデジタル、AI、モバイル、こういう接点を変えていくことで、10万人規模の大きな組織を変える事ができる効果的な手法かもしれません。
これはなかなかないと思っています。人事制度を変えることも会社を変える一つのカギと言えます。しかし、それと同じくらいにインパクトを残せる可能性のあるのがITです。
富士通、変わって欲しいなと思うし、世界で競争できる強い会社になればいいなと思って仲間に加わった。その重要な位置付けや可能性をリードできるというのは、大変大きなやりがいですし、今DX、デジタル変革といっている時代に、このIT、デジタル、AIに携われるテクノロジーリーダーの仕事はものすごくラッキーだと思っている。たぶん読者のみなさんも、相当ラッキーと言えるのではないかと思います。
リーダーシップに関して、成功するCIO(およびマネジメント層)に必要なことは何ですか?
リーダーシップに関して、成功するCIOに必要ことは、以下の5つが挙げられます。
- ビジネスの洞察: ITを活用するためには、課題や期待に対する仮説が必要です。例えば、AIやデータの標準化を使ってミーティングのやり方を変えることで、どのようなインパクトが生まれるかを考えます。
- テクノロジーの洞察: テクノロジーは正しい時期に正しく活用することが重要です。早すぎても遅すぎても効果が出ないため、適切なタイミングで適切に使うことが求められます。
- ビジョン: ITやデータは道具であり方法論です。目的やパーパス(目指す世界観や解決したい課題)が明確であることが重要です。
- コミュニケーション: ビジョンを共有し、ITをみんなで作り、みんなで動かし、みんなで効果を出すことが大切です。
- リーダーシップ: 共感を得ることが重要です。異なる考えを持つ人にも「確かにメイクセンスだね」と思ってもらえるようなリーダーシップが求められます。
この5つの要素を備えることで、CIOとしてITによる変革を通じた経営や業務の仕方を変える事ができます。
ITリーダーを目指す人たちにどのようなアドバイスをしますか?
テクノロジーのリーダーとして、まだアドバイスするのはおこがましいですが、リーダーシップは普遍的なものであり、テクノロジー、ファイナンス、人事などの専門性がそれに加わるのだと思います。
家に例えると1階は人間性であったりリーダーシップであったりします。2階は専門領域だったり経験だったりするんじゃないかと思っています。
1階もぐらぐらする家は2階も3階もぐらぐらすると思う。どういう領域のリーダーになるにせよ、1階の部分、人間性であるとか、この人は信頼できるのか、この人が言うなら付いていこうなど、魅力があるのかどうかといった、これはリーダーシップの部分ですよね。人としての基礎の部分だと思うんですけど、逆に言えば、ここの部分がしっかりしていれば何をやってもうまく行くんじゃないかと思います。
今後の展望、中長期的な取り組みについて:
富士通はパーパスを社会課題x企業課題xテクノロジー、そしてグローバルといったものを掲げていて、従来からの価値の提供のあり方やお客様とのおつきあいを大きく変えようとしています。「Fujitsu Uvance」という新たな事業ブランドを立ち上げていますが、私の野望でもあり、是非、成し遂げたいと思うことは、「やはり日本の大きな組織が本当に変われるんだということをやりたいし、証明したいです。」
そのためには富士通自身が大きなドメインとかビジネスモデルなど、そこで働く人のスキルやチームワークであったり、あるいはリーダーシップであったり、グローバルといったキーワードだったり、色々なものを変えていかないと、世界で通用する、あるいは先程説明した社内課題x企業課題xテクノロジーxグローバルといったところで、存在感のある会社にはなれないと思っています。「そう簡単じゃないし、時間もかかると思いますが、しつこく、同じ方向に向かってみんなで変わっていきたいなと。」そして富士通という名前が、日本だけでなく世界でも名前を言ってもらえると分かってもらえるとか、あるいは富士通がいたおかげで、社会課題や企業課題がちょっと解決できてきたねと言われるような、尊敬される企業を作る一助になりたいなと思っています。
これはITのリーダーシップだけで解決するのではなく、経営全体がチームスポーツだと思って取り組み、社員みんなで変わっていく営みだと思っています。
以上
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