(写真)富士通執行役員 SEVP システムプラットフォームビジネスグループ長の古賀一司氏
ハイパースケーラーでは得られない運用の透明性を求める声
パブリッククラウドを提供するハイパースケーラーは米国企業で占められている。グローバルにデータセンターを持つハイパースケーラーのクラウドは魅力的だが、自分たちでデータや運用を管理できない。そこで、欧州を中心に主権(Sovereignty=ソブリニティ)への関心が高まり、ソブリンクラウド(Sovereign Cloud)という考え方が生まれた。
日本でも、2022年5月に経済産業省が経済安全保障推進法を成立させるなどの動きがある。ソブリンクラウドの明確な定義はないが、「2024年のクラウドの主要トレンド」に「ソブリンクラウド」を入れたガートナージャパンは、「データ・レジデンシ要件とクラウド運営の自律性を満たした管轄区域内で提供されるクラウド・サービス」としている。
富士通が4月に発表したソブリンクラウドの提供は、このような経済と地政学上の懸念がある。「日本国内にデータを保持するなどソブリニティを確保したいという要望が増えている」と富士通の執行役員 SEVP システムプラットフォームビジネスグループ長の古賀一司氏は話す。
もう1つの大きな理由が、ハイパースケーラーのクラウドでは満たせない運用の透明性へのニーズだ。「ハイパースケーラーには高度な機能が豊富にあるが、データや運用の透明性は得られない。富士通はクラウドを提供しているが、そこで実現しているハイパースケーラーの機能と運用両方についての透明性を確保したいと考えていた」と古賀氏。
そんな時にOracleの「Oracle Alloy」を知った。Oracleのパブリッククラウド(OCI:
Oracle Cloud Infrastructure)を自社データセンター内に設置してクラウドを展開できるというソリューションだ。そしてOracleの米国チームと共に、ソブリンクラウドを構築した。Oracle Alloyと富士通の運用ガバナンスを組み合わせ、顧客の拠点、富士通のクラウド、パートナーのクラウドもひっくるめたIT環境を富士通のマネージドインフラサービス「FUJITSU Cloud Managed Service(FCMS)」で統合管理できるようにする。
なぜOracleを選んだのか
特徴は、1)富士通による運用ガバナンス、2)データと運用のソブリニティ、3)機能性だ。
1)はクラウド環境のアップデート、パッチ適用といった運用に透明性を持たせ、顧客のニーズに合わせた運用でクラウドを利用できる点。「顧客によっては、この日にパッチをあてたくないなど要件が異なる。これが、クラウド移行の障害になっていた」と古賀氏。富士通が提供するソブリンクラウドでは、顧客の要件に合わせた運用が可能になる。
2)は富士通が国内で運用するデータセンターから提供することで、ソブリニティを確保できる。
古賀氏は次のように話す。「経済安全保障推進法における特定社会基盤役務の安定的な提供の確保に関する制度では、15の対象事業が指定されており、対象システムの設置場所といったデータの所在や準拠法の明確化等が必要である。米国のハイパースケーラーは米国の法律に準拠している。例えば、米国から監査を要求されることも可能性としてゼロではない。ソブリニティは重要だ」。
3)は、OCIが提供するサービスと全く同じものを利用できるというOracle Alloyの特徴によるものだ。
Oracle Alloyに似た製品として、Amazon Web Servicesは「AWS Outpost」、Microsoftの「Azure Stack」、Google Cloudの「Google Anthos」などがある。ソブリンクラウドで「Oracle Alloy」を採用した理由について、古賀氏は「他が一部機能を切り出した”サブセット”であるのに対し、Oracle AlloyはOCIと完全に同じ機能を提供し、小規模なアーキテクチャで利用できる」と上記製品とは似て非なるものと説明する。
技術的な理由以上に古賀氏が強調したのは、Oracleの姿勢だ。「Oracleと6ヶ月の交渉の末、日本のソブリンクラウドの要件として我々が必須と考える項目全てに対応してくれると約束してくれた。今後のエンハンス含めて我々の要件をここまでしっかり聞いてくれる姿勢から、Oracleのソブリンクラウド、富士通に対するコミットを感じた」(古賀氏)。日本国籍を持つ人が日本でサポートするという体制についても応じることになっており、「一緒に作り上げているという感覚」と、Oracleとの協力関係を強調する。
ソブリンクラウドはニッチではない-マルチクラウドの時代へ
富士通のソブリンクラウドは2025年4月に提供を開始する予定だ。富士通では、他の国でもその国の要件を満たすソブリンクラウドの展開を考えているという。
現在はニッチに見えるソブリンクラウドだが、将来的に「ある程度の割合を占めるだろう」と古賀氏予想する。「オンプレミス回帰も見られるので、これからはハイブリッドをどのように進めていくのかが重要になる」と古賀氏は見る。
そのようなハイブリッド、マルチクラウドこそが、富士通の優位性だ。「我々はハードウェアも継続しており、富士通クラウドもある。今後はオンプレとマルチクラウドがあり、マルチクラウドでは、ソブリンクラウド、富士通クラウド、ハイパースケーラーのクラウドなどを使い分ける」と古賀氏、「それが日本のDXを加速するために重要」と考えを語った。
富士通自身の転身も進んでいる。同社は目下、社会課題解決のソリューション事業「Fujitsu Uvance」を進めるなど、サービス提供型のビジネスモデルへのシフトを進めている。全体の方向性について、「Uvanceとテクノロジーの2軸で進める」と古賀氏、なお、富士通のソブリンクラウドはUvanceのクロスインダストリーを支えるプラットフォームとしても使用する。
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