IT変革の旗手:IT戦略室長が語る関西電力のDXビジョンとは
マーケティングや広報業務などにも従事して様々な部署を経験、格安スマホのmineo(マイネオ)をファンと共に成功に導き、その後IT戦略室長へ 1972年に生まれた私は、大学と大学院で情報工学を専攻し1997年、関西電力に入社しました。IT部門では技術的な検討や戦略立案、組織、人事管理などを担当してきました。 2016年、情報通信子会社のオプテージ(当時はケイ・オプティコム)に出向し、格安スマホのサービスの「mineo(マイネオ)」の責任者として戦略、マーケティング、ファンベースの推進などに取り組みました。 2019年に広報室でデジタル広報・広告に従事した後、2021年にはIT戦略室のIT企画部長、2024年にIT戦略室長に就任しました。 特にmineo(マイネオ)での3年間はやりがいがあり、事業戦略やマーケティングの責任者をさせていただき、その時、このサービスの差別化要因というのが「単なる格安スマホとして料金が安いだけでは競争に勝てない」と思ったのです。 当時、全国に約1,000社の格安スマホ事業者が存在しました。その中でmineo(マイネオ)の独自の価値を見つける、「ファンとの共創」を強力に推進しました。ファンと共に価値を創ることを目指し、3年間にわたりファンベースの考え方を大切にしました。 ファンと直接会って話をしたり、イベントを開催したり、時にはお酒を飲みながら交流し、良い関係を築きました。この期間はファンと共にmineo(マイネオ)を成長させた実感があります。 ブランド化へ導くまでに「答えのない中で自分なりの答えを見つける」、これが最大のチャレンジ 最大のチャレンジは、日本国内にファンとの共創を実践する通信事業者がいなかったことです。当時の通信事業者は事業者目線や殿様商売のイメージが強かった中で、mineo(マイネオ)は「ファンとの共創」を重視しました。 教科書がない中で、「Fun with Fans!」というブランドステートメントを掲げ、ファンと一緒にブランドを作り上げました。ファンからのフィードバックを受けながら、ブランドを地道に改善し、契約数を増やしました。その結果、契約数は着任時の30万件少々から約120万件に増加し、顧客満足度ナンバーワンも多数獲得しました。 「答えのない中で自分なりの答えを見つけられたこと」が最大のチャレンジでした。 ITを武器に経営課題を解決:持続可能な価値創造の秘訣 いろいろな方からアドバイスをいただき、その中から得る事ができたことを「方程式」にまとめたいと思います。 「課題 × IT = 価値 ⇒ 成果 ⇒ 変革」 この方程式を解くにはまず課題を発見します。いわゆる経営課題や業務課題などです。IT部門は、これらの課題を解決するための手段としてITを掛け算します。つまり、ITは手段であり、目的ではありません。 そして何のための手段かというと、経営課題や業務課題を掛け算する、解決するための手段・武器としてのITを使って、そこから何の価値が生まれるのか?を見つけます。 その価値は誰にとってどんな価値なのかを徹底的に考え抜いた後、その価値が成果として提供され、アウトプットとなって顧客に届いているのかを意識します。さらに、その成果を出し続ける事を継続して繰り返すことで、変革が生まれると考えています。 より具体的なIT戦略室長の仕事観、やりがいや魅力に焦点を当て、リーダーシップやITリーダーへの効果的なアドバイスなど、上田氏に話を聞きました。詳細については、こちらのビデオをご覧ください。 IT戦略室長のやりがい、魅力について: 現在、IT戦略室ではDXの推進と情報セキュリティの確保に取り組んでいます。このうち、現在はDX、特に生成AIの適用が重要であり、2023年は生成AI元年としてチャットGPTが世の中に広まり始めて以降、ビジネスユースケースへの適用が多数進展しています。 このような環境変化の中で、ネットスラングである「JTC」という言葉は、「ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー(古い企業体質の日本伝統的企業)」の略称ですが、「石橋を叩いて、叩いて、壊れて、誰も渡らない」という決して良いイメージの言葉ではなく、日本の企業がなかなか変われないことを揶揄しています。もしかすると、皆さんからは関西電力もJTCのようななかなか変われない企業と見られているかもしれません。 そうではなくて我々は「AIファーストカンパニー」に少しでも近づきたいと考えています。「AIをどこに活用するかではなく、AIがあることを前提に業務をどう変えるか」を重視しています。この考え方で生成AIを適用していきたいです。 「AIファーストカンパニー」に近づくための重要成功要因は「いかに早く、たくさん失敗するか」だと思います。しかも失敗を単なる失敗で終わらせるのではなくて、そこから学び、どうすべきか考え、次の成長に活かすことが重要です。 そのような発想で早く多くの失敗を重ね、そこから学び、方向転換しながら成長していく。私はいつも例えて言うのですが、JTCの経営は「フルマラソン」に似ているなと思います。 42.195キロですね。距離やコースは決まっています。最初から飛ばさず、皆がペースを守って最後までゴールする。それが目的で、JTCはそのようなイメージです。 一方、経営というものは走っている間に「ゴールが変わったり、見えなくなったり、その方向じゃないよ」というようなことがあると思うのです。そのような中で「AIファーストカンパニー」の動き方は基本、アジャイル経営で「100m × 422本連続ダッシュ」で走るイメージです。まず100mを全力で走りました。走った後、その走った方向が合っているのかどうか?を確認します。時には走っている間にゴールが変わったり見えなくなったりすることもあります。だから、100mごとに振り返り、方向が合っていれば進み、間違っていれば修正する。このプロセスを422回繰り返すことで、フルマラソンと同じ距離を走ることになりますが、結果的には早くゴールにたどり着けると考えています。我々の経営はこのようなものを目指していきたいと思います。 リーダーシップに関して、成功するためにマネジメント層に必要なことは何ですか? DXを加速するための要諦は、以下の8つになります。 危機感と機会の捉え方: 健全な危機感を持ち、新たなチャンスを見つける ここで言う危機感とは、単に恐れることや怖がることではなく、健全な危機感です。現状のままでは世の中の流れについていけず、いずれ衰退してしまうという危機意識を持ち、その中から新たな変革のチャンスを見つけるための危機感です。この危機感を全社で共有することが1丁目一番地として重要です。 顧客視点: IT部門にとっての顧客を常に意識する 私がmineo(マイネオ)のときに学んだことを活かし、社内のIT部門であっても、最初に考えるのは顧客視点です。IT部門にとっての顧客は、「経営層、事業部門、全ユーザー、グループ会社、パートナー会社」などの「満足させるべき人たち」です。常に顧客視点を持つことが重要です。 わくわくするビジョン: みんなが共感できる将来像を描く みんながわくわくするようなビジョンを描くことです。ITやDXで実現したい将来像を明確にし、それに向かって楽しみながら進むことで、やる気が湧いてきてやりがいも出てきます。 人材の重要性: スキルとマインドを持つDX人材を育てる 人材の重要性を挙げたいと思います。DX推進にはスキルとマインドが必要です。リテラシーの向上と改革のマインドセットが両方とも大事で、それを実行できるDX人材の育成が重要です。 データマネジメント: 鮮度の高いデータを活用し、AIモデルを構築 「データマネジメント」は非常に重要です。AIの活用には精度・鮮度の高いデータが不可欠であり、会社内でのデータ管理が鍵となります。データを活用してAIモデルを作り、分析や新たな知見を得るためにも、「データマネジメント」は欠かせません。これを仕組み化し、定着するまで継続して実行することが重要です。 挑戦する風土: 安心して失敗できる組織風土を作る DXは挑戦です。単に「どんどん挑戦していいよ」と言うだけでは続きません。失敗を恐れる人や、過去の失敗で挑戦を避ける人もいるかもしれません。だからこそ、「安心して失敗できる組織風土が重要」です。私たちが取り組んでいるのは「心理的安全性」の確保です。これにより、話しやすい職場、助け合う文化、挑戦と新しいアイデアが生まれる環境が整います。「心理的安全性」が確保された職場では、挑戦が促進され、失敗から学び、それを次に活かす文化が育まれます。 ITの役割: 経営課題や業務課題を解決する手段としてITを活用 ITは手段であり、経営課題や業務課題を解決するためのものです。経営課題や業務課題にITデジタル技術を掛け合わせることで課題解決を目指し、価値を提供しながら成果を出す変革を進めていきます。 強力なリーダーシップ:効果的なリーダーシップを発揮する 強力なリーダーシップは重要です。特に「変革型リーダーシップ」と「共感型リーダーシップ」をどのように使い分けて発揮するか、その観点が非常に大切です。…