日本ラグビー協会、メディア戦略にクラウドをどう活かす?

ラグビーを身近に、欠かせない日本ラグビー界のメディア戦略

日本のラグビーを支えるのはJRFU、ラグビーリーグ「ジャパンラグビー リーグワン」を運営する一般社団法人 ジャパンラグビーリーグワン(JRLO)、ファンエンゲージを受け持つジャパンラグビーマーケティングの主に3組織だ。JRFUのメディア事業部門長として3団体と契約し、映像管理や放映権に関する業務を受け持つのが室口裕氏である。

JRFUは活動指針「Japan Rugby 2050」において、「ラグビーが世界一身近にある国へ」をミッションに、再びワールドカップを日本に招致し、世界一になることを目標に掲げている。

ラグビーを身近にする上で、メディアが果たす役割は大きい。メディア戦略を立てるきっかけとなったのが2022年のリーグワン発足だ。”トップリーグ”として親しまれた社会人リーグを、全26チーム・3部制のリーグとして再編成した。その際、それまで放送局であるJ SPORTSが制作していた試合映像を、自分たちで公式映像として制作することを決定した。

「それまで試合映像の著作権を有していなかったため、プロモーションの際に放送局などから入手する必要があった。JRFUとJRLOが公式映像制作を行うことで映像を自由に活用できるようになり、SNSやプロモーションに活用できる土壌を作ることができる」と室口氏は狙いを説明する。

だが、放送局にしてみれば映像の著作権は重要な財産だ。そこで、J SPORTSに対し、それまでの放送権売買の関係から「一緒に作る関係」になることを提案し、丁寧に時間をかけて双方が合意に持っていった。

著作権を保有することで、自社メディアでの活用だけでなく他のメディアへの提供も容易になり、メディア露出の機会が広がる。商用利用の増加は、新たな収益の柱となる可能性も秘めている。

このような新しいメディア戦略のもと、2022年より事業共創パートナーという枠組みを作り、J SPORTSとの提携を通じてリーグワンの公式映像制作を進めている。2024年からは、ラグビー協会の男子15人制の代表戦にも拡大した。

AWSと提携、クラウド活用で可能性を広げる

日本ラグビー界のメディア戦略において重要な役割を果たすのがAmazon Web Services(AWS)だ。

AWSの技術としては、試合会場から送られる中継映像をエンコーディングしてクラウド環境にアップロードする「AWS Elemental Live」、ストリーミング映像をエンコーディングするライブビデオ処理サービス「AWS Elemental MediaLive」などを採用。動画コンテンツは「Amazon S3」に保存し、プレビューや検索用のインデックス化を進めている。

俊敏性や経済合理性はクラウド共通の特徴と言えるが、エコシステムの魅力は大きかったようだ。リモートコメントシステムのSpalk(後述)など、利用したいサービスがAWS上で提供されている点は他にはない点となる。これにより、映像の受け渡しがスムーズになるなどのメリットがあるからだ。AWS上でエンドツーエンドのシステムを実現することで、互換性テストなどの開発工数を省くことができ、マネージドサービスの利用により管理負荷も軽減できると判断した。「料金体系が明確なので、納得感を持って対価を払っている」とも評価する。

AWSとの協業を通じて構築した動画・写真保管用のアーカイブシステムにより、試合中および試合直後のメディア露出が可能になった。公式SNSアカウントでリアルタイムの試合映像を配信したり、他社へのメディア提供を行うこともできる。2023-24シーズンでは、リーグワンの公式サイトで毎週1試合の生配信を実施した。映像を使う基礎は作ったものの、当初は一部チームしか活用しておらず、促進という面では今後に向けて課題も残っているようだ。

ラグビーファンに国境はない。当初からグローバル展開を視野に入れ、遠隔からコメントをつける機能を提供するSpalkと提携。2023-24シーズンでは、各節2試合をフルリモートで英語コメントを付けて衛星回線にアップリンクし、海外放送局への配信も実現している。

さらなる取り組みも進んでいる。会場からの映像をクラウドにアップリンクすることで、ビデオ判定の”テレビジョン・マッチ・オフィシャル(TMO)”を遠隔から行うことが可能になる。JRFUは2024年8月、日本女子代表の試合でクラウドを利用したTMOの実験を行い、成功した。レフリーの移動コスト、中継のための機材の運搬・設置などのコストなどが削減でき、レフリー間のナレッジの共有も進む。それだけでなく、1試合でも多くの試合が中継可能になる、と室口氏は期待を寄せる。

今後は脳震盪の疑いのある選手を一時退出させるHIA(Head Injury Assessment)にも拡大する。映像から脳震盪が発生するパターンの分析も視野に入れている。

成功のポイント:何を実現したいのかを明確に伝える

これまでの取り組みを紹介しながら、室口氏はクラウドのメリットとして効率化をあげた。実際に担当として動いているのは2〜3人、「いかにして効率化して展開するかを考えながら進めている。それを実現するのがクラウド」と室口氏は話す。

試合映像を管理するシステムはわずか3ヶ月で構築した。AWSとの良好な関係が基盤にあることは、日本ラグビー界のメディア戦略に追い風となっている。「我々は競技団体の運営がメインで、技術に詳しくない。AWSの担当者とは毎週のように打ち合わせをした」と室口氏、そこでは、疑問を一つ一つAWSにぶつけて解決を図り、AWSは豊富なクラウドサービスの中から最適なソリューションを提案、さらにはSpalkのように、AWSのパートナーネットワークを活用することで包括的な解決策を提供してもらっているという。

「商品を買うのではない。何をしたいのかの実現に向けて手伝ってもらう」と室口氏はベンダーとの関係を表現した。だが手放しでできたわけではない。最善の結果を引き出すため、打ち合わせ内容の資料は自分でまとめ、次回の打ち合わせの冒頭で自分の理解とベンダーの目線を合わせ、齟齬がないように努めた。「打ち合わせしたことを自分で言語化するのは簡単ではなかった」。このように、何をしたいのかを明確にし、きちんと伝えることが成功のポイントの1つだと強調する。

また、IT化すれば業務が楽になるというわけではなく、逆に負担が増えるケースもある。「そこは気を配った」とも。「クラウドで開発する上で、具体的な運用方法を想定しながら計画することが重要だ」という学びも共有した。ユーザーの使いやすさとシステム化の折り合いを見つけることを心がけている、と続ける。

JRFUのメディア戦略は続いている。リモートでのTMOとHIAの実用化を進めるほか、中継映像制作をクラウドで行うクラウドプロダクション、機械学習やAIを利用した選手のパフォーマンス分析やメディカル面での活用など、さらなる展開を計画している。



Read More from This Article: 日本ラグビー協会、メディア戦略にクラウドをどう活かす?
Source: News

IT infrastructure: Inventory before AIOps

There is hardly a topic where digital heritage (or “legacy”) plays such an important role as in infrastructure. The inventory in your own data center is crucial when answering the question of which technologies can be used in the medium term. The awareness gained in the process often leads to a “grounding,” also in management:…

‘Living heart project’: una historia de innovación y resiliencia frente al diagnóstico conmovedor de un hijo

El refranero español es sabio. Quien tiene voluntad, tiene la fuerza. Un viejo proverbio que Steven Levine, director sénior de Human Virtual Modelling en Dassault Systèmes, encarna a la perfección. La suya es una historia de determinación, innovación y resiliencia parental. Él mismo relata en primera persona para CIO España cómo surge el proyecto Living…

칼럼 | 美 정부가 민간에게 배워야 할 ‘클라우드 스마트’

클라우드 컴퓨팅은 수년 동안 정부 IT 전략의 최전선에 있었다. 클라우드 컴퓨팅이 2008년 처음 등장했을 때, NIST가 클라우드 컴퓨팅의 정의 작업에 앞장섰던 것처럼 정부 기관이 길을 닦기도 했다. 필자는 당시 정부 기관과 긴밀하게 협하면서 모든 과정을 지켜보았다. 당시 미국 최고정보책임자(CIO)였던 비벡 쿤드라가 클라우드 우선 전략을 추진했고, 많은 기관들이 클라우드가 정부의 미래가 될 것이라고 약속했다. 그러나 현실은…

칼럼 | DOGE의 직원 해고, 심각한 데이터 유출이 우려되는 이유

내부자 리스크와 조직 내부에서 일어나는 위협, 그리고 이런 위협이 현실화하기 전에 선제적으로 대응하는 방법에 대해 많은 논의가 이뤄지고 있다. 도널드 트럼프 미국 대통령의 비용 절감 조치에 대한 개인적 견해와 별개로, FBI, CIA, 사이버보안 및 인프라 보안국(CISA) 등 기밀 영역 직원들을 대규모로 해고하기로 한 결정은 내부자 리스크를 크게 증폭시킬 가능성이 높다. 트럼프 대통령은 2021년 1월 임기를…